UXコンサルティングでプロダクト開発のプロジェクトに参画すると、定量調査をメインに扱っているマーケティング部とミーティングする機会があるのですが、どうしても理解し合えなく話が進まないことがあります。
よくある「定量データVS定性データ」的なところもあるのですが、話をしていくうちに、定性データの調査方法を知らないのだ、と感じたので記事にすることにしました。
定性調査の理解
定性調査は、インタビューして、ユーザーの意見を聞くところから始まります。同じインタビューをしたとしても、分析者によって、結果が異なるのが定性調査の難しいところです。
例えば、「好きです。」という言葉をユーザーが言ったとしても、理由が異なる可能性があります。
- 本当に大好きで好きと答えた
- インタビューの雰囲気で言っただけ
- 好きな要素があるかわからないけど、嫌いではないから好きと言った(妥当な選択がなかった)
等が考えられます。
そのため本来は、ユーザーのインサイト(本音)を探る必要がありますが、インタビューが下手な人は、ユーザーの言葉を鵜呑みにします。
では、上手なインタビュアーはどうしているのでしょうか?
上手なインタビュアー人は、「本当にそうか?」を探る
私はUXデザイナーを「刑事・探偵」だと伝えています。事件関係であれば、被疑者や依頼人が本当のことを言っているかが問題で、いろいろな質問をして真意を探っていきます。
質問に回答した言葉の発し方・仕草・トーンなどで、嘘かどうかを見極めます。
ユーザビリティの被験者(実験者)を疑うのは良くないですが、そのくらいの心構えで望む必要があります。
ユーザーも、ひとつひとつの行動を意識的にしているわけではありません。8〜9割が直感的で(システム1で)無意識に行動しています。無意識に感じているものを、即座かつ的確に表現出来る人などまずいません。
インタビューを通して、どのように感じるのか、ユーザーも気にしていない感情を呼び覚ましてあげましょう。
(ただし、無理に深ぼると、感じてもいないようなことを発言することもありますし、不必要な情報が紛れ込むので分析しにくなります。誘導しない配慮は必要です。)
同じ人による同じ商品の評価でもコンテキストで数値が変わる
感情(定性)を調査するのは、とても難しいです。「毎日同じカレーを食べて感想を記載する」という調査を、自分がされていると思ってください。不思議と美味しいと思える時とそうでない時がありますし、開始から数日を過ぎると飽きてきますね。
同じ商品でも、日数というコンテキストによって味の捉え方や評価は変わります。そもそも、お腹が空いてなければ美味しいとも感じないはずです。同じ人間が同じ商品を評価するのに、その日の体調や気分によって結果が異なるのです。そんな結果をコト細かく分析しようと思っても意味がありません。
定性データを「好き嫌い」の5段階で数値化することはできます。しかし、上で述べた通り、人間にはブレがあるので、それを絶対なデータと捉えてしまうのは危険です。
数値になっている分、わかりやすいというメリットはありますが、調査目的によって使えない場合があります。また、定性データの真偽もチェックする必要があります。その上で、数値を分析していきましょう。
定性を数値(メトリクス)化して利用することはたくさんあります。定性のメトリクスについては別の機会に記載します。
定性調査でやるべきこと:どうやって深堀りするのか?
定性データは、一個人を通した感情的なデータです。そんな一人の意見なんて。とバカにする方もいますが、貴重な意見を聞ける大切な調査です。ただ、アンケートでも取得できるような表面的なデータをとっても意味がありません。
せっかくの定性調査なので、刑事さんになった気分でユーザーのインサイトを見つけていきましょう。定性調査でやることは、その感覚を言葉にしてもらうことですが、偽りの感情を表現してもらっても意味がありません。
なぜそう思うのか?原因に辿り着くまで自然な形で質問していきましょう。
マイクロソフトのイルカ(カイルくん)を、なぜ邪魔だと思ってしまうのか?

UX界隈のイベントでは、かつてマイクロソフトOfficeで表示されていたイルカのカイルくんが悪い例として話題にあがります。「お前を消す方法」という言葉がインターネット上で広まったことを覚えている方もいらっしゃるかもしれません。
古いネタだ。と笑う人もいますが、ユーザーは、なぜマイクロソフトのカイルくんを消したくなるほどウザいと思うのか考えたことはありますか?
検索すれば、まともな回答が帰って来ない。などもクレームを見つけることはできます。しかし、具体的にどう駄目なのか、ユーザーに聞く必要があります。これが深堀りです。
・それは、いつのタイミングで「ウザい!」と思うのか?
・ネーミングのせいなのか?
・キャラクターのせいなのか?
ネタが古いかろうがどうでも良くて、その問題に対して的確に問題を抽出し、解決できるかがポイントになります。
マイクロソフトOfficeのカイルくんについて深く考えた人はどのくらいいるでしょうか?
私達UXerは問題発見のために、定性調査でヒントを得ていくのです。駄目なUIやプロダクトを否定するのは簡単です。否定だけでなく、何が問題なのか?改善策はなにか?、常に考えていきましょう。
(UXマンガ)悪いUIを指摘するだけでは一般人。論理的に指摘し改善するのがプロ
同じ広告でも、目に入るものと無視してしまう情報の違いってなんなのか?
カイルくんの例と同じように、私達が毎日作っているクリエイティブなモノもユーザー視点でどのように見えるのか検討しましょう。
広告であれば、具体的に広告デザインを見せて、思ったことを発言してもらうことも良いでしょう。広告バナーのチェック体制は社内だけで済んでいる企業も多いですが、ユーザーチェックが入ることで、クリックしてもらえる質の高い広告を出すことができます。
近年では、ニューロマーケティングで脳の反応を見ることもできます。ただし、脳の反応を見るニューロマーケティングでも結果的に、どれに反応したのかをユーザーに聞く必要がでてきます。
定性調査も定量調査もニューロマーケティング調査でも一長一短があるので、プロダクトの内容の目的に合わせて使うことをオススメします。
(まとめ)定性調査のやり方
- インタビューを含めた定性調査は、ユーザーのインサイトを知るために、(刑事さんのように)深堀りして質問していきましょう。インタビューの目的があれば、蛇足の質問をしながらも確信につく質問ができるようになります。
- ユーザーの顔色・トーンなどを見て判断しましょう。
- 嘘をついているユーザーの言葉があるので、テキストデータや数値化された数だけで判断してはいけません。
コンテキストなど、日によって変わる感情をスコアリングしても意味はありません。数値化した定性調査で見えるものもありますが、場合によっては無駄なだけでなくプロダクトの方向も変えてしまうので注意しましょう。