この記事は、UX DAYS TOKYO 2018で開催されたジェイミン・ヘグマン(Jamin Hegeman)氏の講演レポートです。
日本でもここ1~2年前からサービスデザインが注目されるようになってきましたが、ヨーロッパを中心に欧米から遅れをとっている日本では、まだサービスデザイナーという肩書の方は少ない状態です。
既にサービスデザインの仕事が確立している欧米では次なるサービスデザイナーになるための必要スキルセットについて解説されました。
「サービスデザイナー」はよく知られていない肩書
サービスデザインが進んでいる国でも、サービスデザイナーという職種は特殊らしく、まだ良く知られていない職種だそうです。
サービスデザイナーは、どのような人が適しているのでしょうか?以下のような練習問題が出されました。
練習問題:
脳神経外科でのエクスペリエンスを向上するには? |
このような問題を「患者の体験を向上するか」という点で考える必要があります。
ダブルダイヤモンドで考える
先程の問題を「ダブルダイヤモンド」で考えてみます。ダブルダイヤモンドとは、「発見(Discover)・定義(Define)・設計(Design)・配布(Deliver)」からなるインタラクションデザイン思考です。
2つのダイヤモンドにそれぞれ、<発見(Discover)・定義(Define)><設計(Design)・配布(Deliver)」>が含まれています。
医師と患者のインタラクション、環境、コンテキストを見る
ツールを使って問題を明確化し、患者のジャーニーを考えることで様々な解がみえてきます。以下の例を考えてみましょう。
例1:待合室
待合室が混んでいるので、椅子の配置を換えてみた
<発見(Discover)・定義(Define)> | 待合室が混んでいる |
<設計(Design)・配布(Deliver)」> | 椅子の配置を変更 |
例2:パンフレットのデザイン
パンフレットのデザインを刷新して医者の声を届けられるようにする
<発見(Discover)・定義(Define)> | 医師の声が伝わっていない |
<設計(Design)・配布(Deliver)」> | パンフレットのコンテンツやデザインを変更 |
例3:新しい技術の導入
新しい技術を導入し患者同士のコミュニケーションを高める、往診など
<発見(Discover)・定義(Define)> | 医師と患者のコミュニケーション不足 |
<設計(Design)・配布(Deliver)」> | サービスや最新の機器の導入 |
このような問題に対して、質の良い解がいくつも見えるのはダブルダイヤモンドで、問題自体を明確化し、広範にわたる物であることを理解しているからです。
サービスデザイナの貢献度
サービスデザイナはどのような形で貢献出来るでしょうか?
プロダクトデザイナは、アプリそのものプロダクトをブラッシュアップします。例えばアプリのデザインであればデザインがアウトプットになります。
サービスデザイナは「何をデザインするのか」の問いからはじまり、様々なものがアウトプットになります。
サービスとは何か
エコノミスト誌の定義が気に入っています。
“足の上に落とすことができない(つまり実態が無い)様々な経済活動の産物” |
サービスデザインは製品、コミュニケーション、インタラクション、運用、文化、組織を通じて形成される製品・サービスに応用されます。
ユーザーエクスペリエンスは人間と、あるタッチポイント(デジタルであることが多い)とのエクスペリエンスである一方、サービスエクスペリエンスは様々なタッチポイントがあり、それらを総合的に見た場合のエクスペリエンスです。
表面に出てくるサービス・エクスペリエンスには企業文化などの様々な背景から成り立っており、サービスエクスペリエンス・サービスデザインはその全てに関わっています。
顧客だけでなく、ビジネスニーズ・スタッフのニーズすべてを満たすものでなければなりません。これらを頂点とする三角形をエンパシー・トライアングル(Empathy Triangle)と呼んでいます。
エンパシー・トライアングル(Empathy Triangle)
エンパシー・トライアングルは、顧客、スタッフ、ビジネスの3つの観点で成り立っています。
ビジネス上のニーズとは
- 新しいサービスを構築する
- 既存のサービスの改善
- 工程改善
- 顧客のエクスペリエンスの向上
- スタッフのエクスペリエンスの向上
などが含まれます。
