UX DAYS TOKYO スタッフの廣瀬です。今回は、UXDT 2015のワークショップとUXDT 2016 のカンファレンスに参加された「エメラダ」 CXOの 赤木謙太さん(あかぎ けんた)さんにお話を伺いました。
DeNA→リクルート→スタートアップの「CXO」に
まずは、自己紹介をお願いします。
はじめまして。赤木謙太(あかぎけんた)と申します。「エメラダ株式会社」という FinTech(フィンテック:ファイナンシャルテクノロジー)のスタートアップで、CXO (Chief Experience Officer) をしています。
メインの業務は、UXDの観点から「サービス設計」「体験設定」を行うことですが、スタートアップなので、自分で手を動かして、デザインやフロントエンドまでやっています。
大学は、武蔵美(武蔵野美術大学)のデザイン情報学科で、写真、動画、プロダクト、イラスト、一通りなんでもやっていましたが、メインは、その頃からブランディングデザイン、サービスデザイン、UX デザインを行なっていました。
新卒で「DeNA」 に入り、ソーシャルゲームのプランナーから、グラフィックデザイナーとフロントエンドの開発を経験しました。その後、リクルートに転職し、UX デザイナーとして、様々な新規事業立ち上げに携わりました。そして、2017年にエメラダに入社したという経緯です。エメラダはリクルート時代から個人的にお手伝いをさせていただいていました。
「学びのサイクル」を生活に入れています
プライベートでもデザイン関連の活動をされているとお伺いしました、どのような活動をされていますか?
プライベートでは「X Design アカデミー」のゼミ長をやったり、HCD-Net の若手向けのコミュニティ「HCD-Net Club」の創設や、コピーライターの卵といろんなことを勉強しています。
社会人としては自分に付加価値をつけていくこと、新しいものを生み出すためにも常に学びのサイクルを生活の中に取り入れるようにしています。
第一線の人からの学び
UX DAYS TOKYO の参加したきっかけはなんですか?
UXDT 2015 から参加していました。その頃は、UX JAMやUX Sketchの様なUX系のイベントはなく、珍しかったです。
特に海外のスピーカーが登壇するイベントなんてほとんどない中、UXDT 2015 では、UX業界で有名なAdaptive Pathの方が登壇されるということで参加しました。
実は、イベント自体を知る(気づく)のが遅く、既にカンファレンスが満席で埋まってたこともあり、クリスリスドンさんのエクスペリエンスマップに関するワークショップにだけ参加になりました。
ジャーニーマップは、自分で描いたことはありましたが、詳しく教わったことはありませんでしたので、しかしワークショップではアドバイスをもらいながら他の人と協力して手を動かすことで深い学びを得るとともに第一線の人に直接質問をし、答えをもらうことで非常に豊かな経験となりました。
日本ではどうしても、二次的な情報になりがちですが、その場で実践中に思った疑問をクリスさんに投げかけると、クリスさんのご自身の体験を持って回答を貰えるので誰も経由しない一時的な情報としてバイアスなく学べたのが良かったと感じています。
それは、UXDT2016 に参加した時も同じことで、海外の第一線のデザイナー達の考えに触れるのは良い機会になりました。
IT界隈のイベントは、当たり外れが多いですが UX DAYS TOKYO は何かしら持ち帰るものがあるという点から安定感があるイベントだと思います。
共感と気づきのマインドセット
UXDT2016 にも参加されたということで、印象に残ったセッションは?
