わたしは、コンサルティングや講座でUX設計を教えることがあります。そこでの学びとして常に、UXは視点と思考が大切と話をしています。
行動経済学でのバイアスの学びも性質を理解せずに、どういう内容かだけを覚えてしまうことがあります。今回は、バイアスをネタに、視点の重要性をご紹介します。
間違った現在バイアス
お正月のTVで「A:今すぐに1万円をもらえる」と「B:1年後に2万円もらえる」のどちらを選択するのか?という国民調査をクイズした番組がありました。芸能人は8割が「A」の”今”でしたが、一般人の調査結果は44 / 56 で「B」1年後の選択が若干多くなっていました。
UX TIMESの読者であれば、これが現在バイアスのことを指しているということはすぐに気がつくと思います。でも、バイアスで説明されている”今すぐもらいたい人が多い”という内容と違って、一般の人は、なんで過半数以上が1年後にもらうと回答しているのだろう?と思ったのではないでしょうか。
この問いに、UX DAYS TOKYOのスタッフに意見を求めてみました。
A:「私も見てました!現在バイアスを使った問題でしたね。「確実に貰える」という前置きに関わらず、「一年後に貰えるかわからないから」と理由を述べてる人がいたのがびっくりしました。権利を失うのが怖くて損失回避も働くのでしょうか。」
B:「現在バイアスだとAのほうが多くなりそうですが、芸能人はAが多く一般人はBが多いんですね。深読みしすぎかも知れませんが芸能人の方が移り変わりのある状況にいるので現状の利益を優先しているのかと感じました。」
C:「もし10万か100万かの比較だったらどうなったのかなと感じました。」
D:「1年後に倍に増えてるならすごい利率だから1年後に2万円の方が良いということは勉強して知っているのですが、それでも直感的には今すぐ1万円のほうが良さそうだなと思ってしまいます。1年後にもらってもなんの話だったっけ?となりそうだなと気持ちの盛り上がりの面で今もらいたいなと思ったのですが、思いっきりシステム1で考えてますね (汗)」
スタッフAさんは、確実という条件を信じずに、1年後にもらえるかわからない?というコメントを不思議に思っています。確かに不思議ではあるのですが、これは、人に備わっている野性的な古い脳・本能で「未来は生きていないかもしれない。」という深層心理が働いています。
人の言葉にすると、”貰えるかわからない”という説明をしていますが、未来への不確実性より今の確実を選択していていると解釈すると理解できるでしょう。バイアスを勉強しているスタッフDさんも直感的に今の確実性を選択しています。
条件が変われば、バイアスはかからない
今回の調査で、(一般の方は)なぜ現在バイアスがかからなかったのでしょうか?
それは、TVで出している条件が「2倍」とあまりに差が多き過ぎて現在バイアスにかかりにくくなっているからです。
(芸能人は移り変わりが激しいことや、ネタを知っている可能性もあるので今回は対象としません。)
スタッフDさんの「10万円か100万円か。」は面白い発想です。これをそのまま今回の条件に入れてみましょう。
「今すぐ10万円」か「1年後に100万円か」どうでしょうか?この10倍の条件であれば、ほぼ全員1年間待つのではないでしょうか。
今回のTVの条件もこれに近く、1年待つことで2倍の2万円になるので、人はシステム2で考えて”こちらがお得!だから待つ”という選択をしているのです。金額の条件は、その時代の金利などにも影響してくるので境界線は時々で変わってきますが、ここでは、条件が変わるとバイアスがかからないこともあると覚えておきましょう。
数と感覚
数によってバイアスがかからないことを理解しましたが、それは、数によって感覚が異なることを理解しておきましょう。
例えば、山道を歩いていたらお猿さんがいました。1匹だと「かわいい」と感じますが、10匹、20匹、30匹…100匹となれば、怖い!と思ってしまいます。
その境は、身の危険を感じるかどうかになります。これも直感的な古い脳で判断しているんですね。
UX設計はちょっとした差で大きく変わる
バイアスを勉強し、そのバイアスを考慮してUX設計したとしても、ちょっとした解釈や設計の違いで大きな違いが生まれます。結果的に「似て非なるもの」になります。同じUX設計でも全然違うものが誕生するのです。
視点と思考がなければ、これらの違いに気が付かないでしょうし、わからないまま設計してしまうでしょう。
そうならないためにも、視点と思考を身に着けていきましょう。