AI駆動型プロダクトのためのストーリーボード作成 ― 第1回:AI プロジェクトにストーリーボードが必要な理由と、自分で描くべき理由AI 主導プロダクトのためのストーリーボード
「UX for AI」のグレッグ・ヌーデルマン(Greg Nudelman)氏のブログ記事の翻訳です。
原文:https://www.uxforai.com/p/need-storyboard-ai-project-draw
2024年8月9日
AIプロジェクトでは、ストーリーボードを使って自分たちの物語を効果的に伝え、プロジェクトのUXビジョンをユーザーや関係者に共有します。ここでは、ChatGPTやMidjourneyではなく、鉛筆で自分自身のストーリーボードを描くべき理由を説明します。
古代エジプトの壁画から、現代の広告や漫画に至るまで、人は「絵」と「言葉」を組み合わせて、より強いインパクトを生み出してきました。
言葉+絵=より大きなインパクト
AIプロジェクトにおいて、ストーリーボードは物語を効果的に伝え、まだ芽生えたばかりのプロジェクトのUXビジョンをユーザーや関係者に届けるために使われます。
なぜストーリーボードが必要なのか?
「ストーリーボードなんて必要なのか?要件リストだけで十分ではないか」と思う人もいるかもしれません。次のAIプロジェクトでストーリーボードがどれほど役立つかを示すために、「Mood Ring」という事例を紹介しましょう。
この事例は、私がサンフランシスコ州立大学で担当しているUXデザインの授業で、学生チームが取り組んだ演習の一つです。授業では各チームが自由にユースケースを選び、最初の課題として「自分たちのプロダクトがどのように機能し、どのような価値をもたらすか」を他の学生(関係者役)に伝えるため、ストーリーボードを描くことが求められました。その中のあるチームは、「Mood Ring」というAI駆動のプロダクトを構想しました。これは持ち主が落ち込んでいるときにそれを検知し、気分を改善しようとするアプリです。チームの一人が次のストーリーボードを描きました。
ストーリーボードA(出典:SFSU UXデザイン授業)
ここで少し説明が必要です。
- 物語は自宅から始まる。
- 主人公はコーヒーを飲んでいます。
- 彼女は悲しい気分です。
- 気分トラッカーを開きます。
- いくつかの質問に答えます。
- すると突然、まるで魔法のように…ああ、気分が良くなります!
これは実現可能なプロダクトに見えますか?クラスの他の学生はそうは思いませんでした。AIプロダクトとして成立し得るアイデアの芽はあるかもしれませんが(後で触れます)、このストーリーボードでは価値がどのように提供されるのかが描かれていません。
同じチームが描いた別の例を見てみましょう。
ストーリーボードB(出典:SFSU UXデザイン授業)
ストーリーボードBでは、
- 物語は渋滞から始まる(四角い枠は10車線の高速道路に詰まっている車を表している)。
- 主人公は渋滞にはまり、運転している。
- 主人公はスマートフォンを開きます(渋滞中に誰でもやることだと思うかもしれませんが…いえ、絶対におすすめしません!)。
- 不明な相手との激しいメッセージのやり取りが描かれている(これも運転中には絶対にしてはいけません)。
- 何かが起こる…。
- 写真をアップロードしたりメモを取ったりする場面がある。
- どうやら主人公の気分を良くするのが目的だったようですが、デザイナーが物語を最後まで描ききらなかったため、そのまま尻すぼみになったと推測されます。
これは実現可能なプロダクトでしょうか?
なぜAIプロジェクトは失敗するのか
多くのAIプロジェクトが失敗する理由は、問題の枠組みを正しく設定できず、その結果、プロダクトやサービスに需要が生まれないからです。説得力のある物語を語れなければ、成功の可能性はありません。
ストーリーボードを使えば、設計に時間や労力を投入する前にこの問題を解決できます。まとまった物語がなければ、成功するプロダクトを生み出すチャンスはありません。
先ほど触れたように、「Mood Ring」のユースケースには物議を醸すアイデアの芽があります。それはAIツールを用いて精神医療を強化するというものです。例えば診断精度を高め、治療計画を個別化するAI活用については、Michael Asbachが『Psychiatric Times』誌に寄稿した記事「AI in Psychiatry: Things Are Moving Fast」で紹介されています。
このユースケースを例に、ChatGPTに「Mood Ring」のストーリーボードを作らせてみました。
ストーリーボードC(出典:ChatGPT-4o)
ふむ…少なくとも、私の学生たちはまだUXの仕事を失うことを心配する必要はなさそうです。
もしかすると、このユースケース自体が難しすぎたのでしょうか?
