この記事は、プロダクトロードマップの作成方法や、戦略・目標の設定について詳しく解説しています。プロダクト戦略と目標の重要性を理解し、実践に活かすことできます。
なお、Janna Bastow氏は、UX DAYS TOKYO 2025 への出演のため2025年3月に来日予定です。講演内容やワークショップをサポートします。予習にお役立てください。
原文(2019年4月4日 ):https://www.prodpad.com/blog/creating-product-roadmaps/
この記事はシリーズの一部です。

プロダクトロードマップの作成 – トップダウンとボトムアップ
みなさんはプロダクトディスカバリーを経て、プロダクトのビジョンを更新し、戦略を刷新しました。そして、プロダクトの目標を設定し、目標だけでは適切に管理できないことを理解しています。
では、次のステップとして、トップダウンとボトムアップのアプローチをどのように組み合わせているでしょうか?
顧客の課題解決とプロダクト目標の達成を両立させるためには、取り組み(イニシアチブ)を重視した計画の見直しが不可欠です。これには、テーマ別の整理、無駄の排除、目標基準の設定など、さまざまな手法を取り入れることが重要です。これらの計画の詳細な仕組みについては、別途詳しく説明します。
目標とは、プロダクト戦略を実現するための成果を示すものです。目標を達成するためには、プロダクトに具体的な変更を加える必要があり、これが「取り組み(イニシアチブ)」にあたります。目標のみでプロダクトを管理することも可能ですが、一般的にはそれだけでは不十分であり、ロードマップを活用することを推奨します。
目標と取り組み(イニシアチブ)の違いを具体例で考えてみよう
例えば、あなたのビジョンが「敵を降伏させること」であるとします。このビジョンに基づき、「敵を降伏させる」ための戦略として、「任された作戦地域で敵の行動の自由を奪う」という目標が掲げられます。具体的な目標として、「敵の作戦地域への侵入を阻止する」「作戦地域を完全に掌握する」「必要に応じて防御陣地を構築する」といった内容が挙げられます。
目標である「敵の作戦地域への侵入を阻止する」を達成するために、具体的な取り組みとして「C道路の支配を確立する」という方針が立てられます。この方針を実現するためには、以下のようなステップが必要です。
- 詳細な計画の策定
- B丘への戦闘パトロールの実施
- B丘からの敵の排除
- B丘に防御拠点を構築し、C道路の監視体制を整え、射撃経路を確保する
取り組み(イニシアチブ)は、顧客が抱える課題や関連する複数の問題を解決する手段として、明確に説明される必要があります。また、取り組みの成果は、目標達成状況や進捗を示す数値指標(KPI)や、重要な成果指標(OKR)に対して、明確な影響を与えるものでなければなりません。
ここで重要なのは、これらの取り組みが目標達成に貢献するという仮定に過ぎない点です。仮定は正しいとは限りません。そのため、取り組みを一連の課題や仮説として構築し、実験として位置づけることが望ましいです。つまり、各ステップは実験であり、プロダクトに対する特定の変更が、顧客の課題を解決し、KPIやOKRにどのような影響を与えるのかを検証するプロセスとなります。
このアプローチにより、目標に対する進捗状況を明確に把握し、柔軟に対応できる戦略的な判断を下すことが可能となります。

上の図の翻訳
作戦地域への敵アクセスの拒否
道路Cの支配確立
道路Cは作戦地域への主要な進入路であり、道路Cの支配の確立が極めて重要です。道路Cは、丘Aと丘Bの2つの丘から見下ろされる位置にあり、作戦地域の南半分のエリアに位置しています。また、道路Cの周辺では敵の活動が活発であることが確認されています。
- 丘B奪取作戦の計画 [完了]
- 丘Bへの戦闘パトロール実施 [完了]
- 丘Bからの敵排除 [未実施]
- 丘Bでの防衛態勢確立 [未実施]
- 丘Aからの敵排除 [実行中]
- 丘Aでの防衛態勢確立 [予定]
実験を進める中で、フィードバックを収集し、指標への影響を確認することが重要です。これにより、目標を最適に達成するために、ロードマップを柔軟に調整することが可能となります。また、目標の妥当性、戦略の有効性、そしてビジョンの達成可能性を継続的に検証できるようになります。
