「Jobs To Be Done(ジョブズ・トゥー・ビー・ダン)」 の概念を理解すれば、価値創造を理解するのに役立つ視点が得られる。
「Jobs To Be Done」を有名にしたのは、ビジネスリーダー、Clayton Christensen(クレイトン・クリステンセン)だ。彼の名著「The Innovator’s Dilemma(イノベーションのジレンマ、翔泳社)」の続編の「The Innovator’s Solution(イノベーションへの解、翔泳社)」の中で「Jobs To Be Done」の概念が触れられた。
Jobs To Be Done(JTBD)とは?
JTBDの単純明快な理論は、『人はジョブを片付けるために製品やサービスを「hire(雇用)」する。』である。
例えば、就職面接で良く見てもらえるように新しいスーツを「hire(雇用)」する。または、友人と毎日連絡を取り合うためにFacebookを「hire(雇用)」する。仕事の後に自分へのご褒美として板チョコを「hire(雇用)」することもあるだろう。これらはすべてJTBDだ。
Strategyn(ストラテジェン) やThe Rewired Groupなどのコンサルティング企業は長年JTBDを使っていたため、JTBDのフレームワークは最近大きな注目を集めるようになった。
私はこれまで様々な状況でJTBDを扱うことができて幸運だった。私の新しい著書『Mapping Experience(マッピング・エクスペリエンス、オライリージャパン)』でも、至る所でJTBDに触れている。
しかし、JTBDへの関心が急に高まったことで誤解も生まれている。以下で、私が遭遇したよくある誤解をいくつか紹介する。
JTBDsフレームワークはタスク分析やユースケースと同じである(誤り)
「ジョブ」はニーズだ。JTBDsアプローチでは、人は期待する効果を求めて行動すると考えられる。
例えば、就職面接のために新しいスーツを「hire(雇用)」する場合、期待する結果は「仕事を得る確率を高める」、「自信を持って面接に臨める」ことかもしれない。
自分へのご褒美としてチョコレートを「hire(雇用)」する場合、期待する結果は「ストレス軽減」かもしれない。
ジョブの状況も理解に欠かせないものだ。Christensenの著書にもあるように、期待する結果への理解を助けるのはジョブを片付ける状況だ。
顧客が陥っている状況に着目して製品を開発する会社の方が、顧客自身に着目する会社よりも、予想通りのヒット商品を発売できる。
別の言い方をすると、分析の重要単位は状況であり、顧客ではないということだ。
[『The Innovator’s Solution(イノベーションへの解)』より抜粋]
したがって、ここにタスクが関係してくる(例、スーツを身につける、または、チョコレートを食べる)。しかし、JTBDsが関与するものは、単なるタスク分析やアクションよりずっと大きい。JTBDではニーズと目標も重要であり、最終的には、より幅広い状況を考えることになる。
JTBDsは感情と社会的関係を見落とす(見落とさない)
Jobs To Be Doneは機能的なジョブの観点から説明されることが多い。しかし、感情的・社会的ジョブもある。それぞれのJTBDは3つの次元から観察できる。
- 機能的ジョブ 人の要求を満たす実用的なタスク
- 感情的ジョブ ジョブ達成時に人が期待する感情
- 社会的ジョブ ジョブ達成時に人が社会的にどう捉えられると思っているか
例えば、家主が玄関に電子式のキーレス ドアロックを購入するとしよう。ここで期待する結果は、「侵入者が自宅に入り込む確率を下げる」ことだ。さらに、感情的なジョブ「安全・安心感を増加する」も存在する。そして、社会的には、デジタルロックで「招いた客が自由に出入りできる」というジョブも満たす。感情的、社会的側面もJTBDアプローチの一部だ。
JTBDは単純な消費財にのみ有効だ(誤り)
JTBDsの多くの例は単純な製品やサービスに焦点を置いている。例えば、クリステンセンによる、人がミルクシェイクを「hire(雇用)」する理由の議論は有名だ(結果として、JTBDは「ミルクシェイクマーケティング」とも呼ばれている)。
しかし、JTBDアプローチをより複雑な製品やサービスに適用することは可能だ。
大手カスタマーエンゲージメントプラットフォームのIntercomを考えてみよう。同社はJTBDsを利用してビジネスを構築した。このことは、Intercomのこのテーマに関する最新電子書籍で詳細が説明されている。Intercomは複雑なB2Bソフトウェアで、JTBDの理解に基づいた多くの切り口でサービスを提供している。
JTBDはプロダクトデザインにのみ限定される(全くの誤解)
JTBDはプロダクトデザインにのみ限定されたものではない。JTBDsをセールス、マーケティング、カスタマーサポート、その他に適応することも考えられる。
例えば、SaaSビジネスを行っている場合、JTBDsを使えば顧客が自社サービスをキャンセルする理由を理解できるかもしれない。その場合のコツは状況、顧客の動機、顧客の期待する結果を検討することだ。
また、JTBDsを使って、マーケティングのキャッチコピーを再定義できるかもしれない。機能に焦点を絞るのではなく、自社サービスの使用から顧客が期待できる結果を強調する。2014年のUX STRATで、私は講演中に仮説的なフォトアプリに関連した例を挙げた。
「当社の自動フォトインデックス機能は業界最高」という代わりに、
「当社のスマートインデックス機能のおかげで、コンピュータで写真を楽に見つけられます」と言い換える。
突き詰めていくと、JTBDsを使ってビジネスのあらゆる側面で決断を導き、ソリューションを生み出すことができる。
まとめ
JTBDへの関心と注目が増加するのはほぼ確実だ。
深いフレームワークとしてJTBDの概念を理解することは、上記の誤解を回避するのに役立つ。JTBDsは、機能的、感情的、社会的側面の考慮を含む。JTBDフレームワークは、個人の状況と動機、期待する結果を考慮する。
まとめると、JTBDsは創造価値を総合的に捉える視野を与える幅広いアプローチである。
訳者注:文中のjobは、「The Innovato’s Solution」の日本語版「ジョブ理論(ハーパーコリンズ・ ジャパン 2017)」の文中の「job=ジョブ」と「hire=雇用」を採用した。
告知
UX DAYS TOKYO 2018には、ジム氏を招聘してJTBDsのワークショップ及びカンファレンスを開催いたします。この記事でも詳細されているように、著書である「マッピングエクスペリエンス」ではJTBDsが入っています。ぜひ、書籍を購入して予習しご参加ください。なお、予習イベントも開催いたします。