これらのアウトプットはデジタルだけでなくプロセスの変化、組織の再編など多くの要素が必要となります。
改善プロセス
実施するプロセスはこの図の通りになります。一例になりますが、以下のような行程です。
リサーチをしてジャーニーマップを記載、念慮(あれこれと思いめぐらすこと)します。そして、ストリーボード、サービスブループリントを作成し、タッチポイントでの実装を考えます。
多種多様なジャーニーマップ
ジャーニーマップの使われる場面がどんどん増えており、それに伴いジャーニーマップのパターンも増えています。
エクスペリエンスマップは感情がわかる
エクスペリエンスの感情の起伏は大きい方が良く、この図(感情の遷移チャート)であれば、Experience2の方が良いエクスペリエンスと言えるそうです。
確かに、サービスを受けて何の感情変動もなければそのサービスは良いものではないと言えます。
ピークエンドの法則(Peak End Rule)
自分の体験(Experience)を思い出す時に思い出しやすいもの(記憶に残っているもの)として、以下があるようです。最後の印象は、UX TIMESの用語集にも出てきた、ピークエンドの法則(Peak End Rule )が紹介されました。
自分の体験で印象・記憶に残りやすいもの
- 一番良かったこと
- 一番悪かったこと
- 最後の印象
即ち、感情の起伏が大きいというのは印象に強く残る、ということ。
サービスデザインの5つの原則
サービスデザインは経験に形を与える(=構造化する)ことで設計したり、共有することが可能になります。
This is service design Thinkingより(http://thisisservicedesignthinking.com/)
人間中心:ヒューマンセンタード(Human centered)
人と話をし、彼らの問題を理解します。研究者やデザイナが、癌患者や看護師・ビジネスオーナーなどと話をし、彼らの悩みを聞くという例です。
共創(co-creative)
調査の結果を受け、自分で解決策を作って提示するのではなく、プロセスエンジニア、ビジネスオーナー、経営者などと議論をし、コンセプトを共有し、優先順位・ストーリー・構造を決めていきます。
優先順位付け(Sequencing)
いろいろと出てきたアイデアの種類を分けたり、優先順位や順番を付けます。
ポストイットを貼ったパネルを清書することで顧客のジャーニーをわかりやすく図示し、共有することができます。
サービスブループリントの制作も有用
サービスブループリントについては紹介レベルで効果的であることをご紹介いただきました。
可視化:ビジュアライズ(Visualize)
可視化にはいくつかの方法があります。今回は「サービスオリガミ」とストーリーボードが紹介されました。
「ビジネス折り紙」は彼らが作ったサービスを可視化するためのツールです。翌日のワークショップはこのビジネス折り紙の作り方を学びました。一般的に、エクスペリエンスの可視化はストーリーボードが制作されます。
全体論(Holistic)
テリトリーマップを見ると、多くの人がそれぞれどのようにサービス・製品に関わっているかの全体像が分かります。
サービスデザイナーが見る世界
例えば、ドアのノブでもWebサイトでも、サービスデザイナーは一般の人とは違った見え方をします。ヨーロッパ、ロンドン、アムステルダム、ニューヨークなどにあるホテル「citizenM hotel」を例に紹介されました。
将来のエクスペリエンスとは何か。を経験できるので、訪れてみる価値があると解説されました。
ロビーの多目的化
まず、ロビーは多目的に使えるようになっています。
ラウンジ、ミーティングスペース、カフェ、ナイトクラブなど時間帯などによって仕様用途を多岐にしています。
セルフチェックイン
チェックインは顧客自身がセルフで行います。実際には、人は控えていて困ったときに助けてくれましたが、基本的な作業は自分で行い不必要に話しかけたりしません。
部屋に入ると自動的に照明がつく
今では当たり前になっていますが、自動で照明が付くのは快適です。
枕へのデザイン
枕にはホテルが提供するフィロソフィーがデザインされ、メッセージを伝えいます。一度は必ず目にするところなので、上手にデザインされていることが伺えます。
その他、いろいろな設計が施されています。
サービスデザイナーの役割はこのように広くに渡っています。様々なタッチポイントとタイミングを提供し、エクスペリエンスのエコシステムとしてまとめます。
