TOP お知らせ UX DAYS 本編 “良さそう”な機能は作らないのが鉄則。その理由とは?

“良さそう”な機能は作らないのが鉄則。その理由とは?

UX DAYS TOKYO 2025で突きつけられた!本当にやるべきこと(カンファレンスレポート)

この機能があれば便利そうだ”
“あれもこれも試したい”
“競合他社が導入しているから、うちも導入しよう”

プロダクト開発において、“やった方が良さそう”という判断で開発やタスクを増やし、本当に重要なことが後回しになったり、見過ごされたりする状況に陥っていませんか?プロダクトマネージャーである私も、かつてはその一人でした。

2025年3月28日に開催されたUX DAYS TOKYO 2025カンファレンスに参加し、様々な分野の第一人者たちの話を聞く中で、大きなメッセージとして受け取ったのは「善は最善の敵」だということです。それはまるで、頭を強く殴られたような衝撃と、同時に目が覚めるような感覚をもたらしました。些細なことに捉われていると、プロダクトは本質的に成長しない──日々の忙しさに追われる中で、重要な課題に真摯に向き合っていないという現実を突きつけられた思いでした。

この “本当に重要なことだけをやる” 大切さを教えてくれたのが、次の3つのセッションです。

  • マット・ラーナー(Matt Lerner)元 PayPal グロースリード
    「プロダクト成長の舵をとれ ー成功するスタートアップの共通点とは?」
  • エリン・ウィーゲル(Erin Weigel)元 Booking.com プリンシパルデザイナー
    「成果を生むデザイン:コンバージョンデザインで顧客体験を向上し、ビジネスを成長させる」
  • チャールズ・ドゥ(Charles Du)元NASA/Apple プロダクトマネージャー
    「実践するプロダクトデザインの極意ープロダクトを「化け物級」の成功に育てる方法」

異なる視点からのアプローチでしたが、3人に共通していたのは、「“良さそう”という安易な発想を捨て、最も重要な課題にのみ注力する」という学びでした。以下に、それらの学びを凝縮して共有します。

マット氏「”70点”は抜け出せなくなる沼」

初期のPaypalを世界的サービスへと成長させたマット・ラーナー氏のセッションでは、「Sevens Kill Companies(7という数字が企業を殺す)」という強烈なメッセージが紹介されました。ここでいう7とは、100点満点中の70点を指し、「最善」ではなく「善」で満足することの危険性を示唆しています。

マット氏が経営する「SYSTM」のブログには、採用面接に関する分かりやすい例が掲載されています。採用面接の評価が50点以下の場合は簡単に不採用の決断ができますが、70点の評価を得た人は採用するかどうかのジレンマがあります。70点の人を良さそうと採用してしまえば、後にもっと優秀な100点の人材が見つかったとしても、枠がないので採用ができなくなります。

同様の事態はプロジェクトにおいても起こりえます。一見成果が出ているように見える70点のプロジェクトは、多大なコストを費やしていても中止しにくく、より高い成果が期待できる「最善」のプロジェクトにリソースを集中できなくなる可能性があります。

70点で妥協するという誘惑に負けてしまうと、最後にはそこから抜け出すことのできない深い沼にはまってしまうのです。

【現場をこう変える!】重要なことを問い、確認する習慣を根付かせる

70点で満足しない文化を作ることは容易ではありませんが、マット氏は今日からできることを教えてくれました。

それは「今、あなたがやっている“最も重要なこと”は何ですか?それはどうなっていますか?」というシンプルな問いかけをするということです。部下の些細な状況まで詳細に確認してしまうと、重要でない情報に意識が引きずられ、本質的な課題への集中を妨げる可能性があります。チームが本当に重要な業務に注力するためには、「確認すべき事項」と「伝達すべき事項」を精査し、問いかけることができます。これは今からでも実践可能です。

これは、部下に対してだけでなく、自身への問いかけにも応用できます。今後は、何かを実行する前に「これは本当に重要なことか?」と自問自答する習慣を身につけたいと考えています。

エリン氏「機能が期待した成果を出さなければ、無い方が良い(Less but Better)」

Booking.comで活躍されたUXデザイナー、エリン・ウィーゲル氏のセッションでは、「無益なアイデア(機能)を生み出さないことこそが成功への近道だ」という言葉に強く心を揺さぶられました。

これまでの私は、たとえ成果の少ない機能であっても、「わずかながら誰かの役に立つかもしれないし、悪影響はないだろう」と考えていました。しかし実際には、そのような機能が技術的なメンテナンスの負担となったり、将来的な機能追加の妨げになることがあるのです。

安易な機能の追加は、まるで無責任に新しいペットを飼うようなものです。一度リリースすれば、継続的な対応が常に必要となります。機能が増えるほど対応も増え続け、本来プロダクトを成長させるべき重要な機能に注力できなくなってしまうのです。

ペットを飼うと世話をし続けなければならないように機能も継続的に対応に追われることになる

エリン氏は、効果の薄いアイデアは実行しない方が良いという意味で、「Less but Better(ないほうがマシ)」という言葉を強調しており、それが強く印象に残りました。

