ユーザビリティテストのバイブル本「Don’t make me think」に続く、「Rocket Surgery Made Easy」の読書会を行いました。「Don’t make me think」の日本語版書籍は3冊でていますが、続編の「Rocket Surgery Made Easy」は日本語化されていないので、英語の書籍を参加者に購入してもらい翻訳しながら行いました。
この本は、ユーザビリティテストが必要なことは分かったけれど、後回しにしがちだったり、組織に浸透していなかったりする問題を解決するのに役立ちます。実際に、ユーザビリティテストをてっとり早く実行するためのノウハウが書かれています。
タイトルにもあるように「Rocket Surgery Made Easy」は「ロケット手術を簡単に」となりますが、rocketには、瞬発的な=早い(瞬発的な)手術は、(問題を)簡単にすることができるという内容で、プロダクトの早い段階でユーザビリティテストを繰り返すことで問題を潰すことができます。
著者はこの本で、ユーザビリティの専門家でなくても、ユーザビリティテストを取り入れるべきだと主張しています。具体的に浸透させるためにマニュアル化された内容も含まれていますので、具体的にどうすればいいのか分からない方にも最適です。
ファシリテーターはツアーガイドであり、セラピスト
ユーザビリティテストの役割に、ファシリテーションがあります。ユーザビリティテストを実施するにあたって、ファシリテーターはテスターに課題の依頼などを行いますが、ただ「これをやってください」という指示をするだけでなく、セラピストの役割を持っていると紹介されていました。
ややもすると、テストを案内するツアーガイド的役割だけになりがちですが、テスターが言いたい事を察することができるセラピストの役割が大切だということを学ぶことができました。
また、セラピストとして上手に進行するために、以下のような手段を取ると良いと記載がありました。
- テストの内容の説明
- テスターへのインタビュー(テスターのバックグランドを知る)
- ホームページツアー(テスターにどのようなサイトか説明してもらう)
- タスクの提示と実施
- プローピング(テスト後にテスターへ質問)
- テスターへの謝辞
例えば、人は緊張した状態で、感じていることや思っていることを言葉にすることはできません。そのため、一見不要とも捉えられるアイスブレイクが重要となります。
また、言葉だけでなく、迷ったり困ったりしていないか表情をチェックすることも大切です。
箇条書きにしてしまうとそれだけを実行してしまいがちですが、一つ一つのやり方で、テスターから引き出せるものは大きく変わります。
良く言われることですが、ファシリテーターはテスターを誘導してはいけません。誘導しないためにも、事前に質問内容を考えておきましょう。
著者のユーザビリティテストの様子が分かる動画
zipcarというレンタカーのサイトに関するユーザビリティテストの動画が紹介されています。
20分ほどの簡単なテストで、サイトの問題を3つ出すことができました。
- ユーザーは「エクストラバリュープランの $50 の料金」が何かわかりませんでした。
- ユーザーは、空き状況について良い回答が得られたとは感じていませんでした。
- ユーザーは、ほぼ完了するまで、車の料金が異なることに気づきませんでした。
これくらいラフな状態テストでも問題を簡単に見つけ出すことができるので、素早くユーザビリティテストを実施しましょう。というメッセージです。
ユーザビリティテストは準備も大切
簡単なユーザビリティテストで効果があるから、すぐに実行しましょう。と準備なく実施するのも良くありません。
あまりにも準備をせずにテストをしてしまうと、うるさい場所でのテスト環境でうまく実施できない、録画していたつもりでもされていない、モニターが映らない、などさまざまなトラブルが発生します。
トラブル対応に追われてしまうと、テスターをイライラさせてしまい、リラックスして思っていることを口に出してもらう以前の問題になりかねません。
アドリブがメインのTV番組でもある程度の流れは設計されていますし、撮影自体の準備は整えています。開発で言えば、リリース作業前に実行するコマンドを手順書にまとめるのと同じで、ユーザビリティテストも事前の準備が大切です。
書籍には、事前にどのようなことをすればいいかが具体的に分かりやすくまとまっていました。テスト当日だけでも、以下に記載されていることがあります。折角のユーザビリティテストの時間を無駄にしないためにも確実にしておきましょう。
組織へユーザビリティテストを浸透させるために
プロダクト開発をしていると、開発することに注力するあまりユーザビリティテストを疎かにしてしまいがちです。ユーザビリティテストの価値を理解して、実行する癖を組織に植え付けるには、定期的にユーザビリティテストを行う必要があります。
組織で実行するためには、お菓子を出す、1ヶ月に1度午前中に行うなどの一定のルールを決定するのも良いと記載されていました。そして、ユーザビリティテストを面倒だと思わせない工夫も必要です。
ユーザビリティテストの価値を上げるには
読書会では発表の後にディスカッションしますが、そこで出てきた話題が「ただテストしただけで満足してしまっては意味がない」ということでした。
ユーザビリティテストは、製品やプロダクトの欠陥を効果的に見つけられる素晴らしいものですが、テストしただけで満足してはいけません。
同じテストを行っても、ファシリテーションによって問題が発見できたり、できなかったりします。ユーザビリティテストの実施が形骸化するだけです。
この書籍には、早くユーザビリティテストを実施すること、組織に定着させることがメインに記載されていますが、より具体的にユーザビリティテストの結果をどう見るのか、ユーザーのインサイトをどう判断するのか、など一歩進んだことを、UX DAYS TOKYO 2023 の英国デジタル庁(GDS)のヘッドデザイナーローラ・ヤロー氏のワークショップで学べると紹介されました。
問題は改善しなければ意味がない
ユーザビリティテストを実施して満足するのではなく、テストをして改善に繋げなければ意味がありません。「レントゲンを撮っただけで治療しないと意味がない。病気が治らないのと同じ。」というUX DAYS TOKYOオーガナイザである大本さんの言葉が印象的でした。
私はこの本を読んだ後「フムフム、ユーザビリティテストのやり方はよく分かった」「あとは本のとおりにテストすればいい」と思って終わっていました。一歩踏み込んだ理解ができていなかったということを、ディスカッションすることによって気付きました。
書籍の多くは、文章量の関係もあり、1つのテーマで絞られて記載されています。特定のことを学ぶにはとても良いですが、他との関係をリンクして考えることでより理解が進みます。読書会では、いろいろな人の意見を聞くことで、俯瞰的に物事を捉えられるようになります。記載された内容だけでなく、全体を通した理解にするためにも、これからも参加していこうと思います。