ビジネスの成長に不可欠なUXデザイン

UX DAYS TOKYOでは、定期講座・ワークショップと共に、UXデザインに役立つ書籍を取り上げた読書会も定期的に開催してます。今回は、2月26日に開催した『UX Design for Growth』の 読書会についてご紹介します。

価値あるユーザー体験を提供する

UX Design for Growth』は、サービスやプロダクトの成長戦略にUXデザインが深く関わっていることを説いている書籍で、アジャイルソフトウエア開発とグロースマーケティングの専門家であるMolly Norris Walkerモリー・ノリス・ウォーカー氏によって執筆されています。

書籍では、以下のGrowthHacker.comのCEO Sean Ellisシーン・エリスの言葉を用いて、成長には「ユーザーへの価値ある体験を提供し続けること」が必要であると説いてます。

“At the root of sustainable growth is delivering a valuable experience. A valuable experience is what leads to retention. Without retention, there is no growth”
(ユーザーへ価値ある体験を提供し続けることが、持続可能な成長の根源である。価値ある体験がリテンションを生むのだ。リテンションなしでは、成長はない。)

UX Design for Growth – Molly Norris Walker

UXデザインが、その「ユーザーへの価値ある体験を提供する」ために必要となる思考であり、戦略であり、プロセスとなるのです。

UXデザインに対する誤解

日本では、UXデザインとUIデザインが同時に語られることが多いので、「UXデザイン=UIデザインである」と考えている方が、まだまだ多くいらっしゃるように感じます。

読書会の参加者にこの本を読んだ感想を聞いたところ、(書籍は)UXデザインに関することであるのにマーケティングにも通ずる内容だと感じた、という発言が上がりました。しかし、そうではありません。実際には、UXデザインはマーケティングの領域にも関係する概念です。

例えば、アメリカマーケティング協会(AMA)は、マーケティングを以下のように定義しています。「マーケティング=定量的なデータから市場や競合、組織、顧客を、ツールを用いて分析していく手法やプロセス」と考えられる方もいらっしゃるように感じることがあるのですが、実際には人や社会へ価値提供を行う行為全般を指しています。

“Marketing is the activity, set of institutions, and processes for creating, communicating, delivering, and exchanging offerings that have value for customers, clients, partners, and society at large.”
(マーケティングとは、顧客、クライアント、パートナー、社会全体にとって価値のある提供物を創造・伝達・提供・交換するための活動や機関のセット、プロセスのことである。)

American Marketing Association

また、UXデザイン業界でも注目されている『ジョブ理論(Jobs To Be Done)』は、ビジネスコンサルタントであったハーバード・ビジネス・スクール教授のClayton M. Christensenクレイトン・M・クリステンセン氏によって広く知られるようになりました。サービスやプロダクトの新しい価値を顧客の達成したい目的(ジョブ)から見出す、この理論は、マーケティングの世界では「マーケティングの本質を捉えている理論」とも言われています。

このように、「価値を提供する」というテーマは、マーケティングや経営においても中核に据えられています。そして、前述の引用にもあるように、価値提供にはUXデザインが必要不可欠になるのです。『UX Design for Growth』には、それらについて、行うべき戦略や事例紹介が書かれています。

「UX Design for Growth」に書かれている4つの戦略ステップ

書籍では、プロダクトやサービスを成長させるためにチームが行うべき下記の4つの戦略ステップについて、UXデザインの視点を交えて書かれています。これは、Molly氏自身が、サービスやプロダクトにローンチから成長に携わることで、辿り着いたものです。

ステップ1:成長を定義する

ビジネスの価値を推進させるために、スタートアップメトリクス(AARRRなど)を用い、意味のある成長指標を定義する。そして、それが、プロダクトやサービスが、顧客のコンバージョンに貢献できているかを計測する指標となる。

ステップ2:価値提案(バリュープロポジション)を簡略化する

「1つのシンプルな価値提案」を優先し、プロダクトと市場が初期段階で適合していることを証明する。既存プロダクトに対しては、コアとなる価値提案(コアバリュープロポジション)から逸脱する特徴を排除する。