【現場をこう変える!】「やめる」ための生存指標を設定する

機能をリリースする際に「1年後に月間アクティブユーザー数がxxx人に満たない場合は停止する」などの、撤退判断のための指標を設定することで、プロダクトの足かせとなる機能を削減できると考えました。プロダクトを成功に導くためには、効果が出ていないとわかった施策の撤退判断も重要な業務であるという認識は、大きな発見でした。

これは、昨年のUX DAYS TOKYO 2024に登壇されていたマット・ルメイ氏が紹介していたプロダクトの「生存指標」にも通じる内容で、継続してUX DAYS TOKYOに参加したことで学びがつながって理解が深まりました。

チャールズ氏「MVPは重要な課題(ペイン)を解決する機能」

NASAとAppleでの豊富な経験を持つプロダクトマネジメントの第一人者、チャールズ・ドゥ氏が解説されたプロダクトピラミッド図は、MVP(Minimum Viable Product:実用最小限の製品)を理解する上で非常に役立ちます。UX TIMESで紹介されている用語解説記事「MVP」にも掲載されており、これまで理解していたつもりでしたが、自身の解釈が誤っていたことに気づき、大きな衝撃を受けました。

この図における最優先事項である「基本機能」とは、ユーザーの最も重要な課題(ペイン)を解決する機能であり、単なる初歩的な機能(basic)を指すものではありません。

チャールズ・ドゥ氏が手がけた全米のコンサートチケット販売シェア9割を占めるサービス 「Ticketmaster」の事例では、事前にオンラインで購入可能にしたことで、当日会場でチケット購入のために並ぶというユーザーの苦痛を解消しました。多少の手数料がかかったとしても、利便性の高さからユーザーは増加し、サービスを継続的に利用したそうです。

この事例が示すように、優れたプロダクトはユーザーの重要な課題を解決することで、驚異的な成長を遂げるようになります。「Minimum Viable Product(MVP)」は「最小限」という言葉から、ともすれば小さくするために、初歩的な機能だけを開発すべきだと捉えられがちですが、本質的な課題解決なくして、後から機能を拡充してもプロダクトは成功しないという重要な認識を得ました。

【現場をこう変える!】競合機能を充足するのをやめ、重要課題の探索へ

これまでは誤った認識に基づき、「まずは競合他社が持つ初歩的な機能を網羅的に揃えるべきだ」と考え、機能の充足にばかり注力していました。

しかし、この学びを得て、次期ロードマップを検討する際には、ユーザーにとって重要な課題を深く探求することから始め、「成長の種」となるような本質的な機能を見極め、それを徹底的に磨き上げていく決意をしました。

今からできる「やるべきことを問い直す」こと

3つのセッションを通じて、重要でないものは「やる」よりも「やめる」「やらない」ことこそが、プロダクトとチームを健全に成長させるための戦略だと確信しました。「やめる」決断は容易ではありません。これまで投資してきたことへのサンクコストバイアスや、ステークホルダーへの説明、変化への抵抗など様々な壁があります。しかし、UX DAYS TOKYO 2025で「本当に重要なことだけをやる」大切さに気づいた今、立ち止まって問い直すべきではないでしょうか。

「本当にやるべきことは何か?」「そして、そのために、今すぐ『やめるべきこと』は何か?」世界的UXer達の言葉を直接受け取って学んだUX DAYS TOKYO 2025カンファレンスは、私にとって、この本質的な問いと向き合う貴重な機会となりました。この記事を読んだ方も、ぜひ一度、自身の仕事やチーム、プロダクトを見つめ直してみてください。

さいごに:カンファレンスに参加したから”大きな間違い”に気づいた

UX DAYS TOKYO 2025への参加を通して、カンファレンスで得られる学びの価値を再認識しました。それは、海外の第一人者たちの膨大な知識が、「本当に重要なこと」に凝縮され、たった一日で習得できる機会だからです。

スピーカーの書籍やブログ、そしてAIツールの進化により、知識の習得や言語の壁は以前よりも低くなりました。しかし、情報の正しい解釈は決して容易ではありません

私と同様に、有名な「MVP」という言葉を間違って解釈している方は多いのではないでしょうか。どれだけ多くの情報を得ても、その解釈を誤れば、学びは無意味になります。

残念ながら、UX関連に限らず、日本の多くのサイトやメディアで誤った解釈に基づいた情報を見かけることがあります。もし私がUX DAYS TOKYOで学んでいなければ、ずっと間違った理解のまま、成果を出せずにいたかもしれません。しかし、スタッフとして活動する中で、カンファレンスだけでなく、日々正しい学びを得られています。だからこそ、これからもここで学び続けることが、私にとって最善の道だと確信しています。

カンファレンス終わりにスタッフでパシャリ

BtoB人事業務アプリのコンサルタント→エンジニア→BtoCのWebディレクターを経て、再度BtoB業務アプリとなる物流プラットフォームのUIUXに挑戦。オンライン/オフライン双方でのBtoBUXを改善すべく奮闘中。

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