ギルズ・コルボーンさんによる「シンプルを追求する!洞察からインタラクションへの実践」

UX DAYS 2017 3日目のギルズ・コルボーンさんのワークショップに行ってきました。
「シンプルを追求する!洞察からインタラクションへの実践」というタイトルで、
各企業でUXを実践されている20名程度の方が参加されていました。

私は以前にギルズ・コルボーン氏の「Simple and Usable」書籍を読む勉強会に参加し著書を読みましたが、とても分かりやすく良い本でした。
ワークショップでは、ギルズさんがはるばる日本へ来日するとのこともあって、本人に会えるチャンスでもあるので参加してみました。
書籍を読んでいて気になる部分など、直に本人に会って聞けることは貴重ですね。

どんなワークショップ?

ランチやおやつ等の休憩はありましたが、ほぼ休憩なしの10:00-18:00みっちり、充実したワークショップ(集中ブートキャンプ?)でした。
会場では同時通訳のスタッフ(2人体制)も、途中で声が裏返りそうになっていました。(^^;

ワークショップの内容は、ギルズさん自身の経験談をベースにしながら、デライト(素晴らしい)と思わせるにはどうすればよいか?といったUXについての内容から、GOMS-KLMによるインタフェースの計量的アプローチを体験してみる、シンプルで使いやすい製品を作るにはどうすれば良いか?など幅広い内容で構成されていました。

ギルズさんとはどんな人?

デジタルコンサルティングファームのcxparners(シーエックスパートナーズ)社の共同創設者です。
cxpartnersは、世界最先端のUXデザインに取り組み、クライアントには世界最大のホテル企業「マリオットホテル」、全米最大のオークションサイト「eBay」、仏の保険大手の「アクサグループ」、世界最大の音楽配信サイト「Spotify」、「英国内閣府」など各業種の最大手を中心に幅広くカバーする。その結果、cxpartnersは、クライアントへ数億もの利益を還元するUXデザインコンサルタント会社として知られています。

著書「Simple and Usable」は、ヨーロッパと北米で数万部を売上げ、アジア圏でも、中国と韓国で発売されています。以前は、UXのスペシャリストの団体UPA(現UXPA http://uxpa.org/)の代表、「IA Summit」の共同議長、UX Awardsの審査員、イギリスのアクセシビリティの規格の設計、Melissaの関わった「General Assembly」の講師など幅広いキャリアをもつトップスピーカーの1人です。

素晴らしい(Delight:デライト)と思った瞬間を教えて?

ギルズさんは、参加者に「素晴らしい(Delight:デライト)と思った瞬間を教えて?」と問います。
私は、「激辛のカレーを初めて食べたときに、あまりの辛さに食べるだけでも汗だくになり大変でしたが、外に出たときなんとも言えない爽やかさがあった」と答え、
ある人は、「Apple payを使ったとき初めは不安だったけど、決済の時のピロンという音がなんとも良かった」と答えました。

ギルズさんは、素晴らしい(Delight:デライト)の背後には「不安」があると…。
人はストレスの中にいる方が情報を覚えやすい、そして不安から解放されたときデライトを感じる。だからそこに注目してUXをコントロールする。

参加者のデライトした体験にもなるほど、そのような要素が入っています。UXというと、普通は良い体験に注目しがちですが、ストレスは楽しみの一部です。
Nikeのアプリもランニングが終わりに近づくとカウントダウンが始まって、不安にさせながらもゴールしたときに格別の達成感を演出しています。
時には、適切に不安も設計していく、これはUXを設計していく上で大切な視点だなと思いました。

続けてギルズさんは、
しかし銀行決済では意図的に「ストレス」を与える必要はありません。
それ自体がストレスなので…というのがなんとも…。

ダニエル・カーニマンの「経験と記憶の謎」を思い出しました。
楽しい旅行に行くとして、その後、記憶喪失の薬を飲まされ旅行の記憶はゼロになっても、その休暇を選ぶますか?
といった面白い思考実験がありますが、経験と記憶は密接な関係があります。
なるほど、「ストレス=不安」のときの方が記憶に残っているならば、「ストレス」について上手くコントロールすることが、UXを定着する鍵では?と個人的な発見でした。

シンプルさとは主観的なもの!