それでは「Mood Ring」のユースケースを別の角度から試してみましょう。
「内気で不器用な若者がコーヒーショップでひとり座っている。彼は恥ずかしがり屋で社交的に不器用なため、かわいい女性に声をかけられない。そこで彼は“ムードリング”というAIアプリを立ち上げる。このアプリは拒絶を恐れず、気持ちを素直に伝えるよう彼を勇気づける。アプリには会話を始めるためのチェックリストがあり、『深呼吸する』『笑顔を見せる』『本を褒める』『興味を尋ねる』といった項目を示す。女性は彼のアプローチに好意的に応じ、ふたりは楽しく会話を始める。不器用な若者とその女性は一緒にコーヒーショップを出ていき、恋が芽生える。」
このシナリオをChatGPTに入力すると、次のような文章によるストーリーボードが生成されました。
(※ここの説明は全てのシーンとパネルが英語で詳述されていました。翻訳すると長文になるため、シーンごとに訳します。)
シーン1:コーヒーショップの店内
- パネル1:温かい照明の店内に数人の客がいる広いカット。不器用な若者が隅の小さなテーブルに座り、不安そうにカップをいじっている。
- パネル2:若者の顔のクローズアップ。神経質な表情で、数席離れた場所に座るかわいい女性を見ている。
シーン2:アプリの登場
- パネル3:若者がスマートフォンを開き、AIアプリを表示する。画面には「恐れを克服し、会話を始めよう!」と表示。
- パネル4:アプリのクローズアップ。チェックリストが表示される。「1. 深呼吸する。2. 笑顔を見せる。3. 本を褒める。4. 興味を尋ねる。」
シーン3:チェックリスト
- パネル5:分割画面。片方はアバターがサムズアップし「君ならできる!」と表示。もう片方は若者が深呼吸し、微笑みを浮かべる。
- パネル6:若者が立ち上がり勇気を振り絞る。アプリの画面が「落ち着いて笑顔で」と表示。
シーン4:アプローチ
- パネル7:若者が女性のテーブルに近づき、ぎこちなく立つ。女性は驚いて見上げる。
- パネル8:女性が微笑み、彼を席に招き入れる。
シーン5:会話の流れ
- パネル9:横からのカット。二人が笑いながら打ち解けた会話をしている。若者の緊張は解け、自信を持っている様子。ポケットから見えるアプリ画面に「Great job!」の通知。
シーン6:一緒に店を出る
- パネル10:二人が荷物を持ち、並んで店を出る広いカット。
- パネル11:店の入口を背景に二人が去っていく。アプリ画面には「任務完了:恋が芽生えました!」と表示。
シーン7:エピローグ(任意)
- パネル12:アプリの画面。「次のデートを計画しよう!」という新しい通知が表示され、若者が笑顔になる。
この文章のストーリーボードは実に素晴らしいものでした。
残念ながら(いや、人間にとっては幸いにも)、ChatGPTはビジュアルのストーリーボードを作るのが非常に不得手です。
ストーリーボードD(出典:ChatGPT-4o)
なぜかMidjourney /imagineはさらにひどい結果になります。
ストーリーボードE(出典:Midjourney)
とはいえ、生成AI好きにとって幸いなことに、AIを使ってビジュアルのストーリーボードを作ることは可能です。ただし「1画面ずつ」生成する必要があります。
Mood Ringを1パネルずつ生成する
Midjourney /imagine を使って、
(以下は生成指示の翻訳)
- 「鉛筆スケッチ風のストーリーボード。人で賑わうコーヒーショップ。比率1:1」
- 「鉛筆スケッチ風のストーリーボード。不器用なオタクがパーティで一人で座り、スマホを操作している。比率1:1」
- 「鉛筆スケッチ風のストーリーボード。スマホの画面にチェックリストの輪郭。比率1:1」
- 「鉛筆スケッチ風のストーリーボード。不器用なオタクがコーヒーショップでかわいい女性と会話し、笑顔。比率1:1」
- 「鉛筆スケッチ風のストーリーボード。不器用なオタクがかわいい女性と並んで歩き、彼女の頭上にはハートの風船。背後からの視点。比率1:1」
これがMidjourneyで1パネルずつ生成した完成ストーリーボードです。
ストーリーボードF(出典:Midjourney、一画面ずつ
そしてこちらが私が付箋を使って自分で描いたストーリーボードです。
ストーリーボードG(出典:Greg Nudelman)
ご覧の通り、FもGもほぼ同じ物語を語っています。ではなぜ、わざわざ自分で描くべきだと言うのでしょうか?
自分でストーリーボードを描くべき理由
時間と労力。 Midjourneyで1パネルずつ生成するのに1時間半以上かかりました。一方、自分で描くスケッチは1分半ほど。つまり60倍も速いのです。
集中: AIツールを操作している間、私はユーザーの気持ちに共感したり、このアプリが本当に役立つか考えたりしていませんでした。ツールに気を取られて、物語に集中できていなかったのです。
質: AI生成の絵は精巧ですが、パネルごとに細かい違いが出てしまい、視線がその違いに引き寄せられ、物語から注意がそれてしまいます。一方、自分のラフなスケッチは「未完成感」が逆に強みとなり、読者はストーリーそのものに集中できます。
心と描画のつながり:人が鉛筆を手に紙に向かうとき、五感や感情が同時に働き、物語の世界に没入します。これを私は「心と描画のつながり」と呼んでいます。この感覚は、コンピュータに絵を描かせているときには決して生まれません。
まとめ
ChatGPTやMidjourneyが一度に完全なストーリーボードを作れるようになるまでは、労力に見合いません。鉛筆と付箋を使って、自分でストーリーボードを描く習慣をつけてください。
仮に生成AIが将来、確実にストーリーボードを作れるようになったとしても、自分で2〜3分かけて描く価値は残ります。なぜなら、描くことは人間のための、人間による行為だからです。想像力を解き放ち、世界とのつながりを感じるために必要なのです。私はこれを「心と描画のつながり」と呼んでいます。自分の手で描くことが持つ力は本物であり、決して軽視してはいけません。
何より、ストーリーボードを楽しんでください。大人になってから「8歳の子どもに戻ったふりをして価値を生み出せる」貴重な機会です。そしてそれこそが、UXデザインを特別で魅力的な職業にしている理由のひとつなのです。
平和を込めて
グレッグ
>AI駆動型プロダクトのためのストーリーボード作成 ― 第2回に続く
ワークショップのご案内
2025年11月15日「AIと共創する次世代プロダクトデザイン」のワークショップに参加して、RAGの内容も含めたAIプロダクトデザインを学びましょう!
>>2025年11月15日「AIと共創する次世代プロダクトデザイン」の特設ページでお申し込みください。