このプロセスこそが、ロードマップが単なる計画ではなく、戦略のプロトタイプである理由です。ロードマップは固定されたものではなく、実践を通じた学びに応じて適応させ、進化させていくべきものです。
適切なサイジング
*サイジング:システムやサービスの規模に合ったリソースを見積もること、または用意しておくこと
問題解決には、迅速に取り掛かることが重要です。時間を無駄にしないために、大きな課題を細分化し、それぞれの小さな取り組みを効果的に活用しましょう。課題を細分化しながら取り組むことで、正しい方向に進んでいるかを検証できるだけでなく、その課題に取り組む価値があるかどうかも判断できます。さらに、反復と成果の測定を繰り返すことで、取り組みの方向性をより確信できます。
チームは、現在の取り組みが適切に機能していることを確認しながら、他の課題や最終目標に向けた新たな取り組みに着手することが求められます。目標をひとつに絞り、それを達成してから次へ進むことが目的ではありません。むしろ、すべての側面において並行して前進することが重要です。このアプローチにより、特定の課題に没頭しすぎて、全体的なプロダクト戦略やビジョンを見失うリスクを回避できます。
プロダクト戦略の実現とは、単一の目標を達成することではなく、複数の目標を同時に達成し、それらを統合することで具体化されます。最終的には、こうしたプロセスを通じてプロダクトビジョンを実現することが重要なのです。

目標間の相互作用を通じて、プロダクト戦略とプロダクトビジョンが具現化されます。
ロードマップは、いくつかの関連する目標、いくつかの関連しない目標、さまざまな製品目標をターゲットとする、より小さなイニシアチブの混合物になります。
すべての取り組みを直ちに細分化する必要があるでしょうか?こたえは「NO」です。ここで時間軸(Horizontal Time LIne)の重要性が際立ちます。
将来的に実行予定の取り組みは、広範かつ大規模であり、さらなる分析を行わない限り、現実的な形に落とし込むには規模が大きすぎる場合があります。取り組みが右から左へ進むにつれて、徐々に細分化され、実現可能な形へと近づいていきます。一部の取り組みは進展を見せることなく、ロードマップから除外されることもあります。また、元の取り組みの一部のみが進展し、実行に移される場合もあるのです。
目標の割当と追加
取り組みは1つの目標だけに限らず、複数の目標を持つことができます。例えば、似たような目標を複数持つ場合や、取り組みの本質的な部分が複数の目標の達成につながる場合があります。
ただし、取り組みに対して、むやみに目標を増やすことは避けましょう。新しい目標は、その取り組みによって測定可能な変化が期待できる場合にのみ追加します。また、取り組みがどのように目標達成に貢献するのか、論理的な説明(仮説)を用意する必要があります。
取り組みと目標の間に、筋の通った原因と結果の関係を求めることは、不要な機能の追加(機能過多)を防ぐ効果的な方法です。たとえ良いアイデアでも、目標を通じてプロダクト戦略と結びつかない場合は、現時点であなたのプロダクトには適していないかもしれません。この考え方は、ステークホルダーの期待に応える際の判断基準として特に有効です。
取り組みが「後で」実行予定の場合、割り当てる目標は戦略的目標に限定してください。これらは、戦略を直接的に示す広範な目標です。取り組みが「次へ」や「今」の列に移動するにつれて、より戦術的な目標や関連する会社の目標が追加されるようになります。
優先順位付け
プロダクト開発において、多くの取り組みの選択肢があります。これらの取り組みは、同じロードマップ上の他の取り組みや、別のロードマップ上の取り組み、さらには社内の他部門が進める取り組みに依存することがあります。このような複雑な状況下で、実行する取り組みの選定や優先順位づけをどのように行えばよいのでしょうか。
優先順位を決める際には、顧客理解、製品知識、技術的な見識、そしてビジネスへの理解が重要な判断材料となります。ただし、これらに加えて活用できる経験則もあります。
基本的な考え方として、大きな成果が見込め、かつ少ない労力で実現できる取り組みを優先すべきです。しかし、プロダクトは組織全体の中で相互に関連しており、個々の取り組みを独立したものとして扱うことはできません。そのため、この単純な基準だけでは十分とは言えず、ここで経験則が重要な指針となります。