シンプルといえば「情報をそぎ落とすこと」というイメージが強いですが、
ギルズさんは「シンプルとは経験、主観的なもの」と述べていたのが印象的でした。

シンプルと思う写真を会場で見せながら、手を挙げてもらうと全員一致ということはなく
ピアノの写真を見て、「指を落とせば音が鳴る楽器」ともとれるし、「奥の深い楽器」ともとれます。人それぞれ思い浮かべるシンプルは違う、これはひとつの気づきですね。

私は、Appleの「AirPods(左右独立型のイヤホン)」が発表され、ウェブの紹介記事の中で、「AirPodsはケースが充電器になっているので、左右ひとつずつ充電しなくてもこのケースにいれるだけで充電できるだけでなく、箱から出さなくても良いのです!Appleは新しいシンプルさを発明しました。」と述べているような記事を読んでたときに、もともと左右一体のイヤホンが、ふたつに分かれて複雑になってしまったのに…?
なんてもやもやしていたこともありましたが、「シンプルとは主観的なもの」という言葉を聞いてしっくりきました。

DVDリモコンをシンプルにしてみよう!

ギルズさんより「DVDリモコンをシンプルにしてみよう」という課題が与えられました。
DVDリモコンはとても複雑です。電源、再生コントロール、チャプターのボタンから、上下左右のキー、設定など、数十のボタンで構成されています。
「まず取り出しボタンはいらないよね
、イジェクトしてもDVDを取りに行かなくてはならないから…。」
グループごとに様々ですが、カスタマイズできるものから、ボタンを隠せるような仕組みにしたり、結局ボタンが「0」の音声コントロールのようなものまでありました。

シンプルと言えば、MITのジョン・前田さんの「The laws of simplicity」が有名です。
このジョン・前田さんの名言に、「Reduce,thoughtfly! (削れ、ただしよく考えて!)」があり、じゃどうすれば…、という点が気になってくるのですが、
ギルズさんは、シンプルにするメリットとデメリットも説明しながら、これをしっかり体系立てて説明してくれました。
「Remove,Hide,Organize,Displace」の4つこれは著書の本にも繋がる部分でした。

1.Remove(取り除く)

「取り除く」とは一番簡単で取り組みやすいアプローチで、要素を減らすことです。ただ、減らせばよいというわけではなく、メインの機能がしっかり使える必要があります。
DVDのリモコンで言えば、音声コントロールだけだと、「おしゃべりなイタリア人の声で間違って操作されてしまう…」なんてことも起こってしまいます。

2.Organize(統合する)

「統合する」とは、例えば再生コントロールなど同じ種類のボタンをグループ化してシンプルにする方法です。ギルズさんはユーザが知っている知識とも統合することも方法のひとつとおっしゃっていました。これはなかなか賢い方法で、製品の構成要素だけでなく、ユーザの頭の中も上手く活用できるということですね。

3.Hide(隠す)

「隠す」は優先度の低い機能を隠す方法です。当日リデザインされたリモコンでも、いくつかはフタをつけて優先度の低いボタンを隠していました。本当は取り除きたいけれど、やむを得ず削除できない場合はこの方法を使うとのことです。

4.Displace(移す)

「移す」は機能の割り当てを別に移すという方法です。
DVDのリモコンでいえば、取り出しボタンはリモコンではなくDVDの本体側につけるなどです。ギルズさんによると、「Displace」は一番初めに考えるべきことのようです。

ワークショップを終えて

1.経験したこと本人だからこそ言えるアドバイス

例えば、ギルズさんによる「シンプルの原則」は、製品のデザインだけでなく、普段の業務にも活かせる内容です。
長年の経験に揉まれながら、ギルズさんが考え抜いたエッセンスのように思えました。
また、私は「現地観察する際のポイントは何か?」と質問したりしましたが、気づきは無限にあり、時間とともに生物のように成長していくので、できるだけたくさんの人が現地で観察するべきであり、ディスカッションしながらチームの中で合意をとりつつ、仮説を持って観察に持ち込むなど、実体験とともに話してくださいました。経験した本人だからこそ言えるアドバイスですね。

2.珠玉のプレゼンテーションに学ぶ

世界各地で100以上のワークショップをこなしてきただけあり、経験に裏打ちされた凄味がります。
例えば、「シンプルは主観的なもの」と説明するとき、時計の例を使って外から見るとシンプルに見えるけど、中はこんなに複雑…」ということであったり、デザインリニューアルの話では「はじめは少しユーザビリティが下がるけど、長期的に見れば上がることをグラフで表す…」ということなど、UXについて知識のない人に、UXをこう言った例え話をしたら分かりやすいのかなと気づくことがありました。

3.同じ課題を持った人たちと共に前へ進む

会場に集まった人たちも各企業でUXに対して、何かしら前向きに挑戦したり、悩んでいる人が多いので、そうした人と一緒になって学びが深められたのは、ワークショップの醍醐味かなと思います。例えば、UXの改善効果をどのように示すかなど、誰もが困っていた内容ですね。正解はないのですが、世界共通の課題なのだなとしみじみ感じることもありました。