〜エリカ・ホール、エビデンスに基づくデザインとデータの未来とは〜
この記事はエリカ・ホールの「Erika Hall on evidence-based design and looking beyond data」を翻訳したものです。
エリカ・ホールは外科医ではありませんが、医療のたとえを使いながら、ウェブデザインの難しさを次のように語ります。
「仮に世界に通用するエクスペリエンスを再構築するためには、組織内のワークフローを再考する必要があります。
組織の中にある神経や血管を結合することなく、顔面移植手術を行うようなものです」彼女は続けます「新しい顔は、乾燥して死んで頭蓋骨から滑り落ちてしまうでしょう」。
Mule Design での活動
ホールは、Mule Designが行った全米オーデュボン協会(アメリカ合衆国にある、野鳥保護から始めて広く自然・環境保護を目的とする団体)のサイトのリニューアルについて話します。
結果、 定着ユーザを300%をも増加させました。再デザイン中組織全体を結束させることが最も重要な理由、そのプロセスで最も困難なことの1つ、どうやって人を説得してそれまでのやり方を変えるかについて話します。
「ユーザーにはルーティンがあります。私達 Multe Design は、クライアントと設計者がユーザのルーティンを理解するようデザインする必要があります。組織にも習慣があります。そして、そうした固定された習慣を変えることは非常に困難なことです」と彼女は続けます。
「そうした対症療法的な作業をやめ、仮説上は全員の生活を楽にするものであったとしても、変化を行うことこそ仕事だと認識する必要があります。何も考えずに作業する習慣ができているので、どんな新しいプロセスよりも解決方法を考えず、実行しないことは[今でも]楽だと感じられています」。
習慣を変化させるためは組織の構成員は、習慣的に行われている物事の背景を理解しなければなりません。
「様々な目標を達成する人々に、、組織の目的を目に見える利益に結びつける必要があります。
どのように自己の職務内容を理解し実践しているか、お互いコミュニケーションしているかを理解する必要があります。人に変わるよう求める前にその人達に耳を傾けるようにしましょう」。
2001年に、デザイナのマイク・モンテイロは、ホールと主に Mule を設立しました。この2人は、エクスペリエンスデザイン会社 Hot Studio(2013年にFacebookが買収)で出会いました。
「2人ともこの仕事が大好きで、ずっと続けたかったのです。 しかも自分たちでと、考えMuleを設立しました。私達は酷い従業員だったんです。今までのマネージャー全員にお詫びしたいと思っています。」と彼女は苦笑します。
「しかも、2001年は、インターネットにより、新しいマーケットが生まれようとしていました。それも後押しとなり、起業しました」。
このスタジオの最初のクライアントは Fossil Rim という野性保護センターでした。
そのすぐ後にYahoo、国連とクライアントが立て続けに殺到しましたが、立ち止まってはいられませんでした。
現在緊密に結びついた12名のチームのスタジオは、近頃ではプロジェクトと並行して、トレーニングと組織コンサルタントを行うようになりました。
ネガティブな反応もあったものの、多くのチャンスがあったようでした。
「数年前、クライアントサービスの終焉について多くの噂が広がりました。その噂は、自営に疲れ組織で働きたくなったデザイナーから発生したようで、それがむしろ良いのです。まだまだ多くのやるべき仕事がそこに残っています」
「調査を制作活動の上でのプラスアルファとして考えるのは間違っています」
Mule では、調査から全てが始まります。
これは特にホールの信念に近いテーマです。
調査手法を詳しく説明している本「Just Enough Research」の著者でもある彼女は、成功率を高める上で、研究が重要であることを人々に気づいてもらおうと、この主題について多くの講演も行っています。
問題は、私達が、「調査」という言葉をそれ自体で新しい知識を得ることを目的とした活動の意味で使っていることだと彼女は主張します。
「これでは、何か付加的な活動のように聞こえます」と彼女は指摘します。
「調査を特別な追加活動として考えることは止める必要があります。問題解決に必要な情報を集めることが、問題解決の一環なのです」。
ホールは、根拠を基にしたデザインを行い、「調査」という行動を再構成することを提案します。
「根拠を持ってデザインを決定することが重要である反面、推測に過ぎないということです。建築家を雇って、お金を節約したいので現場の状況調査はいらない、または建物が利用用途を考慮しなくて良いと建築家に発注したケースと考えてみてください。馬鹿げているでしょう」。
調査段階では、は意思決定の範囲について考えることから開始し、次に決定に情報収集を行うことですと彼女はアドバイスします。
みなさんは情報や推量から開始していますか?
自分の情報にどの程度正しいと自信を持って言えますか?
誤りがあった場合のリスクはどこにありますか?
