2020年3月26日(木)に、UX思考に役立つ読書会「This is Service Design Doing サービスデザインの実践」をオンラインで開催しました。
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『世界中のサービスデザイン実践者の叡智を結集したバイブル、遂に完訳』とまで評された帯から想像できるように、本書はUXを「サービスデザイン」の一連の流れから理解していくうえで必須の一冊です。サービスデザインとは何か、といった基本概念から学び始め、プロセスを理解して、どのように組織に適応させていくか、信頼を確立させていくか、そして結果をもたらしていくのかが、事細かく記載されています。書籍の厚さとは裏腹に、実例も豊富でわかりやすい実践本となります。本記事では、重要な点を抜粋し、読書会でも盛り上がった箇所をご紹介していきます。
モノからコトへの時代に求められる「サービスデザイン」とは
デジタル革命の恩恵により、私たちの暮らしが大きく変化しています。どこにいても、たとえ地球の裏側からでも、簡単にものが手に入り、サービスを受けられるようになったことで、ユーザーにとっては上質な体験を得る要求が、より一層強くなったのです。
オンライン接客を例にとってみましょう。カスタマーエクスペリエンス(体験)に基づいたソリューションの提供の流れに沿って、ユーザーの満足度に影響を与える要素を並べてみると、
- 顧客が接するスタッフの行動や態度や口調(またはユーザーインターフェイスの挙動)
- 提供物やオペレーションに関して、スタッフが専門知識を持っているかどうか
- セールスや払い戻し業務といったプロセスを、スタッフが円滑に実行できるかどうか
- スタッフが動かすシステムやツール(例えば物流、料金請求、POSシステムなど)
- 電話契約やランニングシューズなど、ユーザーが手にするサービス提供物
となります。顧客が商品を手にしたりや契約したサービス使い始めるまでに、満足度に影響を与える多くの要因があることがわかります。この中で、どこか一つでも、不備があったり、ユーザーが不満足を感じるものがあれば、すぐに離脱してしまいます。サービスデザインとは、幾重にも重ねたカスタマーエクスペリエンスを、サービスエクスペリエンス(SX)としてすべてユーザー視点から捉えようとするものです。
本書におけるサービスの定義とは、「有形・無形に関係なく、企業が提供するすべてのもの」を指しています。あらゆる企業にとって、サービスが目に見えて重要となり、企業のイノベーションのフォーカスはサービスに移っている段階です。
この一連の流れを「サービスデザインの実践」として捉え、戦略的にイノベーションを起こす・信頼出来る・拡張可能な今までにないサービスを、組織で提供すべきとであると、書かれています。
サービスデザインは常に進化する。原則の再考について
この書籍は、2010年に出版された『THIS IS SERVICE DESIGN THINKING』の書籍に続くものとして出版されていますが、その2010年の時点で定められていた「サービスデザイン思考の5原則」について、時代を追って進化していることを述べ、「そろそろ再考すべきである」としています。本書で大きく再考された定義の箇所が、以下の黄色の部分です。
サービスデザインの実践には、「イテレーション(反復)」がより重視されています。イテレーションとは、コストのかからない試みや実験から始め、失敗を学びに変えて改善を繰り返すことです。実装に向けて、探索・改善・実験の反復型となるデザイン主導のアプローチが有効になります。
追加された中でも特筆すべき点は、イテレーションが重視される点です。イテレーション(反復)とは、コストのかからない試みや実験から始め、失敗を学びと捉えプロセスを繰り返し改善していくことを指します。実装に向けた探索・改善・実験の反復型となるデザイン主導のアプローチは、とても重要なものとなります。
サービスデザインの実践プロセスは、アイデアの発散・収束を繰り返し、ユーザーに愛されるサービスへ仕上げていくものです。組織の事業目標を理解し達成する上で、継続的なイテレーションが有効となるのです。
サービスデザインのプロセスとコアアクティビティ
