PayPalの元責任者が語る「ペルソナの落とし穴」
日本のスタートアップの90%は失敗すると言われています。その原因のヒントが、ここにあるかもしれません。元PayPalのマット・ラーナーが、ペルソナに100万ドル(約15億円)を投じた末にたどり着いた概念「Jobs To Be Done(JTBD)」について語ります。記事の最後には、彼のツールをダウンロードできるリンクもあるので、お見逃しなく。

かつて私はペルソナで1億5000万円を無駄にした
マット・ラーナーは、「PayPalで、私はかつてペルソナを構築するために100万ドルを無駄にしました。」
と語ります。この投稿では、彼が実際に学んだことと、その結果起こったものは何かを紹介します。
当時、PayPalは非常に優れたリサーチを行いました。Ipsos(リサーチ会社)と協力し、数十件のインタビューを実施。その後、数千のデータを収集し、詳細なペルソナを作成しました。
その結果、eBayの売り手、D2C、マルチチャネルなど、ユーザーのセグメントごとの違いが明確になりました。さらに、リスク耐性、価格感受性、野心、テクノロジー理解度などの心理的スコアも導き出しました。
しかし最終的に、ラーナーはある疑問にぶつかります。
「このペルソナが、私たちのマーケティングにどう役立つのか?」
答えは「役立たない」でした。
ペルソナではなく、顧客の「ジョブ」を理解せよ
マーケティングにおいて本当に重要なのは、「誰が使うか」ではなく、「何のために使うのか」。
たとえば、PayPalのような決済業界において、マーケッターが求めているのは、以下の6つの要素です。
- バイヤーが信頼できること
- チェックアウトが簡単であること
- 既存のシステムと連携できること
- 費用が高すぎないこと
- 詐欺防止に役立つこと
- 優れたカスタマーサポートがあること
どんなに精巧なペルソナを作成しても、これらの根本的なニーズに影響を与えることはありませんでした。
ラーナーはこう言います。
「私たちは、100万ドルを使ってペルソナを作る必要はなかった。必要だったのは、顧客の『ジョブ』を理解することだった。」
ペルソナよりも「Jobs To Be Done」この思考実験を試してみてください
あなたはビーチ沿いのレストランのオーナーです。より多くの顧客を呼び込みたいと考えています。次のどちらの情報が役に立つでしょうか?
- タミー(39歳、離婚した母親、アトランタ出身、年収5万8000ドル、左利き、政治思想はリベラル)
- タミーは暑いビーチにいて、2人の子供と一緒。子どもたちはお腹が空いており、1人はトイレに行きたがっている。
役立つのは、明らかに2番目の情報です。
この情報があれば、冷房の効いた快適な空間と、子ども向けの手間のかからないメニューを用意すべきだとわかります。一方、1番目の情報では、マーケティングに活かせる具体的なアイデアを生み出すのは難しいでしょう。
マーケティングにおいて理解すべき点は以下の5つです。
- 顧客が抱えるストレスは何か? → 広告やキャッチコピーに活かす
- 顧客はどこで解決策を探しているか? → 検索戦略やプロモーションを最適化する
- 顧客はどんな代替案を試し、それがなぜ不十分だったのか? → 競争優位性を打ち出す
- 顧客は成功をどう定義するか? → ランディングページの最適化
- 顧客はどんな不安を抱えているか? → 反論処理をマーケティング施策に組み込む
JTBDを活用する方法
では、これらの答えを得るにはどうすればいいのでしょうか?
ラーナーは「Jobs To Be Done(JTBD)」の概念にたどり着きました。そして、このフレームワークを活用するために、次のようなインタビューを行っています。
- 何をしたいと思っていましたか?
- それはあなたにとってなぜ重要ですか?
- どこを探しましたか?
- 他に何を試しましたか?
インタビューを元に、「ジョブカード」を作成し、ペルソナの代わりに活用します。
マット・ラーナーが作成した 「ジョブカード」テンプレート と インタビュー質問リスト は、以下のリンクからダウンロードできます。
まとめ
- いきなりペルソナを作成するのではなく、まずは顧客の「ジョブ(課題)」を理解することが重要。
- インタビューを通じて、顧客の本当のニーズを把握し、競争優位性を確立する。
- 「Jobs To Be Done」を活用してマーケティングの精度を向上させる。
※注意※ ペルソナが使えないということではなく、プロダクトによって適切なツールを使う必要があります。PayPalのようなプロダクトは、どの属性も同じ目的をもって行動をするので、ペルソナは不要であったということです。
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