ルール1:目的がバラバラであればあるほど良い
複数の異なる製品目標の達成に貢献できる取り組み(または関連する一連の取り組み)は、優先度を高く設定すべきです。ただし、この原則を適用する際は、それらの目標が互いに独立していることが重要な条件となります。目標間の関連性が強ければ強いほど、この優先順位付けの判断基準としての重要性は低下します。
複数の目標を持つ2つの取り組みの間で優先順位を付けようとしている場合、目標間の性質の違いが重要な考慮事項となります。
例えば、「ユーザー数の増加」と「解約率の削減」を目標とする取り組みと、「米国市場への参入」と「ユーザー満足度の向上」を目標とする取り組みを比較する場合を考えてみましょう。
前者の取り組みは、どちらもユーザー基盤に関連する類似した性質を持つ目標です。一方、後者の取り組みは、市場展開と品質向上という異なる性質を持つ具体的な目標であり、より広範な価値を生み出す可能性があります。そのため、後者の取り組みの方が投資対効果が高いと判断され、優先順位が高くなる可能性があります。
ルール2:会社の目標との整合性
あなたの会社や組織が目標を活用している場合、取り組みが会社の目標と一致しているかどうかも重要な判断基準となります。取り組みが会社や組織の目標をより多くサポートしているほど、優先順位は高くなります。
ただし、会社の目標を基準に優先順位を決める前に、まず製品目標から始める必要があることを忘れないでください。そうしないと、プロダクト戦略ではなく会社の戦略を優先してしまうことになります。重要なのはプロダクト戦略の実現と現在の会社目標との整合性を取ることです。
ルール 3: 依存関係に目を向ける
多くの取り組みは、組織内の他の製品に関する取り組みや、営業、マーケティング、カスタマーサポート、セキュリティ、財務といった他のチームの取り組みに依存しています。同時に、あなたの取り組みが他の製品やチームの取り組みの依存要素となる場合もあります。
他のチームをサポートするために必要な作業を前倒しする必要があるかもしれませんし、依存している他のチームの取り組みがまだ完了していない場合には、自分たちの計画を後ろ倒しにする必要があるかもしれません。
取り組みの優先順位は、ロードマップの列内での相対的な位置によって示されます。「今(Now)」の列にある取り組みが最優先で、その次が「次(Next)」、その後が「後で(Later)」の列となります。
各列内では、優先順位が高い取り組みほど上に配置されています。そのため、「今(Now)」列の一番下にある取り組みは、「次(Next)」列の一番上にある取り組みよりも優先順位が高いことになります。
ただし、優先順位は流動的であり、会社の目標や製品目標、依存関係の変化によって、取り組みが列間や列内で前後することがあります。優先順位を固定してしまい、変化に対応しないというわけにはいきません。
まとめ
プロダクトビジョンから始まり、それが製品戦略につながり、さらにプロダクト目標へと進んだ結果、現在では製品目標に結びついた顧客の課題に基づいて推進されるイニシアチブのロードマップが存在しています。

ロードマップに載せる取り組みは、継続的なプロダクト・ディスカバリーを通じて特定した課題やプロダクト目標に結びついている必要があります。これらの取り組みは、右から左へ移動するにつれて、より明確で詳細なものとなり、左へ進むにつれて、より多くの戦術的目標や会社の目標を取り込むようになります。取り組みの優先順位は、それが配置されている列および列内での位置によって示されます。
現在、顧客志向の取り組みを製品目標および会社目標と整合させ、優先順位を示し、ステークホルダーに進捗を伝えるのに役立つロードマップが完成しています。顧客の課題や製品ビジョンの有効性についてさらに学ぶにつれて、会社目標が常に変化していることを念頭に置きながら、製品戦略を適応させる必要があります。人生で唯一の不変なものは「変化」であり、それゆえにロードマップは静的なものではあってはなりません。
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