TOP テクノロジー・技術 AI AIファースト銀行とは何か — BCGの最新レポートから読み解く金融の未来

AIファースト銀行とは何か — BCGの最新レポートから読み解く金融の未来

AIファーストについての実践的な知見を数多く発信しているBCG(ボストン・コンサルティング・グループ)の最新レポートを読んでみました。

今回のテーマは「銀行」。

銀行や保険といった金融業界は、規模の大きさに比べてDXやAIの導入がやや遅れている印象がありますが、BCGの報告によると、「AIファースト銀行」 はすでに世界で生まれ始めており、その動きは業界の根本を変える可能性を秘めています。

2030年、AIによって3,000億ユーロ超の利益創出へ

レポートによると、小売銀行(リテールバンク)は2030年までに、AIの活用によって年間3,000億ユーロ(約48兆円)以上の追加利益を生み出せる可能性があります。
これは単なるコスト削減ではなく、銀行のビジネスモデル自体を再構築する変化です。

AIはもはや「効率化の手段」ではなく、「新しい利益構造をつくる中核的な存在」になりつつあります。
BCGは「AIファースト銀行への移行」を企業の生存に関わる戦略的課題として位置づけています。

銀行の中で台頭する「AIエージェント」

注目すべきは、AIエージェント(自律的に判断し行動するAIシステム)の役割です。
BCGの分析によると、現在すでにAIによる価値創出の17%をエージェントが担っており、2028年には29%に達すると予測されています。

このAIエージェントは、コンプライアンス、リスク管理、カスタマーサポートといった業務を、ほぼ追加コストなしで24時間稼働できるようになります。
例えば債権回収のパフォーマンスを改善し、コストを30〜40%削減するなど、すでに具体的な成果も現れています。

BCGのレポートの中で、ホルガー・ザクセ氏はこう述べています。

「AIは単なる効率化ではなく、銀行というビジネスモデルを再定義する力を持っている」

「AIファースト銀行」の6つの特徴

BCGが提示するAIファースト銀行の特徴は以下の6つです。

1.超パーソナライズされた顧客体験
顧客一人ひとりの財務状況をAIがリアルタイムでモニタリングし、最適な提案を自動的に実行します。

2.包括的で柔軟な金融ソリューション
ローンや預金、カードなどのサービスが顧客の状況に合わせて動的に変化します。

3.見えない・埋め込まれたインターフェース
SNSやECサイト上で自然に決済・信用・貯蓄などの機能が組み込まれるようになります。

4.自律的な業務運営
エージェント型AIがコンプライアンスやリスク管理を自動的に実行し、人間は監視・指針設定に集中。

5.リアルタイムのリスク・資本配分
地域や顧客を横断して、最適な資金配分をリアルタイムで実現します。

6.スリム化された人間中心組織
AIが日常業務を担うことで、人間は戦略・創造・関係性構築といった「人間ならではの価値創出」に集中できます。

変革を遅らせる銀行は「構造的に時代遅れ」に

AIの導入を後回しにすることは、もはや単なる機会損失ではありません。
BCGは、「変革を遅らせる銀行は構造的に時代遅れになる」と警鐘を鳴らしています。

AIファースト銀行への道のりは、ツールを導入することではなく、業務モデル全体の再発明を意味します。
成功するためには次の3つが不可欠です。

  • 強固なデータ基盤の構築
  • AI能力のスケーリング(拡張)
  • 強いガバナンスの確立

これからの銀行に求められること

BCGはAIの成熟度を3段階に整理しています。
導入(Deploy)」「再構築(Reshape)」「創出(Invent)」です。

多くの銀行がまだ「導入」の段階にとどまっていますが、本当の価値は「再構築」と「創出」にあります。つまり、AIでタスクを自動化するだけでは競争に勝てず、AIを中核にビジネスを再構築する戦略的視点が必要です。

また、BCGのマネージング・ディレクターのバラット・ポッダー氏もこう指摘します。

「多くの銀行がタスクの自動化にとどまり、ビジネスモデルを再設計できていない。スケールと創出を両立できる銀行こそが次のリーダーになる」

IBMの副社長ロブ・トーマス氏の書籍にも「AI+」が記載

IBMの副社長ロブ・トーマス氏の著書『生成AI時代の価値のつくりかた』にも、「AIファースト」という考え方が紹介されていました。同書では、AIを単に付け足す場合を「+AI」、AIを基盤として活用する場合を「AI+」と表現しています。

つまり、「AIファースト」とは後からAIを“足す”のではなく、最初からAIを中心に設計・構築する考え方なのです。

書籍内でも銀行について語られていてました。それは、銀行が初めてATMを導入したときのエピソードです。当初、ATMの登場によって行員の仕事が奪われるのではないかと懸念されていました。
しかし実際には、ATMの導入によって行員は日常的な事務作業から解放され、顧客と向き合う時間が増えたことで、むしろ売上が伸びたというのです。

この事例は、AIファーストの本質を象徴しています。
AIは人の仕事を奪うものではなく、人がより価値のある活動に集中できるようにするための基盤なのです。

Kodak と Garminから考えるAIファースト

さらに、ロブ・トーマス氏の書籍では、市場の変化にどう対応するかで明暗が分かれた企業の例も紹介されていました。
象徴的なのが Kodak(コダック)Garmin(ガーミン) です。

コダックは、実は世界で初めてデジタルカメラを開発した企業でした。
しかし、自社を「フィルムの会社」と定義し続けたため、デジタル化という大きな波に乗り遅れてしまいました。
一方、ガーミンは自らを「カーナビの会社」とは考えず、「追跡と地図情報の会社」として再定義しました。
その結果、スポーツやアウトドアといった新しい市場へと柔軟にシフトし、今も成長を続けています。

この対照的な2社の例は、「AIファースト」にも通じます。
変化を恐れず、自らの存在意義を再定義できる企業こそが、次の時代に生き残るのだと感じさせられます。

まとめ:AIファーストは「銀行を再定義する変革」

AIファースト銀行とは、AIを導入する銀行ではなく、AIを前提に再設計された銀行を意味します。
この変化は金融業界だけでなく、あらゆる業種に波及していくでしょう。

AIが人の仕事を奪うのではなく、人の役割を「より価値の高い仕事」にシフトさせる。
そのための設計と判断力こそが、これからのリーダーに求められるスキルといえます。

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