8年ほど前に、クチコミサイトを運営する企業のコンサルティングや、海外向けのクチコミサイトの構築を手掛けた経験があります。その際、Googleマップを設計の参考としましたが、クチコミ機能にいくつかの課題があると感じていました。
Googleマップの問題点の一つは、ユーザーによる悪いクチコミがビジネスに過度な影響を与えることです。そのため、私は悪いクチコミを公開せず、ビジネスサイドにだけ表示させるというソリューションを考えました。完全に悪いクチコミを排除するわけではありませんが、その表示方法については後ほど詳しく説明します。まずは、問題について理解していきましょう。
“悪質クチコミ放置”問題とは?
“悪質クチコミ放置”とは、Googleマップに投稿された“やらせ”の悪質なクチコミが営業利益を損なう問題です。事実と異なる情報がビジネスに影響を及ぼすのは、営業側にとって大きな迷惑となります。
インターネット上の地図サービス「Googleマップ」に悪質な口コミが放置され、営業利益を侵害されたとして、全国の医師らがGoogleに対し損害賠償を求めた裁判が開かれました。63人の医師や歯科医師は、所在地が変更されたり、悪質な口コミに対する適切な対応がなされていないとして、アメリカのGoogle本社に約145万円の損害賠償を求めています。2024年7月17日の裁判で、原告側は守秘義務がある医師が事実に反する書き込みに対して反論できない状況にあり、「営業利益が一方的に侵害されている」と主張しましたが、Google側は争う姿勢を示しています。
引用:テレ東BIZ:https://txbiz.tv-tokyo.co.jp/you/news/post_300092
悪質なクチコミは競合他社の評判を落とす目的やストレスマーケティングの手段として利用されることもあります。一方、Googleは数多くのクチコミに対応することが難しいため、どのクチコミが正当で、どれが不正かを判断するのも困難です。
悪いクチコミを表示させない仕組みとは?
冒頭にも述べたように、私の考えでは、悪いクチコミ、つまり☆1〜2つは、一定期間または一定数以上になるまで表示を避けることが問題回避の一つとなると考えています。
悪いクチコミをする場合の心理
悪い評価をする際の心境を考えてみましょう。たいていの場合、その病院やレストランが期待していたものと異なったり、嫌な思いをしたことが不満の原因です。
例えば、安価な店に行って一流のサービスやクオリティを期待する人は少ないでしょう。おそらく、その店がどのようなものかを理解した上で訪問しているはずです。そのため、顧客の期待と実際の差は、ビジネスサイドからは把握しにくい貴重な情報となります。
つまり、悪いクチコミの内容はビジネスサイドに伝わるべきですが、公開する必要はないということです。クチコミを投稿した側も、理解されるだけで満足することが多いでしょう。
自分が1年前に記載した内容を覚えていない
ビジネス側からすると、一度記載されたクチコミは削除できず、ずっと表示されることが多いですが、クチコミを投稿した本人はその内容を詳細に覚えていないこともあります。過去に投稿した内容を覚えている人は少なく、そのため古いクチコミが長期間残り続けるのは問題です。
また、文章は意図せずに誤解を招く場合があり、読み手によって解釈が異なることもあります。書き手の意図と違う捉え方ができてしまうのも問題です。
ユーザーは何を書けば良いかわからない
ユーザー調査を行う際、オープンクエスチョンでは、質問内容によってユーザーが適切に回答できない場合があります。調査で聞きたい内容とは異なる回答が返ってくることも多く、クチコミも同様です。
例えば、隣の客がうるさくて評価を下げているケースです。もちろん、うるさい客に注意しない店側の問題もあるかもしれませんが、そのような一時的な問題が長期間続くことは考えにくいです。
不満は店だけに伝えることで気持ちが晴れることも!?
すべての不満が解消されるわけではありませんが、不満を相手に伝えることで気持ちは落ち着くことがあります。一方的に感じた不快感も、相手に伝えた際の返答で気持ちが晴れることが多いです。双方向的なコミュニケーションの場がなく、単なる一方通行ではインターネットの利点を活かしきれていません。
このように、一方通行でクチコミの力が強すぎると、モンスターカスタマーが生まれる文化が育つ可能性もあります。
表示されないクチコミの貴重な情報はどうするべきか?
悪いクチコミの中には貴重な情報が含まれていることがあります。悪いクチコミが複数寄せられた場合には、過去の悪いクチコミも含めて表示される仕組みを導入すれば、すぐに表示されるより、ビジネス側にも改善の機会・余地を与えられます。
また、ユーザーとお店側とのやり取りはできるようにしておけば、お店側の返答次第で、ユーザーもクチコミ内容を見直し、より有益な情報を提供する意識が生まれるかもしれません。
ソリューションの一例
- 悪いクチコミの評価のカウントはされても、表示はされない
- 悪いクチコミは、ビジネスサイド側だけに通知される
- 一定の数以上の悪いクチコミが続けば、表示する(ある意味、ビジネスサイドにも猶予が与えられる)
- ユーザーの書き込み内容が他の読み手に有益な情報を与えていない場合のみ、ビジネス側からGoogleに申請ができ、申請が通れば、ユーザーの書き込みは表示されない
- 悪いクチコミばかり記載しているユーザー(モンスターカスタマー)の減少になる
Googleマップのビジネスの可能性と改善の必要性
現在のUIでは、今後も同様の訴訟が発生する可能性が高いです。訴訟のポイントは、偽装された悪質クチコミが真実かどうかです。
悪質クチコミが本当であれば店側は反論しにくいでしょう。
つまり、偽装の悪質クチコミであれば、店側がGoogleに連絡するでしょう。その数はそこまで多くなるとは考えにくいため、個別に対応することで問題を解決できるはずです。
もちろん、少ない数ではないと思いますが、偽装のクチコミは読み手にとっても有益な情報ではないため、Googleは情報の品質を上げるためにも行うべきです。
クチコミは、ビジネスにとっては重要な問題であり、丁寧に対応すべきです。訴訟に至る前に適切な対策が講じられるべきです。
Googleマップの情報は多くの有益な面がありますが、永遠に残る情報で人やビジネスが傷つき続けるのは良いデザインではありません。もっと柔軟で改善の余地があるはずです。このあたりは、次の記事にアイディアを記載したいと思います。
8年前に私が設計したデザインは、ミャンマー向けに開発したサービスで、政治的な問題もありビジネスは発展しませんでした。しかし、その問題に早期に気づき設計を行ったことには自負しています。