UX DAYS TOKYO2018ではイノベーションのバイブル本のひとつになっている「ジョブ理論」のレンズを持って、「JOBS TO BE DONE(JTBD)」の理解を深めてもらいました。ユーザー視点に立ち、価値創造の新しい発見方法です。書籍にもUXについて紹介されていますが、ユーザー視点でのサービス開拓はビジネス上でも重要になってきています。
高機能で使わない冷蔵庫について考えてみる
先日、Iot化された冷蔵庫が発売されたけれど、それは誰も使わないのではないか?という記事を読みました。記事内容は同感で、私と同じように同感した方も多くいらしゃったようで、シェアやいいね!を多くとっている記事でした。
ユーザーのインサイトを知らないと、使われるプロダクトにならないという考え方は、記事のシェア数から見ても広がってきていると言えます。大きく言葉を変えると、問題発見の視点が広がりつつあるとも言えます。
ただ、私は「言うは易く行うは難し」であることも理解しておかなければならないと感じています。イノベーションは更に深く考える必要があることを冷蔵庫のIot化を題材に考えていきたいと思います。
Iot化された冷蔵庫の機能について振り返る
誰も使わないだろうと評価されてしまった冷蔵庫のIot化の商品について、どのようなものなのか、この記事でもおさらいしておきます。engadgetの記事によると、以下のような機能があるそうです。
- 冷蔵庫のドアの閉め忘れをスマートフォンに通知する「お知らせ機能」。
- 離れたところからドアの開閉回数を確認できる機能や、冷蔵庫の温度や製氷の設定変更が可能となる「リモート機能」。
- 冷蔵庫の使い方で困ったときに取扱説明書や使い方を動画で閲覧できる「サポート機能」
- 冷蔵庫に保存する食材をスマートフォンのカメラで撮影し、購入日や保存した経過日数を一覧で記録する「食材管理」です。
1〜2は、ユーザーの本当に必要?と思う機能に見えてしまいます。3番にあたっては説明動画であり、冷蔵庫の機能ではありませんね。
4番目の「食品管理」に関してはユーザーが生活している中で冷蔵庫を上手に利用したい要望になるところです。食品ロス問題と認識しても良いでしょう。実際にTwitterの声でも、商品を管理してくれる機能に期待を持っていた。という声があります。しかし、商品を入力しなくてはならず、ユーザーの生活の中で使えるとは思えないと、残念という声も出ています。
リサーチしても本質を捉えられなければ意味がない
少し話が脱線しますが、冷蔵庫を否定している記事では、必要なのは「調査(リサーチ)」ではなく「共感」と記載しています。デザイン思考の共感でしょうか?
この場合においては調査だけでも十分だと考えています。必要なのは、冒頭で解説したJTDBの視点です。共感というマインドも大切ですが、ユーザーに共感されたところで、結果的にユーザーの建前であるポライトネス理論が存在するので、ユーザーは何をどのように求めているのかを分析する力こそが必要です。
問題解決の思考もつけていこう
ここからが、記事の本題ですが、人のプロダクトの駄目な点を“言うが易し行うが難し”です。もちろん、指摘は重要で、問題が間違っていれば解決方法も間違ってしまいます。コンサルティング会社の意見を聞くことは、自分の振りは見ることができないため大切で価値ある部分になります。
自分がプロダクトに入っていると仮定する
“行うは難し”の問題解決の思考の訓練をしていきましょう。
いざ自分たちが冷蔵庫のイノベーションを考えたらどうでしょうか?意外にも良いアイディアがバンバン生まれるわけではないでしょう。UX DAYS TOKYOのスタッフのSlackチャンネルでは問題を出すのですが、1名が良い方向の視点でしたが、回答者がいませんでした。
ユーザーの行動を“マクロの視点”で設計
冷蔵庫のUX・UIを考えようとすると、ユーザーが冷蔵庫を使うシーンをすぐに浮かべてしまいます。例えば、「ドアを開けて閉める」はミクロな視点です。UXを上手に設計するには、ミクロの視点で見るだけでは駄目です。
マクロの視点で、ユーザーが食品を商品を購入する、冷蔵庫で保存する、冷蔵庫から出して消費する、(冷蔵庫に保存する)という一連のサイクルを考えます。
冷蔵庫を利用するマクロな視点のマップ
マップに起こすと、下記のようになります。食品を購入するところと、入れてから使うの繰り返しということがわかります。
冷蔵庫の開閉に関する行動を分析してみる
ミクロ視点と紹介しましたが、まずは、ミクロの部分である「ドアの開閉」にフついて考えてみましょう。ユーザーは食品を入れる時、取り出す時に、冷蔵庫のドアを開閉しますが、時に、中に(何が入っているのか)の状態を確認するためにもドアを開閉します。この行動は、中に何がはいっているのかを記憶していないからゆえに起こす行動です。みなさんも、何か無いかな?と冷蔵庫を開けたことがあると思います。
