Good Service代表のSarah Drummond(サラ・ドラモンド)が語るサービスデザインの本質をご紹介します。
日本でもUXのコモディティ化問題が浮上しています。フレームワークやツールは、あくまで作業のツールでしかなく、成果物でも目的でもありません。この記事を読めばサービスデザイナーは、どんなスキルを身に着けておくべきかご理解いただけるはずです。
原文:
「The what not the how of Service Design」
https://sarahdrummond.medium.com/the-what-not-the-how-of-service-design-4d016095b880
サービスデザイン(Service Design)という分野では、ツールや手法ばかりに注目が集まり、本来の目的や意図が見失われることがよくあります。
私たちは、「何をするか(What)」ではなく、「どのように取り組むか(How)」にこだわりすぎてしまいました。本稿では、サービスデザインとは何かを改めて考えます。
『何をするか』とは?
サービスデザインとは、サービスを構築・設計するための実践的なプロセスを指します。本稿で取り上げるのは、専門分野として確立された「サービスデザイン™」のことで、標準化されたツールや手法を用い、体系的に進められるものです。
プロダクトやサービスの市場導入を目指す際、単なる1回限りのやり取りではなく、継続的なユーザー体験を提供できるものを明確に定義することが重要です。
『どのように(HOW)』とは?
デザインに用いるプロセスや手法を指します。
私は以前、以下のような内容をツイートしました。
「デザインがプロセスだけに注目されるようになったのはいつからでしょうか? プロセスはあくまで手段であり、アウトプットや結果を生み出すことが本質です。ペルソナは結果そのものではありません。」
私は長年、サービスデザインが実験的な取り組みから確立されたビジネスモデルへと進化していく過程を見てきました。現在、多くの人がサービスデザインに関心を寄せ、私自身もデザイン思考と組み合わせながらその実践を重ねています。
サービスデザインの発展は、多くの組織がユーザーニーズを理解し、意識的にサービスを設計するきっかけとなりました。しかし、近年では形式化・標準化が進み、その創造的な本質が失われつつあると感じています。
現在のサービスデザインでは、「どのように」という手法にばかり注目が集まり、「何を」という本質的な目的や価値が軽視される傾向にあります。
サービスデザインの進化
サービスデザインの進化について考えてみましょう。
最近、デザインコミュニティCore 77のドキュメンタリー制作の一環として、サービスデザインの先駆者であるNormallyの代表、クリス・ダウンズ氏にインタビューを行いました。クリス氏は、Live|Workの創設に関わった初期のイノベーターの一人です。インタビューでは、クリス氏の視点からサービスデザインの発展における3つの段階について語ってもらいました。
これまでのサービスデザインは、ビジネスや社会にどのような影響を与えてきたのでしょうか? そして、今後の可能性は? サービスデザインの歴史と未来を探ることで、私たちはより良い体験を創出し、より大きな価値を生み出すヒントを得られるかもしれません。
サービスデザインの歴史を振り返ると、3つの段階に分けられます。
- 第1段階:カスタマージャーニーマップやブループリントといったツールが登場し、少数のパイオニアがデジタル時代の新たなデザイン手法を広めました。
- 第2段階:組織がこれらのツールを導入し、顧客体験を理解する手法として活用を始めました。
- 第3段階:ツールの活用が広まり、より実践的なデザインが求められるようになりました。
現在、サービスデザインは新しい手法やツールが次々と登場し、進化を続けています。企業や公共機関においても、デザインの重要性が認識されるようになりました。
サービスデザインは、従来の設計図のようなマスタープランだけに頼るのではなく、新しいツールや手法の登場により日々進化を続けています。複雑な組織の中で働くプロフェッショナルたちは、自分たちの役割をサービスデザイナーへと発展させ、実務の最前線で力を発揮しようとしています。
彼らは、プロダクトリリース、繰り返しの改良、改善といったプロセスに対応するさまざまな手法を使いこなしています。この変化によって、サービスデザインの可能性は大きく広がり、非常に興味深い発展の段階を迎えています。
