元記事:Letter to a junior designer
あなたの存在は、確かに私には脅威です。あなたの作品は鮮烈で、想像力にあふれ、同年代の頃の私の悲惨な落書きとは比べものにならないくらい素晴らしい。私が悪戦苦闘して学んだことも、あなたは汗ばむくらいで手に入れられることでしょう。そして、いつかあなたは私よりも優れたデザイナーになるでしょう。
しかし今はまだ、私は自分の立場にしがみつこうと思います。それこそが私の存在価値ですから。私は結果を出し、厳しいCEOの発言に対して反論することもできます。また、私はリスクや厄介な問題も何ヶ月も前から察知することができます。私はデザインという賭けにおいて、私はたいていの場合正しい判断をし、勝つことができるのです。そして、その私の判断を人々は信頼しています。
あなたは私をその気にさせることで、私から「あなたが、どこに向うべきか、やらなければならないこと、スピードについてアドバイス」を得ることができます。
スピードを落とせ
あなたは素晴らしい才能に恵まれています。しかし、それを証明することに夢中になり、しばしば結論を急いでしまいます。アイデアが熟す前に枝から摘み取って、お皿に投げ入れてしまうのです。スピードと未熟さを間違えてはいけません。たとえスピードでは新記録であろうと、世の中は間違った答えを必要とはしていないのです。
あなたの先生は「アイデア」をクリエイティブワークの輝く宝石のように褒めてくれたでしょう。つまり、「アイデア」は固い核のようなものであると。しかし、私はそうは思いません。「アイデア」というものは信用できないものです。「アイデア」というのはよく絞って乾かされ、バラバラにされるべきなのです。プロの仕事というのは時折り遊び心にも似ていますが、そんな贅沢は稀です。きちんと仕事をするには、私たちはたとえ有望なアイデアであってもバラバラにして、そしてより良いものにしていかなくてはなりません。
だから、もっと奥深くなってください。たとえ、それが完璧なものなのか、役に立たないものなのかがわかったとしても、アイデアを広げることに時間をたっぷりとつぎ込んでください。そして、取るに足らないと思えることもよく観察してください。より良い答えがその先に見つかることを私は保証します。
考え抜くこと
私たちは、デザインが自ら語りかけると信じたいものです。しかし、この仕事の大部分は、人々がデザインの声を聞くことができるよう手助けをするというものです。説得力のある正しさーーなぜその作品は生まれたのかーーとは、偉大な記録が偉大なプロダクトへと変貌したものなのです。
まだ経験していないかもしれませんが、キャリアを積む中では時には厄介なヤツ(人)に出会うこともあるでしょう。その人物は、あなたが描いたありとあらゆるものについての理由を知りたがります。そうした人に向けて分かりやすく説明をすることもできるようにならなくてはなりません。
そう、ありとあらゆることについてです。
「この線は何?」
「まぁ、これではっきり区切ることができて見やすいですよね。」
「でも、なぜここに?なぜその色で?なぜその濃さで?」
「そのほうが良いから」では不十分です。
あなたには、階層(レイヤー)・バランス・形態を説明する論理的な根拠ーーー言い換えるならば、「そのほうが良い」ということを伝える高度な技術が必要になります。
ただ、それは作品のベース部分を理解できているんだとステークホルダ(利害関係者)を安心させる手段にもなります。同じように、あなたが選ばなかった選択肢は何で、なぜ選ばなかったのかについて説明もできるでしょう。(それらを通して、自分が勉強熱心だったか、あるいは気に入ったアイデアに執着していたかに気づく機会を得ることもできます。)
こうしたことは政治的に感じるかもしれません。確かにそうです。しかし、政治はまさにチームや人々を動かす複雑なアートです。そして、人は年をとればとるほど、人々に対して費やす時間は増えていきます。
衝動を抑える
言葉は重要です。調子に乗らないように注意しましょう。情熱はあなたの信念の強さよりも、その信念の証しとして示すときに有効です。柔らかな言葉にはリツイートは少ないですが、より良い結果をもたらします。 あなたが抱いた直感に嘘はありません。その直感はあなたが自信を持っているものについて、はっきりとした道を示してくれます。
同様に、あなたの仕事へのアプローチも変化するでしょう。現在、デザインはひとつの苦しみとも言えます。世の中では壊れたデザインばかりを見るかもしれません。バカバカしい製品、くだらない間違い、取り繕いで支えられている劣悪なデザインの数々。
そうした愚かしさは決して無くなりませんが、やがてそれらとともに生きる方法を学びます。大切なのはものごとを変えていけるあなたの能力です。世の中について文句を言うことは誰にでもできますが、改善できることができるのは 数人の優れた人だけです。
何に向けて武装をして戦いを挑み、何に降参するのか、課題を絞り込んでいくうちに、怒りやそのエネルギーは次第に薄らいていきます。そして、それは最大の問題に向かっていることを意味してるのです。
この業界で進んでいくにつれて、あなたの関心はツールやテクニックから価値や倫理へと向かっていくかもしれません。産業の歴史は示唆的です。すなわち、適切な注意を払うこと。結局のところ、いつか私たちが持っているものすべてが過去になるように、我々の未来の時間というのは少なくなっていくのです。
そしてやがて、自分自身でやるよりも、他の人たちが自分で正しい結果に到達できるように助けるほうに価値を感じるようになるでしょう。そう、それがリーダーシップと言われるものです。
最終的には、デザインについてあまり考えなくなることで、より良い結果を生むということに気づく視点にたどり着きます。
仕事と生活というのはある程度切り離しておいた方がいいのですが、生活のなかの体験があなたの仕事を形づくっていくこともまた疑いようのない事実です。
だから、どうか幅広い視野を持った賢い人でいることを忘れないでください。できる限り(考えながら)旅をしてください。
読書をしましょう。良い小説は時としてデザインの本よりも多くのことを教えてくれます。
海の存在を思い出してください。共感性や感受性、知恵と理解力を高めることが、より良い作品づくりにつながることに気づくでしょう。
しかし、あなたは賢いので、これが若き日の私自身に宛てた手紙だということにきっと気づくでしょう。ここにあるのは、自身の衰えに愚痴をこぼしている嘆きです。。白くなった髪や自分にはまったく理解できない新しいトレンドへの恐れです。
私の年齢になるといささかバカバカしいーーしかし、いささかバカバカしい業界なのです。