
こんにちは。UX DAYS TOKYO スタッフの、かじしまさちこです。
今回は、UX DAYS TOKYO 2025のプレイベントで行われた読書会での気づきをもとに、UXデザイナーやプロダクトマネージャー(PdM)として知っておくべき「ディセプティブパターン(旧:ダークパターン)」についてお伝えしたいと思います。
この読書会では、
ディセプティブパターンとは?
「ディセプティブパターン」とは、ユーザーを意図的に特定の行動へと誘導するように設計されたUIを指します。以下が例として挙げられます。
- サブスクリプションを解約しにくくする
- 保険やオプションを“気づかぬうちに”追加させる
- 注文確定ボタンの下に、目立たない同意事項が書かれている
これらは一見、機能的なUIに見えるかもしれませんが、ユーザーにとって不利益な決定を誘発する構造になっていることが問題となります。
「悪気はなかった」は通用しない時代へ
私は以前、「意図的に騙していなければ問題ない」と思っていました。ですが、その考えはもう通用しません。
たとえば、アメリカの会計ソフト「TurboTax」では、アカウント作成時に小さな文字で書かれた同意文が法的拘束力を持つとされ、ユーザーが知らぬ間に同意させられていたことが裁判で問題視されました。

デザインがユーザーの認知や判断をどう左右するか?
それを理解していないこと自体が、もはや無責任と見なされる時代です。
Figmaの事例:知らぬ間に“こっそり型”を設計していないか?
印象的だったのは、以前のFigmaの共有機能に関する話です。共有相手に「Can Edit(編集権限)」を与えると、追加料金が発生する仕組みがあるにも関わらず、UI上で明確に伝わっていませんでした。

httpshelpfigmacomhcjaarticles360040531773 より抜粋
このように、ユーザーが“知らずに”追加コストが発生する設計は、「こっそり型」の典型例です。
Figmaを使う多忙な現場では「とにかく早く共有して」と急かされたとき、細かな注意喚起に気を払えないのが現実です。

だからこそ、ユーザーのコンテキストに立った設計が求められます。
境界線の曖昧さこそ、職能の真価が問われる領域
ディセプティブパターンには明確な「ここからNG」という線引きがありません。たとえば以下があります。
- こっそり型:カートに保険が自動で追加される
- 緊急型:タイマーで焦らせる
- 誘導型:「いいえ、割引は要りません」などの表現
- 社会的証明型:「◯人が今購入中!」と煽る
- 希少性型:「残りわずか」で焦らせる
これらの多くは、売上を上げるには“効果的”かもしれません。ですが、“誰のための効果か”を問い直す必要があります。
倫理とパフォーマンスのバランス。
それはUXデザイナーやPdMの判断力が試される領域です。
「UIは説得である」—— あなたの仕事は、影響力を持っている
書籍に「UIは説得行為である」という一文がありました。
UI設計とは、単に操作性をデザインするだけではありません。ユーザーの心理や行動に直接影響を与える“行為”です。
教育レベルや言語環境の違いがあるユーザーにとって、目の前のUIこそが“世界のルール”といえます。
そのルールが、知らないうちにユーザーを不利な状況に追い込んでいるとしたら、社会問題であり、企業ブランドにとっても大きなリスクになります。

「知らなかった」では済まされない。ブランドの信頼を守るために
海外では、ディセプティブパターンに対する法整備が進んでいます。
EUや米国では高額な制裁金も実際に発生しています。特にSaaSやグローバル展開を見据えたプロダクトでは、初期設計段階からリーガルと連携し、リスク回避の目を持つ必要があります。
本質は、法に触れるかどうかではなく、ユーザーからの信頼を損なわないか。です。
一度でも「このサービス、なんか不誠実だな」と思われてしまえば、長期的にはブランド価値が失われてしまいます。

デザイナーは「影響職」。自分のデザインが誰にどう響くか、考えよう
今回の読書会を通して、私は次のような行動指針を再確認しました。
- 「意図していなかった」が通じない時代だと理解する
- ユーザーの“状況”と“気持ち”に寄り添う
- 曖昧な設計領域こそ、自分の倫理観で考える
- デザインは説得力であり、その力に自覚を持つ
- プロダクトは社会的インフラであるという前提を忘れない
設計が、誰かの「困った」を生まないように。
企業ブランドの信頼を守るためにも、ディセプティブパターンの理解は、今やUXデザイナーやPdMをはじめとする設計者の「必須教養」だと確信しました。