今回は、航空券検索サービス「スカイスキャナー」のスティーブ・ピアース氏と、政府デジタルサービスのルイーズ・ダウン氏の対談を紹介します。両氏は、デザインプロセスを「ライブデザイン(実践的なデザイン手法)」の視点から考察し、組織での実践方法やサービスデザインの将来像について意見を交わしています。
彼らは、政府サービスや旅行サービスといった明確な分野において、サービスの質の向上に取り組んでいます。具体的な改善目標がなければ、どんな取り組みも空虚なものになってしまうでしょう。
サービスデザインは、組織内での実践を通じて、より実用的かつ柔軟なツールへと発展してきました。社内のサービスデザイナーや外部のデザインエージェンシーに求められる新しい役割は、組織のメンバー全員がデザイン思考を継続的に活用できる仕組みを確立することです。そのためには、ユーザー視点に立ったプロダクトやシステムの構築をサポートすることが求められます。しかし、これこそが私たちデザイナーの新しい使命なのか、改めて考える必要があります。
明るい未来が見えているにもかかわらず、私は一抹の不安を感じています。これまでの経験から、新しい取り組みが形骸化した手順に陥ったり、大手コンサルティング会社による「後付け」の改善活動として矮小化されたりする場面を何度も目にしてきました。
最近、サービス品質の向上に取り組むさまざまな業界の方々と対話する機会がありました。そこで浮き彫りになったのは、「サービスデザイン」という専門領域が、実務の現場で本当に有効なのかという疑問を多くの人が抱いているという現実です。
私は現場の仕事を軽視しているわけではありません。実際、サービスデザインのもとで一生懸命取り組んでいる素晴らしい企業や個人がいることを深く理解しています。しかし、もし企業が本当に優れたサービスデザインに投資するのであれば、この分野はその期待に応え、確かな影響を与える必要があると考えています。それこそが重要なのです。
華やかなUXの裏にある、地道な意思決定の重要性
ある対話の中で、サービスデザイン人材の育成方針やビジョンについて話し合いました。求められるのは、「理想的な」ユーザー体験の設計図を描くだけでなく、サービスの本質と存在意義を問い直せる探究者です。
例えば、NHS(National Health Service)のGP(かかりつけ医)に関するページでは、サービスデザインの手法を活用し、多数の新機能を通じてユーザーエクスペリエンスをマッピングし、ユーザーと協働して設計を進め、一部をプロトタイプ化しました。しかし、重要なのは機能を追加することではなく、データを正確で最新の状態に保つための仕組みを整えることです。これはNHSデジタルがすでに認識している重要な課題であり、必要な思考プロセスの優れた例でもあります。
「共同設計」の目的を見失わないために
私が目にしてきたのは、サービスデザインを委託した企業が、表面的なユーザージャーニーの作成で終わってしまうケースです。サービスがどこでどのように持続可能なのか、または廃止の可能性まで深く検討されることは少なく、ビジネスプランや戦略とのつながりも十分に考慮されていません。
共同設計の取り組みでは、人々のニーズを深く理解し、「本当に必要なもの」を見極めることが大切です。しかし、現場では単なるブレインストーミングや報告書作成で終わってしまう例が少なくありません。特に、公的資金が関わる場合、プロセスが重視されすぎるあまり、実際に役立つものが生まれないこともあります。
「何を作るのか?」という問いへの回帰
私たちは、手順やツールの開発によって、サービスデザインを企業に取り入れやすくしました。しかし、その結果、サービスデザインの本来の目的が見えにくくなってしまったのではないでしょうか。
かつて、デザイナーがサービスを考え、作ることは、21世紀の企業の仕組みを変える機会でした。しかし、手順に縛られすぎたことで、私たちが変えようとした企業の姿に、自らが近づいてしまったのかもしれません。
私たちは「どう進めるか」ではなく、「何を目指すのか」という原点に立ち返るべきです。
(出典:sarah-drummond.com)
この考えは、サービスデザインを教える教育機関や講師の方々にも共有したいと思います。また、若いデザイナーたちが「実践的なデザイン」の力を身につける手助けとなることを願っています。
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