サービスのアイデアを生み出すデザインプロセスは、選択肢の「創出」と「絞り込み」を繰り返すことで実現されます。これは、発散思考と収束思考と呼ばれており、この言葉を最初に使ったのは、心理学者のジョイ・ポール・ギルフォードで、デザインと建築の分野に取り入れたのはポール・レイジューです。
彼らは、「成功するデザインおよび問題解決のプロセスは、発散と収束の相互作用である」と結論づけています。その発散と収束を「反復」するデザインプロセスは、ダイヤが2つあるように見える形から「ダブルダイヤモンド」と呼ばれています。
サービスデザインにおけるダブルダイヤモンドには、発見・定義・開発・供給と4つの「コアフェーズ」があります。しかし、ダブルダイヤモンドのプロセスは前進のみを考えられていて振り返るわけではないため、プロセスの可視化が難しいという課題があります。
「計画的な反復」と「実際の反復」
この本では、ダブルダイヤモンドの課題であるプロセスの可視化を解決するため、4つのコアアクティビティというプロセスの仕組みに分けて考える方法が紹介されました。4つのコアアクティビティ各々のフェーズを理解し、設計していくことが必要となります。
①リサーチ
リサーチは人々とサービスに結びつく行動(日々の活動や習慣、コンテキストを含む)を理解するために活用します。
②アイディエーション
アイデアは創出することが重要なのでは決してなく、進化を続けるより大きなプロセスのスタート地点になります。アイデアの本当の価値は、アイデア自体ではなく、そこから導き出される結果にあることが多いです。
③プロトタイピング
人々がどのように体験し、その状況でどのように行動するかを掘り下げ、評価し、伝えるために行われます。プロトタイピングによって、デザインチームは新しいコンセプトの重要な要素を特定し、代替ソリューションを検討し、現実の日常業務で実際に機能するのは何かを評価することを可能にします。
④実装
実験とテストを終えて、製造や展開に入るステップです。サービスデザインプロジェクトの実装には、プロセスのマネジメント・開発・エンジニアリング・建築・建設など、さまざまな分野が関与します。
書籍では、4つのコアアクティビティを主体とした流れで解説されているので、大筋を掴みながらサービスデザイン実践の流れが理解できるようになっています。反復と探索の原則を守りながら、計画的なイテレーションの実践方法や関連するサービスデザインのツールの活用法の詳細も紹介されています。
サービスデザインのツールと手法についても網羅
ツールと手法に関しても、膨大な情報が丁寧に紹介されています。ペルソナ、ジャーニーマップ、ビジネスモデル・キャンパスなど、サービスデザインで使用するツールが多く説明されているため、現場で都度使える、実践で役立つバイブルとして使うことができます。
書籍編集者 マーク・スティックドーン氏が9月に来日
この本のメイン編集者である、マーク・スティックドーン氏が、今年9月開催予定の「UX DAYS TOKYO 2020」に来日し、サービスデザインの実践について講演・ワークショップ開催予定です。
ぜひ、会社のUXチームの皆さんとともに、「サービスデザインの実践」の書籍を読まれ、実現に向けた本物のワークショップを受けにいらしてください。スタッフとして、心よりお待ちしております。
UX DAYS TOKYOでは、UXに関する様々な読書会を開催しています。
一見自分のビジネスや勉強したい内容とは関係が無さそうな書籍に見えても、UXにとって重要な「視点と思考」を広げていくために大切なことを、読書会を通じて学ぶことができます。そして、その学びを持ち帰った後で、単なる手法に留めるのではなく、自らの力で応用できる実践を身につけていきましょう。
This is Service Design Doingの読書会のイベントレポート記事はこちらです。合わせてお読みください。
当日利用したスライドは公開しています。
スライド>>「This is Service Design Doing サービスデザインの実践 読書会:UX DAYS TOKYO」
読書会はConnpassのサイトで随時募集していますので、是非ご参加ください。
https://uxdt.connpass.com/