書籍「行動経済学見るだけノート」「行動経済学ノート」「ナッジ!?」の3冊を読書会で取り上げました。これまでにもバイアスについて認知心理学の書籍等で学び、ワークショップに参加することでナッジについて理解していましたが、読書会を通してまた新たに考えるきっかけになり、深く捉えるようになりました。UXデザイナー含め、プロダクトの設計をする人であれば、深く考えるべき内容です。
行動経済学とは?
経済学は、人々の経済活動を研究する学問で、労働、生産、所得、消費、貯蓄、投資など、私達の日常生活の行動原理やその波及効果を分析しています。その根底として、人は合理的な生き物だという杓子で作られています。
それに対して、行動経済学は、人は合理的な生き物ではなく、状況や心理的要素・バイアスで行動も変わるという前提の元、人が実際に行動した結果を評価します。
ナッジの2つの側面
ナッジは、人の心理や認知バイアスを知ることで設計できるようになります。「システム1:無意識に働きかけ良い道に促す」側面と「システム2:自分の判断が出来るように諭す」という2つの側面があります。
どちらにもしても、相手の目的達成を前提に良い方向に促す・諭すことがナッジですが、心理・認知バイアスを使って人を騙そうとする設計があり、スラッジと呼ばれています。この業界で言えば、ダークパターンにあたります。
また、ナッジの手法だけが先行して、相手の達成したい目的が後付されている事象は、ファジーナッジと呼ばれています。
- ナッジ:相手の利益を元に、心理や認知バイアスを利用して促す・諭す方法や設計
- スラッジ:心理や認知バイアスを利用して相手を騙す方法や設計
- ファジーナッジ:相手の利益は後回しに、ナッジ手法だけを取り入れる事象
参考:https://www.nttdata-strategy.com/assets/pdf/services/nudge/Nudge_SS4.pdf
何をもって”良いこと”なのか?
リバタリアン・パターナリズム
ナッジには、リバタリアン・パターナリズムという哲学の上に成り立っています。
リバタリアン(Libertalian)は、「自由至上主義を主張する人」という意味で、Libertyから派生しています。Freedomと違って、枠組み・条件の元に自由であることを指します。
- Freedom 思った通り・何にも縛らない行動
- Liberty 法律・モラルの中で、責任が伴う自由な意思・行動
パターナリズム(Paternalism)は、父性主義、上の立場からという意味です。強い立場にある者が、弱い立場にある者の利益のために、(時に本人の意志を問わず)介入・干渉・支援することを指します。また、マターナリズム(Maternalism)は、母性主義で、同じ目線で寄り添いながらという意味になります。
ナッジは、そっと肘で促す・諭す事なので、提唱者のリチャード・セイラー教授の著書「Nudge」の表紙には、親象が子象を導く様子が描かれています。この親象は、母親象だと私は勝手に考えていましたが、父親象だったんですね!そこまでの考えには及びませんでした。
ちなみに、リバータリアニズムは「立場や思想」、パターナリズムは「手段」を指しているそうです。
ナッジは、なぜ?父性主義なのか
ナッジは、リバータリアニズムの”自由な選択”という思想が前提にありますが、自由に選べるとした時に「何を選んでいいのかわからない」という経験を誰しもがしたことがあると思います。専門家の意見を聞いて理解できれば良いですが、この世の中の全てのことを深く理解して判断することは容易ではありません。
上の立場と言われると、「自由が奪われてしまっているのでは?」と考えてしまうかもしれませんが、透明性を保ちつつ、親の立場で諭してくれる、それがナッジの礎になります。
また逆に、人は思考のシステム1の状態が多く、もっと誘導すべきだという、ハード・パターナリズムという考え方も存在します。
これはあくまで私の見解ですが、ナッジも難定義問題(「”幸せとは何か?”」などの完全で一言で表せない回答になる問題)で、ケースバイケースで正解や手法が変わると考えています。
ナッジも解釈や慣れで、設計と異なる結果が発生することがある
同じナッジでも相手の解釈によって設計意図と異なる使い方をされるケースもあります。例えば、タバコのポイ捨てをなくすために、投票形式の吸い殻入れは一見良さそうですが、投票することが目的になるとたくさんのタバコを無理に吸うようになります。
角度を変えてみると違った意見もありますし、設計と異なる結果になることもあります。そして、ナッジは慣れてしまうと効果が半減すると言われているので、多角的に捉える視点と、適宜対応できる柔軟な姿勢が設計者は必要となります。そして、何より、我が子を良い方向に導かせるためのものであるという思想でナッジの設計していこうと感じました。