ノーマンニールセン・グループ(NNg)のヒューリスティックの原則に「Recall rather than Retain」(人は、記憶しているのではなく「記憶を」思い出すのだ。)と言う言葉がありますが、人は冷蔵庫の中身を覚えていません。
韓国の家電メーカー「サムソン」の冷蔵庫は、庫内にカメラを設置してユーザーが冷蔵庫を開けなくても中身を確認することができます。取り出したいものをドア開ける前に狙えるので、開閉時間も短くなります。ゆえに、庫内の温度も無駄に上げることがなく、食材の痛みや電気代の軽減も見込めます。
食品購入から冷蔵庫の利用シーンを考えてみる
冷蔵庫を利用する前の、食品を購入するというマクロの視点から考えてみましょう。すると、食品を購入した際にもらうレシートから、要冷蔵の食品をいつ購入したかを把握することができることが見えてきます。どの食材が冷蔵庫に入っているのか、ユーザーの手を煩わすことなく把握できるスキームの仮説がたちます。
冷蔵庫の食品管理をしたいわけではない
ジョブ理論で冷蔵庫を考えると、ユーザーは庫内の食品を消費期限内に消費したいだけであって、冷蔵庫内の食品を管理したい訳ではないことに気がつくことができます。全てを管理しようとすると、食べたものまでも記録しなくてはなりません。食べたものをすべて記録するユーザーはダイエットをしている以外ほぼいないでしょう。このことから、(食品によって異なると思いますが)食品を購入したレシートから概ねの消費期限を割り出し、消費期限の前に通知する仕組みがあればことが足りると言えます。
アプリの機能と画面の考案
レシートをスキャンしてOCRでテキストにする必要があるので、アプリにする可能性が高いですが、自由に作れてしまうアプリを設計すると、「折角アプリを作るんで」と、食品の管理機能を入れてしまいがちです。しかし、ジョブ理論からわかるように、全ての商品を管理するアプリという発想は危険です。
ユーザーは、消費期限になりそうな時に通知してほしいので、メールやプッシュ通知でことが足りる可能性さえあります。逆に、情報を知りたいだけなので、アプリを立ち上げるより便利かも知れません。もし、アプリを充実させたいのであれば、冷蔵庫に入らない食品にも対応し、残っている食材で作れるレシピをアプリ内で紹介してはどうでしょうか?
そうなれば、消費したものを記録しなくてはなりません。しかし、今の日本では、食べる前に料理の写真を撮るメンタルモデルはすでにできているので、食べ終わった30分後くらいに、料理画像を解析し、使った食品を割り出し「***の食材を食べましたか?」と、リスト表示させれば、面倒な登録がなくなります。
ユーザーは簡単な操作で消費登録できれば、負担を掛けずに管理することができます。この作業で食品管理ができれば、上記で紹介したTwitterの声にもあった「食品ロスを改善したい」という要望があるので、行動するのではないかと予測できます。また、冷蔵庫のためのアプリと言うより、食品管理のアプリというコトに対してのアプリなので、それだけでも存在意義が発生します。
キャッシュレスの波がこの流れを後押しする可能性あり
レシートの代わりにキャッシュレス決済が進めば、何を購入したのかは容易にわかるようになります。経済産業省は、ID情報を埋め込んだ決算方法「RFID(radio frequency identifier)」を利用してコンビニの食品を管理する仕組みを発表しました。2025年までに普及を目指すそうです。
はじめは、RFIDのコストや導入のためのオペレーションを考えるとコンビニだけの対応のようですが、スーパーにも普及されようになれば、消費期限が気になる生鮮食品に対応でき、今回のようなプロジェクトも進みやすくなるでしょう。
問題指摘だけでなく、実際に自分が冷蔵庫のIotを企画する場合に、どのように設計していくのかを解説しましたが、ウェブ上だけでの情報で仮説を組んでいて、ひとつのアイディアの例に過ぎないですが、UX設計からサービスやプロダクト、UIを作るヒントになればと思います。実際のユーザーの声を聞き、ユーザーにとって便利なIotサービスを実現していきたいですね。
サービスデザインの視点を学ぼう
UXは利用者体験なので、どうしてもアプリやウェブサイトなどの操作をする人だけの体験に目が行きがちですが、今の時代、どの業界もデジタル化の波は押し寄せています。リアル店舗との連携、家電のイノベーションにもUX視点が役立ちますが、サービスデザインを学ぶことでマクロの視点が入り、総合的にプロダクトを設計する力がつくようになります。
アメリカの銀行最大手「キャピタル・ワン」のデジタルサービスにも従事した元アダプティブパス社でサービスデザインを教育していたニック氏がUX DAYS TOKYO2019で「サービスデザイン」についての内容で登壇します。マクロな視点で、どのように設計するべきかの思考をワークショップで学んでいただきたいです。