3月18日に実施された「UX DAYS TOKYO 2018」のワークショップの一つ、「UXチームのための実践ワークショップ設計」に参加したのでレポートいたします。スピーカーはご夫婦で、旦那さんのシャーウィン氏は、UX分野で世界的に有名なFrogのメンバーでもあり、どんなワークショップになるのか期待して参加しました。
ワークショップの概要
当日は、UXを実践している人から学んでいる人まで、多様な30名が参加。参加者は積極的に質問し、意見交換を行い、とても有意義な一日となりました。
内容は、ワークシートやポストイットを用いた演習を交え、明日からでも実践できそうなノウハウだけでなく、UXの根幹となる考え方も詳しく紹介されました。難しい部分もありましたが、大変参考になりました。
ワークショップはステークホルダーのマネジメントツール
ワークショップ設計がテーマのため、まず「ワークショップとは何か」という話から始まりました。
ワークショップ設計は「顧客に価値を提供するためのもの」であり、「多くのステークホルダーをマネジメントするためのもの」だという解説がありました。
「ワークショップは、特定のテーマに焦点を絞り、きちんと設計して取り組むべきものであり、闇雲に行えば良いというものではない。」この言葉に、思わず「はっ!」とさせられました。
価値のあるUXワークショップの設計方法
価値のあるUXワークショップを設計するには、以下の流れで進めていきます。
- 目的を明確にする(Identify Your Goal)
- 参加者を理解する(Understand Your Participants)
- アジェンダを決める(Develop Your Agenda)
- アクティビティを決める(Create Your Activities)
1. 目的を明確にする(Identify Your Goal)
はじめに、ワークショップの目的を明確にします。目的は簡潔な一文で伝えられるのが理想です。以下のような目的例が挙げられました。
- 現在のユーザーニーズを全員で共有するためのリサーチを行う
- フィードバックを得るためのプロトタイプを作成する
- リリーススケジュールを決めるためのプランニングを行う
目的を宣言する際に、以下のフレームワークを用いると整理しやすくなるとのことでした。
このワークショップの目的は【私たち全員が達成したいこと】である。 このワークショップが終了した時に、【全員が同意した特定の成果物】を生み出していれば、私たちの目標は達成される。
2. 参加者を理解する(Understand Your Participants)
ワークショップを設計する上で重要なことは、コンテンツだけではありません。参加する人が最大限バリューを発揮できる環境を用意する必要もあります。そのために、参加者自体をきちんと理解することは非常に重要です。
理解するにあたり重要な観点として、「参加者の名前」「独自の貢献」「考慮すべきことやリスク」があります。
特に重要だなと感じたことは、参加者の名前を明確にすることです。役割ではなく名指しすることで、他の「独自の貢献」や「考慮すべきことやリスク」という観点を把握しやすくなると思います。役員や部長などの肩書きで参加者を理解しようとすると、この役職ならこういう視点があるだろうというバイアスがかかってしまうからです。
3. アジェンダを決める(Develop Your Agenda)
ワークショップの目的を定め、参加者に対する理解を深めたら、次は取り組む内容(=アジェンダ)を決めていきます。アジェンダを決める際の重要なことは、4点あります。
アウトプット:アクティビティの成果として得たいものを検討します。
加えて今回のアクティビティにおけるアウトプットが、ワークショップ全体のアウトプットに対して、どのように貢献をするのかという観点でも検討します。
インプット:アクティビティに取り組む前に必要な情報を考えます。場合によっては、別のアクティビティにおける成果物が、今回のアクティビティにとってのインプットになります。
所要時間:「どのくらい時間がかかるか?」を検討した上で、「いつ行うか」を決定します。
ユーザ調査を行うためのアジェンダ
目的と参加者の理解が深まったら、ワークショップのアジェンダを決めます。重要な要素は以下の4つです。およそ4~6時間で行われる想定です。
-
- アクティビティ:参加者が何に取り組むのか?
- アウトプット:得たい成果は?
- インプット:事前に必要な情報は?
-
所要時間:適切な時間配分は?