UXDT2015の参加動機もそうですが、UXDT2016 にAdaptive Path の創設者であるジェシー・ジェーム・ギャレットさんが来るので『ぜひ参加したい!』と思っていて、満席になる前に申込してカンファレンスに参加することができました。
彼自身からの直接言葉ということもあってか、以下の言葉が刺さりました。
Changing a Designing is Easy, Changing Mind is Hard
(デザインを変えるのは簡単だが、考えを変えるのは難しい)
また、彼のキャリアは、エディターから始まり、いろんな経験を経たのちに UX デザイナーになっています。そんなたくさんの経験があるからこそ、色んな人の気持ちが分かると思います。
そして、全然異なる職種・業種でも経験したこと、学んだことには共通項があると思います。一概には言えないですが、一つのことを極めることも非常に大事ですが、色んなことを広く経験して学ぶ事が UXデザイナーとして必要なんではないかと思っていたのですが、ジェシーさんのセッションを聞いて、「やっぱりそうだよなー」と改めて確信しました。
表面的なデザインの変更は簡単ですが、「先入観や偏見」を変えるのは、非常に難しいし、パワーがいります。僕もデザインをする際にそれがユーザーのためになるならば「先入観や偏見を壊す」ということを、日々心がけています。
先入観や偏見によって、衝突が起きそうな場面では、どう対処していますか?
「自分ベースで話をしないこと」と、「全員の認識をきちんと擦り合わせること」ですね。これまで色んな職種な方と仕事をしてきましたが、自分ベースで話をしてしまうと、それぞれ価値観が違うので、話が相容れないんですよね。
制作の現場では、必ずペルソナをベースに、話を進めるようにしています。そして、全員の認識が揃うまで、根気よくすり合わせをすることが大事だと思っています。
他に共感したセッションはありましたか?
アビーコバートさんのセッションも分かりやすく共感しました。「情報整理において正解と言える選択肢が2択ある場合、どの選択肢を選べたよいか」という問いに対して「ユーザがどう思うかでしかない」と言い切っていらっしゃるのは、聞いてて気持ちが良かったですね。
あとは元々ロボット哲学の話が好きなので、クリスさんの Narrow AI と General AI の話も面白かったです。「このロボットが出来る範囲はここまでだ」ということを理解するのって、「このサービスができる範囲はここまでだ」ってユーザに理解してもらう、ユーザへの「期待調整」と似ている部分があると思っています。
例えば、なんでも AI (人工知能(Artificial Intelligence; AI))がやってしまうと、人間の核となる「尊厳」という部分まで失ってしまうような気がするんですよね。自分が今関わっているサービスにおいても、「全て自動化にしない」ことを意識しています。
僕は、この「人の尊厳」というものにとても、興味があって、これが武蔵美に編入したきっかけだったりします。元々別の大学で、数学を学んでいたんですが、ある日「自分がやっていることって、いずれ機械に代替されるんじゃないか。」と疑問を感じ始めたんです。それで、「じゃあ、人にしかできないのって何だろう?」って考え始めたら「想像力と発想力だなと。」感じてすぐに武蔵美に編入することを決めました。
セミナーなどで得た知識は、どのようにご自身の糧にされるのですか?
セミナーで得られることは、「マインドセット」と「ナレッジ」の大きく二つに分かれると思っています。
「マインドセット」については、自分のマインドセットと異なるものを無理に取り入れる努力はしません。ただ、自分のマインドセットに近いものであれば、自分の考え方に自信を持つきっかけになるので、もっと伸ばしてやろうという気持ちからモチベーションをあげます。
「ナレッジ」については、まず持って帰って、社内のグループに共有します。そして、必ず自分で使って見て、自分ナイズしますね。紙じゃなくて、EXCEL とかツール使った方が良さそうだとか、試行錯誤して使いやすくしています。
この手のナレッジは、社内だとやらせてもらえないという意見をよく聞きますが。
僕の場合は、とにかく小さく始めますね。「上司から NG を食らったから社内で試すのをやめた」みたいな話も聞きますが、僕からすると「できない会社なら辞めてもいいのでは?」と思っています。
世間では、「大きな壁に立ち向かい続けて、乗り越えることが大事だ」みたいな論調があります。もちろん悪いことではありませんし、時間をかければ誰でも乗り越えることができると思うんですが、「そこに今時間をかけるべきなんだっけ?」ということは常に意識する必要はあると思います。横の道をヒョイっといくことで、その壁を通り抜けることができるのであれば、そうすればいいじゃんと思います。
若手こそ受けるべき!
