
先日、デジタル庁を訪れた際に目にしたミッションに深く共感しました。

「誰一人残さない(残されない)、人に優しいデジタル化を。」
まさに、そのとおりだと感じます。
DX(デジタルトランスフォーメーション)が進むことで、私たちは多くの利便性を手にしています。
一方で、その変化についていけず、取り残される人がいるのもまた現実です。
デジタル化は、資源の節約や業務効率の向上といった大きなメリットももたらします。だからこそ、その恩恵を「すべての人が受けられるようにする」ことが、これからのデザインや実装において重要な視点です。
スマホで注文から決済までできる飲食店

最近では、スマホやタブレットから注文できる飲食店が増えてきました。中にはその場でスマホ決済まで完了できる店舗もあり、電子マネーやクレジットカードの普及とともに、支払いがよりスムーズになっています。お店にとっても、レジ要員を減らせることでコスト削減につながります。
しかし、スタッフが毎回お客さまに使い方を説明しないと理解してもらえないような設計では、本末転倒です。もちろん、ITリテラシーが高くない方にはサポートが必要ですが、本来はサポートなしでも使える設計を目指すべきです。
店員がぼんやり立っている横で「注文はスマホでお願いします」と言われるのは、あまり心地よい体験とはいえません。一度口頭で注文を受けてしまうと、以後もその方法を求められがちなのは理解できますが、顧客が店員を呼ばずとも、自然な流れでスマホから注文できる仕組みがあれば、そもそも人を呼ぼうとは思わないはずです。
追加注文のたびに何度もタップしなければならないUIは、良い顧客体験とはいえません。ユーザーが飲食店で注文するジャーニーを記載して、どうしたらスムーズに注文できるのかシミュレーションして設計していきましょう。
店員の動きも含めて設計できるのが、エクスペリエンスマッピングの醍醐味です。注文画面だけではなく、店舗が抱えている問題を解決できるのが本当のUX設計であり、正しいDXに繋がります。
スマホでの予約のみ対応するスポーツジム
私が通っているスポーツジムではスタジオプログラムをスマホで予約できるシステムを導入しました。以前まではプログラム開始15分前に受付にカードが並び、それを受け取っていましたが、オンラインで簡単に予約・キャンセルできるシステムで、とっても便利です。
しかし、スマホを忘れてしまうと当日の次に受けたい予約を取ることができません。そこで、受付のスタッフに依頼するのですが「予約受付はできません。」と言います。スマホありきのシステムになってしまったのです。
特に、高齢者も通っているジムでは、必ずしもスマホを持っていない可能性もあります。店舗内で簡単に予約ができる仕組みが必要です。現行の店舗システムは、ステップが多すぎて使い勝手が悪く使い物になりません。ユーザーが使えるものでない限り、本当のDXを実現することはできません。
「誰一人取り残さない」ための設計とは
デジタル庁が掲げる「誰一人取り残さない、人に優しいデジタル化」。このビジョンを実現するために、以下のポイントを意識した設計が求められます。
- 人の欲求や行動を理解し、自然にデジタルに慣れるような設計をする
- 直感的に理解できるUIを目指す
- 複雑で回りくどい導線や操作は避ける(情報設計の工夫)
- スマホに限定せず、段階的にデジタルに誘導する
- スマホが使えない状況(コンテキスト)も想定しておく(ジャストインケースの設計)
- リテラシーが低い、もしくは少数派のユーザーのCJMも考慮する(インクルーシブデザイン)
デジタル化が進む中で本当に大切なのは、「すべての人がアクセスでき、理解でき、安心して使えること」。便利さを享受できるのが一部の人だけにならないように、誰もが便利さを感じられるデジタル体験をデザインしていきましょう。