TOP 思考・マインド UX for AI──発明と特許のガイド(前編)

UX for AI──発明と特許のガイド(前編)

本稿は、2025年11月15日に開催される「UX for AIワークショップ」の講師グレッグ・ヌーデルマン(Greg Nudelman)氏による「UX for AI Guide to Inventions and Patents (Part 1)
」のブログ記事の翻訳です。

原文:
https://www.uxforai.com/p/ux-for-ai-guide-to-inventions-and-patents-part-1

AI駆動型デザインプロジェクトにとって、想像力の欠如ほど有害なものはありません。
本稿では、歴史に名を残した科学者や発明家たちの代表的な手法を取り上げ、それを自分のAIプロジェクトのブレークスルーにどう活かせるかを解説します。

著者:グレッグ・ヌーデルマン(Greg Nudelman)
2024年11月1日

アインシュタイン:知識よりも想像力

私はこれまで34件のAI駆動型プロジェクトを設計・リリースしてきました。その経験から言えるのは、AIを導入する際に最も大きなダメージを与えるのは「間違ったユースケースを選んでしまうこと」です。

そして、それに次ぐ失敗の要因が「想像力の欠如」です。

アインシュタインはそのキャリアの中で、こう語りました。

「知識よりも想像力のほうが大切だ。」

もし彼が理論の最終形を思い描けず、さまざまな要素がどう組み合わさるかを心に描けなかったなら、多くの難題を乗り越えることはできなかったでしょう。

幸いなことに、現代のデザイナーがAIについて知識を持ちすぎて困ることはあまりありません。むしろ必要なのは「想像力」です。

古いUXパターンはAI時代には通用しないことが多いのです。新しいデザインパターンを発明し、新しい思考モデルを試すことこそが、デザイナーの腕の見せどころです。たとえば「ビジョン・プロトタイプ」を作るのは、その好例です。
https://www.uxforai.com/p/essential-ux-for-ai-techniques-vision-prototype

AI駆動型プロダクトは全く新しい種類の製品であり、独自の課題を突き付けてきます。それに取り組むには、大胆でオリジナルな発想と、AIに関する基本的な知識が必要です。想像力を使い、リーン、ラピッドプロトタイピング、RITEテストといったコアUX原則を組み合わせて、古いパターンを打ち破ることができるデザイナーこそ、素晴らしい未来を創る一員になれるのです。


レオナルド・ダ・ヴィンチ:想像力を羽ばたかせよ

レオナルド・ダ・ヴィンチは、画家、製図家、技術者、科学者、理論家、彫刻家、建築家──まさにルネサンスの万能人でした。UX STRATカンファレンスの主催者ポール・ブライアンが私にこう言ったことがあります。

「レオナルド・ダ・ヴィンチこそ、最初のUXデザイナーだ。」

私も全く同感です。

彼はモナリザを描いただけの人ではありません。常にスケッチを続けていました。

多くのアイデアは現代から見れば突飛な空想で、実現できないものばかりでした。それでも彼は粘り強くアイデアを書き留め、大きな問いを投げかけ続けました。

「鳥はどうやって飛ぶのか? 人間はどうすれば飛べるのか?」

彼はその問いに対して10案、20案、30案と描き続け、必要に応じて模型も作り、検証しました。ただし、スケッチだけで頭の中で十分に試せる場合は、わざわざ模型を作ることはありませんでした。

レオナルドから学ぶべきことは多くあります。

  • 大胆に挑戦すること
  • 思索の時間を確保すること
  • 絵を用いて考え、記録すること

私たちも彼のようであるべきです。

人類が飛行機を実現するまでに膨大な試行錯誤があったように、AIとどう向き合うかを学ぶのは、飛行の仕組みを解明するよりさらに難しいかもしれません。しかし、その先に待っている報酬は、飛行の発明に勝るとも劣らないものになるでしょう。

UXデザイナーとして、野心的であれ。大きな夢を持ち、数多くスケッチし、アイデアを素早く取捨選択するのです。ノートと鉛筆を常に手元に置き、ひらめきを逃さないこと。そして忘れてはならないのは──大きな夢の大半は単なる踏み石にすぎないということです。そこから学び、より良いアイデアへと進んでいけばいいのです。