例えば、チェックインのエクスペリエンスが良くなければ再デザインします。
部屋の調整がいろいろできる方が良いエクスペリエンスであれば、より良くするにはどうしたらよいだろう、と言うようにエクスペリエンスの向上を図ります。
サービスデザイナーがもたらすべき変化
サービスデザイナーは、人々の生活上のエクスペリエンスに直接変化をもたらすということではなく、デザイナーの考え方を変える、組織を変える、他のメンバーの意識を変える、といったことを通して会社組織の行動様式を変えるのです。
サービスデザインの進化図
サービスデザインがどのように進化していくのか、というフロー図です。
左の方(フローの前半)がbottom up (自然発生的におきるもの)、右の方(フローの後半)がtop down(ビジネス上の判断)で、たいていはサービスデザイナがだれもいない、という状態から始まります。
意識を持った個人が生まれ、そこから誕生。その後、認められてくるにつれ、エージェンシーを雇う、社内プロジェクト化する・・・という形でサービスデザインは組織に根付き、影響力を持ちます。ある時点で、組織にとって重要な役割を持っていることが認知されるようになる。
そうなると、サービスデザインをより深く考え、システム化する必要がでてきます。
ジェイミー氏が所属する米金融大手の「キャピタルワン」は、サービスデザインのツール( Journey Map,Vision Storyなど)が経営システムの中に組み込まれ、ビジネス上なくてはならないものになってます。
将来的には”サービスデザインが行われて当たり前”という世界にならなければならないと考えています。そして、サービスマネージャはデザインプロセスを理解し、様々な立場の人たちとインタラクションする必要があります。
それは多岐に渡り、製品マネージャ、現場のスタッフ、クライアント、マーケティング、テクノロジ・・・にまでも及びます。
サービスデザインの配布
デザインシンキング、リーンシンキング、アジャイル・・・といったトレンドのミームにの中に、サービスデザインがさらに入って来るでしょう。クリエイティブビジョンがジャーニー(Journey)の中でどのように位置づけられ、配布さえるのかが重要となります。
組織の変容(トランスフォーム)
組織の変容(トランスフォーム)について考えてみましょう。メンバーの入れ替わりに伴って組織も変わっていきます。そして、変わっていくためにはどのような助けが必要なのでしょうか?
組織のトランスフォームに必要な要素
- トレーニング
- コーチング
- ツール・テンプレート作成
- 模範を見せる
この4つがあって初めて組織が変わっていくと考えています。さらに踏み込むことで、新たな発見をし、組織自体の再設計が必要であると言うことが見えてきます。
再設計
サービスデザイナになる道のり(Journey)
さらなるサービスデザイナーになるには、いくつかをクリアする必要があります。
例えば、関係書籍を読む、ツールの利用方法を学ぶ、そのためにカンファレンスに参加する、正しいことを学ぶためにサービスデザインのネットワークに入ることでより現場で役立つアイディアも学ぶことができるでしょう。
- 書籍を読む
- ツールの使い方を学ぶ
- カンファレンスに参加する
- サービスデザイナのネットワークに参加する
サービスデザイナに必要なスキル
サービスデザイナーのスキルは多岐に渡ります。何かと何かののスキルが組み合わさってさらなるスキルができることもありますが、主に以下の要素が必要なスキルになります。
- フォーカスを定めことはできるか?
- 長期間にわたってサービス・インタラクションをオーケストレーションできるか?
- 顧客とビジネスの間での価値の交換を促すせるか?
- アウトプットを適切に配布できるか?
- ステークホルダに共感できるか?
サービスデザイナのスキル磨き
スキルが身についたら、それを伸ばす必要があります。自分の技を磨くためには、以下のことを行うと良いでしょう。
例えば、先頭を切ってコラボレーションさせるファシリテーター、ビジョンの意味を明確化させるためのストリーテラー、エクスペリエンスの指揮を取るコンダクター(案内人)、結果を正しく表すデザイナーの仕事です。
サービスデザイナーの信念
- 問題へのアプローチ法を変える
- 人を助ける
- 世界中で必要とされている
そして、それらの作業を行うには信念が大切だ。ということで3つの信念について解説し、セッションは締めくくられました。