UX DAYS TOKYO 2016 参加者インタビュー (グラフィックレコーダー五十嵐佳奈さん)
さて、UX DAYS TOKYO 2017 も3ヶ月後に迫ってきました。今回は、前回の UX DAYS TOKYO 2016 の参加者である、グラフィックレコーダーの五十嵐佳奈(いがらしかな)さんに前回の UX DAYS TOKYO についてインタビューをしてきました。五十嵐さんは、カンファレンスとストリーボードのワークショップにご参加いただきました。
まずは、自己紹介をお願いします。
初めまして。五十嵐佳奈(いがらしかな)と申します。
IT系の事業会社で Webデザイナーをしています。グラレコ(グラフィックレコーディングの略)は、2013年頃から学び始めて、2015年以降は友人と共に勉強会を企画するようになりました。
UX DAYS TOKYO に参加されて、どのような感想を持たれましたか?
私は、都内の UX 系のイベントにはわりとよく参加していますが、UX DAYS TOKYO は非常にレベルが高く、内容も濃かったです。
どのプレゼンテーションが印象に残っていますか?
特に印象に残っているのは、アビー・コバート氏のプレゼンテーション (※) です。
※ アビーコパード:カンファレンステーマ「混乱をどのように整理するか?」 参照
彼女の話は、明快で理路整然としていて、納得感を得ることができました。書籍「今日からはじめる情報設計」は、既に持っていたのですが、プレゼンを聞いて、内容の理解がさらに深まりました。特に、「ラベルの違いではなく、(内部)モデルの違いである」という言葉は、私が普段何気なく、感じていたモヤモヤを解消してくれるものでした。
「ラベルの違いではなく、モデルの違い」とは?
例えば、「ペン」という言葉を聞いて、何を想像しますか?
人によっては、シャーペンを思い浮かべたり、ボールペンを浮かべたり、もしくは万年筆を思い浮かべる方もいるかも知れません。つまり、ラベル(名称)は同じでも、各人の頭の中で思い浮かべる「実体」は異なるということです。
言葉に頼ってコミュニケーションをすることの危険性を改めて認識しました。
プレゼンを聞いた前と、後では何か変化はありましたか?
今までは、認識の違いによるコミュニケーションの衝突にフラストレーションを感じていましたが、「モデルの違い」という前提を深く認識するようになって、フラストレーションもなくなり、かつ「相手にさらに近づいてみよう」という気持ちが芽生えるようになりました。
ワークショップはいかがでしたか?
ケビン・チェン氏のワークショップ(※)に参加しました。
※ https://2016.uxdaystokyo.com/workshop/#session-kevin 参照
ケビン氏が提唱するストーリーボードは、まさに先ほどお話しした、コミュニケーションが抱える「認識の違いを生み出すというトラブル」を解消するための手法でした。
ストーリーボードとはなんですか?
日本語に訳すと「絵コンテ」です。複雑なアイディアを、漫画のようなイラストを使って可視化することにより、聞き手の理解度を高めるという手法です。
ワークショップから、どのような学びを得ましたか?
私は、以前より複雑な「ビジネスモデル」「サービスモデル」を可視化したいと思って、何度か試していましたが、どうもしっくりくるものがありませんでした。ビジネスモデル・キャンパスは明快なんですけど、ロジカルで、もう一つ何かが足りないという印象でした。
ケビン氏のストーリボードのワークショップに参加して、「これこそ私の知りたかったことだ!」と思いました。
実際の利用シーンにおいて注意すべき点を的確に教えていただき、これなら業務に使える、たとえ周りに揶揄されても、重要性を説明できると思いました。
ストーリーボードについて学べる場は、今までなかったので、ほんとうに貴重な体験でした。
どのような方が、UX DAYS TOKYO に参加した方が良いと思いますか?
忙しい人に特にお勧めですね。国内の UX 関連イベントに出られなくても、UX DAYS TOKYO にさえ出れば、大枠はキャッチアップできます (笑)。
また、カンファレンスだけで満足するのではなく、最も興味を持ったワークショップに参加することを強くお勧めします。自分で社内で実施できるくらい内容が濃いですよ。
次に五十嵐さんご自身について教えてください。普段愛読しているデザイン関連の本はありますか?
2冊あります。1冊目は、「デザインシンキング(※)」です。
※ https://www.amazon.co.jp/dp/4861008522/ 参照
業務で利用できる様々なフレームワークの実践手法が分かりやすく体系的にまとめられているので、業務の中で頻繁に参考にします。
この手のフレームワークは、理解して満足するだけじゃなくて、実践することが何よりも大事ですね。
2冊目は「SF映画で学ぶインタフェースデザイン(※)」です。
※ https://www.amazon.co.jp/dp/462108836X/ 参照
こちらは完全に趣味ですね(笑)。ちょっと疲れた時に、読むと「よーし、引き続きデザインの仕事を頑張るぞ」という前向きな気持ちにさせてくれます。
なお、本を読むのは重要ですが、私自身は、リアルに会って・話して相手から新しいモノ・コトを吸収することを “より” 重視しています。
仕事をする上で気をつけていることがあれば教えてください
「自分がやりたいことと、周りが思っていることは違う」という前提に立つことです。自分が絶対これが良いと思っても、却下された経験はみなさんもありますよね?
私も、否定されたら、時にはイラっとしたり、悲しいし、落ち込みます。ただし、それで落ち込んで思考停止になったままだと、「負け」だと思っています。そんな時は、聞く耳を持って、相手の理解に努める努力をします。その努力を続けることで、「あぁ、この人はこういう考え方をしているんだ」と気づくことができます。
サービス開発やデザインの世界は、傍から見ると、華やかにうつるかも知れませんが、陽が当たらない場所で、社内での合意形成に昼夜苦心している方が沢山いらっしゃると思います。私もその一人です(笑)。
イメージボードをはじめとした、UXを表現するフレームワークは、私にとっては日常のコミュニケーションにおける衝突を解消するためのツールです。
最後に。五十嵐さんにとって UX とはなんですか?
一言でいえば、「点と点をつなぐもの」です。ここでいう点とは、
- 自分自身
- 目の前の相手(例えば、同僚やプロジェクト関係者)
- 私達のサービスの向こう側にいるユーザ
- ユーザの家族
といった私が影響を及ぼす人達のことを言っています。
日常に散らばる「点」と「点」を、「UX」というツールを利用して地道に「線」に繋げていくことで、自分自身の現在地を把握し、「自分が今何をやるべきことは何か」を常に明らかにすることができます。
これからも、UX という分野を仕事の軸にしていこうと思っています。
(編集後記 2017/1/29)
五十嵐さん、インタビューにご快諾いただきありがとうございました。五十嵐さんは、聡明でありながら秘めたる熱い想いが時折滲み出てくる、とても素敵な方でした。今後もさらなるご活躍を応援しています。