UX DAYS TOKYO は、どのような方にお勧めですか?
ボクはもっと若手に参加してほしいですね。第一線の方々が集まっているイベントなので、参加費はそれ相応の金額のため、参加者の方もベテランが多い気がします。でもそうではなくて、知識がなくて、スポンジのような状態でこそ、どれだけ質のよいもので満たすかが重要だと思います。
だからこそ若手に行ってほしいし、若手枠みたいな選抜された人だけ安くいけたりしたらいいなと。あとは若手が若手同士のみでベテランがベテラン同士のみで話しているのが本当にいいのだっけ?と思っているので上下の繋がりができるのがいいなと思ったりもしています。
UXはごく当たり前のこと
最後に、赤木さんにとっての UX とはなんでしょう?
UX っていうのは、専門的な言葉じゃなくて、ごく当たり前のことだと思います。「使う人のことを考える」というのは、UX デザイナーだけがやるものではないと思います。
昔からみんなエンジニアもプランナーもプロデューサーも社長といった様々な人が「これ作ってリリースしたい」だけじゃなく、「誰に影響を与えたい。どう思ってもらいたい。」ということを考えていたはずです。それが徐々に意識され、言語化されたのかなと思っています。
仕事において心がけていることは何ですか?
心の豊かさですね。自分が幸せじゃないと、周りを幸せにすることは出来ないじゃないので。自分の心の “持ちよう” だけでなく、周りの心の “持ちよう” もファシリテートしたいと思っていますし、常に「話しかけやすい人」でいるようにしています。
学生時代から「人が思う、感じる」ことに興味
学生時代から自己分析をされていらっしゃったんですね。自分を客観的に見るようになったのはいつ頃からですか?
中学時代は、スポーツに明け暮れていたので、あまり何も考えていなかったです(笑)高校2年の時に、線路で電車に轢かれそうな子供を救ったことがありました。その時、学校とか教育委員会とかから沢山表彰され、自然と色んな人から注目されて話しかけられるようになりました。
その頃から交友関係も広がっていって、色んな人と話す機会が増えました。学生の時って特に多感な時期だと思っていてそれぞれが色んな悩みを抱えていて相談されることがすごく多かったです。
そこから「みんな何を考えているんだろう」「自分はどのような行動すれば良いんだろう」と考えるようになって、「自分の思考」とか「感情の変化」を意識するようになりました。そこからデザインを学び、思考の変化をイメージするようになりました。
漫画を通してデザインやUXについて考える
赤木さんご自身について、追加で質問をさせてください。愛読書はありますか?
デザインとは直接的な関係ありませんが、「G戦場ヘヴンズドア」という漫画が大好きです。漫画の中でとても印象的な言葉があります。主人公の親友のお父さんが、漫画雑誌の編集長なんですが、そのお父さんが、書き手(クリエイター)とし
て最後に求められるのは「人格だよ」というニュアンスの表現があります。
これは本当にそうだと思います。僕もクリエイターとして、最終的に出来上がったものは、自分の人格だと思っています。「自分の性格」「考え方」「”誰” に対して “何” を思っているか」って、自分のつくったものを通して誰にどうしてもらいたいのかをちゃんとサービスに込めていきたいと思います。
あと、「荒木飛呂彦の漫画術」も素晴らしい本です。荒木先生はまさにペルソナを作っているんですよね。このキャラクターはどういう性格で、どういう言葉遣いをするかとかを、全部紙に書き出しています。そのキャラクターの心情にどんな変化が生まれるとその人はどんな行動、発言をするのかを丁寧に設計されていると思います。
荒木先生は、世界観、ストーリー、キャラクターを元にマンガを描き、読者に良質な体験を提供しています。僕らもサービスを中心に良質な体験を提供するという点では学ぶことがたくさんあると思います。
(編集後記 2017/2/14)
赤木さん、インタビューのお時間を頂きありがとうございます。輝かしいキャリアで若くして、ベンチャーの CXO をして活躍されている聡明な方でした。さらなるご活躍を引き続き応援しております。