(例)ユーザ調査実施のワークショップのアジェンダ
また、休憩時間の確保も重要です。特に長時間のワークショップでは、軽食や飲み物を用意し、リフレッシュできる環境を整えることが推奨されました。
4. アクティビティを決める(Create Your Activities)
適切な問いの設計
ブレーンストーミングを行う際、問いの設計が重要です。「How might we(どうすれば~できるか?)」という問いのフレームワークを活用することで、解決志向のアイデアを生みやすくなります。
- 「我々はどうしたら【今回の課題を解消した状態】ができるか(=How might we)」という型にあてはめる
- 改善すべき要素を特定しない
- 必ず疑問形で問う
例1:照明を改善するアイデアを生むための問い
× ①どうしたら顧客に対してより良い電球を作れるか?
○ ②どうしたらアパートに住む顧客の照明の体験を改善することができるか?
①は、改善すべき対象を電球に絞っているので、回答も電球を改善することにしか目が向きません。一方、②は、電球に限らず問いを投げているので、電球に対する改善案も出ますが、窓からの採光に対する改善案も出てくるでしょう。また、「アパートに住む」というコンテキストを定義することで、解決すべき課題に対する理解も深まります。
例2:外国旅行客のお花見体験を改善するアイデアを生むための問い
× ①どうしたら日本に訪れる旅行客のための開花予報webサイトを改善できるか?
○ ②どうしたら日本に訪れる旅行客が開花予報を把握するための手助けができるだろうか?
①もまたwebサイトという改善すべき要素を特定しています。旅行客のジョブは、webサイトを閲覧することではなく、開花予報を知ることです。顧客のジョブに焦点を当てて問いを立てることが重要です。
意思決定(ディシジョンメイキング)の可視化
異なる2つの評価軸を用いて、それぞれのアイデアを評価するマトリックスを作成しました。
例えば「マネタイズがしやすいか、しにくいか」・「集団での利用に適しているか、個人の利用に適しているか」という評価軸です。

実際にワークショップで行った意思決定の様子
事前にドット投票を行うことで、どのような観点で参加者たちが良いアイデアであると評価しているのかが理解できました。
一方、良いと思ったアイデアのうち、左下の空間に当てはまるものは存在していませんでした。マトリックスにすることで、アイデア出しが足りない可能性もあれば、評価できない対象とみなしているという判断がつきます。
ワークショップがもたらす価値
共通認識の提供
ワークショップを設計する上で、参加者全員が共通の目標を持つことが最も重要だと感じました。
例えば、
- エンジニアは機能の詳細に興味がある
- セールスは売り方を考える
- 経営者は利益に焦点を当てる
例えば、僕のようなエンジニアは機能の詳細な作り方に関心を持ち、セールスはプロダクトをどう売り出していくか、経営者はその製品がどの程度利益を創出するのか、様々あります。ワークショップの冒頭で「目的を明確にする」タスクが非常に重要であると改めて学びました。
目指すゴールを明確に定めることで、視点の相違があっても価値基準が統一され、評価軸がぶれることなく進められるのだなと学ぶことができました。
ステークホルダーの時間をどうやって取るのか、という最大の懸念がありましたが、ワークショップを実施してみて、共通認識の重要性が理解できたので、価値を伝えようと考えています。
How might weによる課題解決のアイデア創出
当日はグループに分かれてディスカッションやブレーンストーミングを行いましたが、自分一人では気づけなかった視点やアイデアが次々と生まれ、設計以外の部分でも多くの学びがありました。
特に印象的だったのは、ブレーンストーミングの手法についてです。ただ闇雲にアイデアを出すのではなく、「How might we」(私たちは、どうすれば◯◯が(実現)できるか?)から始まるテーマを設定することで、「漠然としたアイデア」ではなく「課題を解決するためのアイデア」を発散できるという考え方は、ワークショップに限らず、さまざまな場面で活用できると感じました。
日々の業務の中でも、小さな枠組みから積極的に取り入れて実践していきたいと思います。あっという間のワークショップでしたが、非常に密度の濃い一日でした。来年はどのようなワークショップが開催されるのか、今から楽しみです!