トーマス・エジソン:速く安く試作し、特許を取れ

トーマス・エジソンは、アメリカの産業的楽観主義と不屈の精神を体現した発明家であり起業家でした。

失敗をどう感じるか尋ねられた彼は、こう答えました。

「私は失敗したのではない。うまくいかない方法を一万通り発見しただけだ。」

また、彼はこうも語っています。

「電球とは1000ステップ目の発明である。」

エジソンは実験の効率と精度を高めるため、さまざまな素材を電流に通して寿命を測定する実験室を整えました。彼のやり方は常に「早く失敗し、素早く学ぶ」ことに集中していたのです。

もし彼がある素材に固執していたら、成功はなかったでしょう。現代のデザイナーが失敗したアイデアにしがみついてしまうことの、なんと多いことか。

エジソンのように「神聖視されているもの」を冷静に捨て、次に進む力は、AI時代にこそ必要です。

さらに重要なのは、彼が「電球を発明した」のではなく「安価で実用的なシステムを発明した」ことです。

  • 手頃で長持ちするフィラメント
  • 電球ソケット
  • 電流

この三つを組み合わせることで商業的に大きなチャンスを作り出し、世界に電灯を広めました。

「電気を非常に安くして、金持ちだけがロウソクを灯すようにする。」

エジソンの言葉です。

そして彼の特筆すべき点は「特許」への愛情でした。米国だけで1,093件、世界全体で見ても最も多くの特許を取得した発明家の一人です。

私はGEに在籍していた頃、この精神がまだ息づいていることを体験しました。ある会議でUXデザイナーとしてAI特許を提案したところ、有力なエンジニアリングリーダーから「UXが発明を語るなどおこがましい」と強く反対されました。

そのとき、一人の特許弁護士が私を擁護してこう言ったのです。

「ここはエジソンの会社だぞ。誰かが発明家になれないなどと侮辱するとは何事か。もちろん誰もが発明できるわけではないが、GEにおいては価値あるアイデアさえあれば誰でも発明家になれる。
このアイデアは間違いなく価値がある!」

この言葉は今も私の胸に残っています。

UXデザイナーであっても発明に挑戦すべきです。特許弁護士と仲良くなり、特許の読み方や請求項の書き方、良い図面の作り方を学ぶべきです。AIで成功するには、オリジナルな発想とシステムレベルでのブレークスルーが不可欠なのです。


アントニ・ファン・レーウェンフック:道具は目的達成の手段にすぎない

アントニ・ファン・レーウェンフックは「顕微鏡の発明者」と呼ばれています。彼はレンズ職人の息子で、複数のレンズを組み合わせて像を結ぶ世界初の実用顕微鏡を作り上げました。しかし、彼の本当の功績はその顕微鏡を使った数々の発見にあります。

細菌、赤血球、精子、原生生物、線虫やワムシ、有孔虫、そして微生物が腐敗を引き起こす証拠……。彼は顕微鏡を通じて、数え切れない発見をしました。

レーウェンフックが打ち立てた最大の功績は、微生物学という学問そのものを確立したことです。

彼にとって顕微鏡は「道具」にすぎませんでした。目的はあくまでその先にある発見です。

ところが現代のUXデザイナーの多くは、自分の仕事を「Figmaのワイヤーフレームやモックアップ」と同一視してしまっています。これは「道具思考」であり、発想力を制限する危険な考え方です。

本当に必要なのはレーウェンフック的な発想──Figmaやその他のツールは目的達成の手段にすぎないと認識し、その先にある価値や発見に集中することです。

ツールは確かに重要です。顕微鏡の発明が微生物の世界を切り開いたように、Figmaも役立ちます。しかし、それ自体が目的ではありません。

私たちはもっと大きく考えなければならないのです。

ちなみにレーウェンフックの父親はレンズ職人でした。幼い彼の周囲には、廃棄されたレンズが散らばっていたはずです。おそらくそれで自由に遊び、発明の土台を築いたのでしょう……。


まとめ

AI時代に必要なのは、アインシュタインの想像力、ダ・ヴィンチの探究心、エジソンの失敗を恐れない実行力、そしてレーウェンフックの「道具を手段とする姿勢」です。

この四人の巨人の教えは、私たちがAI駆動型UXの未来を切り拓くための指針になります。

──後編へ続く。

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UX DAYS TOKYO (代表) 見た目のデザインだけでなく、本質的な解決をするためにはコンサルティングが必要だと感じ、本格的なUXを学ぶため”NNG”に通い日本人としてニールセンノーマンの資格を取得。 業績が上がる実装をモットーにクライアントから喜ばれる仕事をしています。

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