ステップ3:コンバージョンファネルを形成する

自分たち固有のコンバージョンファネルの概略を描き、顧客ベースに転換させるため、ユーザージャーニーやインターフェイスデザインにおけるスモールテストの実施を続ける。

ステップ4:成長中心型プロダクトを構築する

最後に、パーソナライズのようなプロダクトやサービス全体でのユーザー体験でコンバージョンが高まるプロセスやツール、技術に投資をする。これにより、さらに深くスケールすることが期待できるが、同時に費用面では大きな賭けとなる。

このステップは、“成長促進と目的に到達しない要素を排除・変更していくこと”を躊躇なく実施していくものです。彼女は、これを「世界標準的なものである」と述べています。

以下に、読書会参加者によりまとめられた書籍概要のスライドを公開いたします。
書籍概要の全スライドはこちらから閲覧いただけます

読書会参加者がまとめた書籍概要のスライド(抜粋)
読書会参加者がまとめた書籍概要のスライド(抜粋)
読書会参加者がまとめた書籍概要のスライド(抜粋)
読書会参加者がまとめた書籍概要のスライド(抜粋)

シンプルな価値提案を実施するには

読書会内のディスカッションでは、書籍に書かれていた「シンプルな1つの価値提案」や「サービスやプロダクトの機能を簡素化する(シンプルにする)」という点に多くのフォーカスが当たりました。

書籍では、成長戦略の序盤のステップ2である「価値提案の簡素化」に書かれている内容です。しかし、ここが最も難しく、かつ最も押さえるべきポイントであると言っても過言ではありません。実質的な成長フェーズとなるステップ3、4は、この価値提案がベースになっていくからです。

例えば、参加者のひとりからは、以下のような疑問が参加者全員に投げかけられました。
「シンプルにすべきだ、と書籍では説かれているが、日本において必ずしも“シンプルにすることが正解”ではない局面を多く見聞きする。日本でもシンプルであることは、受け入れられ、プロダクトやサービスの成長に繋がるのか?」

これについては、さまざまな意見が出されました。概ねの意見は、「日本でもシンプルであることは、成長につながる」というものでした。しかし、そうではないという判断をされる局面があることもあります。私たちは、それらの価値提案をシンプルなものであるということを広く伝える必要があります。

分からないものは正しく学ぼう

2020年9月18日(金)〜20日(日)に開催されるUX DAYS TOKYO 2020には、スピーカーとして、『UX Design for Growth』の著者Molly Norris Walkerモリー・ノリス・ウォーカー氏が来日し、カンファレンスとワークショップを実施します。

特に、9月19日(土)のワークショップでは、丸1日かけて、本書で紹介されている“成長促進と目的に到達しない要素を排除・変更していくこと”を躊躇なく実施していく成長戦略の4ステップを、低コストかつシンプルで有効的なアイデアや手段を用いたワークなどを通じて学べる内容となっています。

また、上述のような疑問も、直接Molly氏に聞くことができる貴重な機会になります。私自身も、その他にも魅力的なスピーカーが多く来日するために煩悶中ではありますが、前述の疑問に対して思うところがあり、ぜひ彼女の話を聞きたいと考えています。

書籍の中で彼女が述べていましたが、「成長」はプロダクトやサービスに関わる全ての人が成し遂げたいと考えるものであり、それら全ての人の業務に関わるものです。マーケターやプロダクトオーナー・マネージャーはもちろんのこと、デザイナーやエンジニアにも関わります。

UX DAYS TOKYO 2020のテーマは、「思考」です。ご自身が携わるプロダクトやサービスの成長について考える機会にされてみるのはいかがでしょうか?
UX DAYS TOKYO 2020の詳細はこちらから

この記事を書いた人:Kie Nakai

フリーランスとしてWebディレクター、プランナー、コンサルタントなど、様々な立ち位置で案件に携わっています。戦略策定から企画、サイト設計に携わることが多く、UXの重要性をひしひしと感じ目下勉強中です。