こうした疑問から、何を調査・情報収集するべきかが明確になってきます。
ビッグデータとの付き合い方
データだけでは何も役に立たない、ということをデザイナーは忘れてしまいがち、ということをホールは観察しています。
センサーが埋め込まれているデバイスを持ち運び、日々の生活とともに活動データを生成しています。そして、ますます私たちの生活はインターネットを通じ記録されています。
「測定と追跡できる情報量には限界がありません」とホールは言います。
しかも、ビッグデータを基にした決定を行いたいデザイナーや技術者にはとても素晴らしい時代になっているのです。しかし、必ずしも多くのデータが、大きな意味を生み出すわけではなく、むしろ、何が問題かを把握することが難しくなるかもしれません。
「データに反応し、測定することが最も簡単な事柄を、あたかも最も重要であるかのように扱うことは非常に簡単です」と彼女は注意を発します。
「私たちは、パターンが合った時だけ活動が活発になる怠惰な傾向があります。
なので、時間をかけて調整し、懐疑的な思考が必要な問題でなく、パターンが有るような問題に興味を惹かれてしまいます。
そして、確証バイアスに頻繁に陥ってしまいます。自分がすでに持っている意見をバックアップしたいとき、自分の望むデザインを支持するようなときデータから根拠を見出すことは非常に容易なのです」。
Generate Sydneyでのエリカのセッション「Beyond Measure」は必見です
9月のGenerate Sydneyの発表でホールが主張すると思うので、まだはっきりしたことは言えませんが(2016 年 9 月に ホールが実際に発表されました)、人間の経験や選択のような定性的なデータがの重要性はどの程度であり、どうすればデザイナーは 定性データををデザインの戦略に取り入れることができるのでしょうか?
「「定量化できないデータ」というと、魔法の妖精の粉のような響きがありますが、定性的データとは単純に第三者の体験談です。測定よりも内容の濃い情報が多くあります」と彼女は言います。
「体験談は、取り組む人にとってより簡単です。なぜなら、人間とは計算機ではなく物語の語り手だからです。測定では、なぜ事象が起きているのか、そしてその「なぜ」がどれほど重要なのか私たちは理解できません」。
情報を利用する方法はシンプルです。
観察と議論です。
サイトを使う一握りの人を対象に利用状況を観察し、議論することです。
なぜたった1日でコンバージョンが低下したのか見つけることができるかもしれないとホールは主張しています。
「確かに、A/Bテストで様々な修正を行うことができるかもしれませんが、それは単に試行錯誤に過ぎません。 A/B テストは、統計的に有意な変化を確認できるかに左右されます。これは非常に無駄なことです」。
ここで注意したいのは、計算と測定から開始すると、最も簡単なことを計算測定する可能性があることです。
測定方法自体がまちがっている可能性があります。「目的は何か理解し、筋の良い方法かどうかを懸念するのは止めましょう。
最も重要なことです」とホールは断言します。
「多くの誤った意思決定は、賢く見えるかどうかの不安に根ざしています。これは愚かなことです」。
「失敗しないためにも、問い続けましょう。」
「まとわりつく恐怖」から逃げない
ホールは恐怖に挑戦することが大好きです。彼女はそれを「まとわりつく恐怖」と呼び、人々の心に根付く病だと考えています。
デザインでは、協力しようとすることや求めることより、自分たちで問題を解決しようとする人の中で頻繁に生じます。
また、リーダーに疑問を投げかけたり、メンバーが、リーダーの指導力に疑問を投げかけることを恐れている組織を目にします。
しかし、疑問を持つことが、良い研究・調査の出発点となり、どれくらい研究が十分か知るためにも重要です。
「解決できる問題を発見して、欠けている情報を求めましょう」と彼女はアドバイスします。
「自分たちが陥っている先入観を綿密に見直しましょう。何を問うべきか決めることで、その疑問に答えてくれます。質問することを止めると、失敗に終わってしまうでしょう」
ホールは改善を好みます。現状維持に甘んじていることは、生産的ではありません。快適は、自分が成長していないことにほかなりません幸運なことに、Muleは喜んで、ホールが改善を行っていくことを歓迎しています。
「自分でビジネスを行うことは、常に不満を持ち改善を続けることを強いられる最高の状態です」と彼女は笑います。「実際、私は楽な状態になることがありません。いや、それを信条にしているくらいです。いつでもチャレンジするようにしています」
彼女は続けます、
「自分のキャリアの初期のころの経験は忘れてしまいたくなりますが、今となっては大事なものです。
この積み重ねた専門知識全てを総動員できるような新しい仕事を始めたいと思います。
そして、Muleにはそのような素晴らしい人たちが働いています。その人達を正当に評価し、サポートして、輝くチャンスを提供したいと思っています」。
Muleは新たに、クライアント業務と今後の業務を円滑にすすめるために、本拠地サンフランシスコに注力することも考えています。スタジオの新しいスペースで、チームルームはアートギャラリーを運営し、地域で開催する様々なイベントのためのスペースを提供します。
「楽しいことがたくさんあり、それが私達にとって本当に重要なことです。
多くの新しい企業がサンフランシスコの恩恵受けているのに、返していないようです。
例えば、社内ケータリングランチのような従業員からしてみると素晴らしい文化も、一方では、地元レストランの売上に打撃を与えます。
私たちはこのサンフランシスコを愛しているからここにいます。
1日中綺麗なオフィスに閉じこもったままなら、別にサンフランシスコでなくても良いのではないでしょうか」
「テクノロジーは変化しますが、人間は変わりません。ウェアラブル、AI やVRも、新技術に対して熱中することばかりではいけません。
自分たちが何を成し遂げるかに集中すべきです」とホールは説明します。
「デザインは変化をもたらします。どんな未来を願っていますか?」