ここ数年、Figmaを取り入れたワークフローの終わりが議論されてきましたが、現実となることは明らかです。しかし、その理由は多くの人が考えているものとは異なります。
Figmaをベースとしたこれまでのワークフローが時代遅れになる主な理由は、以下の3つの点に集約されます。
1. 現代のデザインシステムにおいて、デザインのコンポーネントの実装プロセスが大きく変化し、従来のピクセルベースの静的デザインワークフローに代わって、ReactコンポーネントのUI要素を直接構築・レンダリングするアプローチが主流となりつつあります。
このアプローチにより、AIツールはスケッチやテキストプロンプトを入力として受け取り、既存のデザインシステムのコンポーネントライブラリを活用して、実行可能なReactコードを直接生成が可能になりました。結果としてデザインから実装までの工程が大幅に効率化され、より迅速なプロトタイピングと開発が実現されています。 (https://uxdaystokyo.com/articles/ai-for-ux-figma-and-the-gods-of-hammers/)
2. UIの仕様書や設計書に記載された表記・要件に基づいて、簡易的な画面やコンポーネントを自動生成する機能が求められています。具体的には、基本的なフォーム画面、一覧表示ページ、ナビゲーションメニューなどの汎用的なUIコンポーネントを、設計情報から直接構築できる能力が必要です。(https://www.uxforai.com/p/short-hand-ux-design-notation-as-ai-prompt)
3. AIの活用で、RITE(Rapid Iterative Testing and Evaluation)の実施中に、ユーザビリティテストの結果を即座に反映した代替デザインをReactコンポーネントとして生成が可能になります。これにより、従来は時間のかかっていたデザイン修正とプロトタイプ作成のプロセスを、テスト実施と同時並行で進めることができます。
(https://www.uxforai.com/p/embracing-ai-in-design-ops-opportunities-trends-and-the-future-workforce)
現在、私たちは重大な転換点に立たされています。最新のAIファーストかつエージェントシステムでは、UIの重要性が根底から覆されようとしています。この変革により、Figmaは、新たなUXという名の氷山に猛烈な勢いで衝突するタイタニック号と化しつつあります。本稿では、その理由と、この「沈没」を回避するための具体的な方法を解説します。
UXにおける氷山
本稿では、なぜ従来のデザインワークフローが時代遅れになりつつあるのか、設計者やデザインツールが、この変革にどう適応すべきかを詳しく解説します。
従来のユーザーエクスペリエンス(UX)設計において、ユーザーインターフェース(UI)が中心的な役割を担ってきたのには明確な理由がありました。グラフィカルユーザーインターフェース(GUI)が主流だった時代では、視覚的要素とインタラクションデザインがユーザー体験の大部分を決定づけていたためです。そのため、Figma、Sketch、InVisionといった視覚的デザインツールを用いて画面要素を設計し、プロトタイプを構築することが、優れたユーザー体験を実現するための中核的なプロセスとなっていました。
現在、このパラダイムは根本的な変革を迎えています。AI領域のスタートアップを観察すると、多くが極めてミニマルなインターフェースを採用していることに気づきます。この現象は偶然ではありません。AIにとって理想的なインターフェースは、可能な限りインターフェースを感じさせないものだからです。
これを仮に「インターフェースがない」と考えてみてください。(完全にインターフェースがなくなるわけではありませんが、この誇張にもとれる表現は、私たちがこれまでの専門知識にとらわれず、現状の思考を打破する上で非常に有効だと感じています。)
つまり、ユーザーが複雑な操作を学習する必要がなく、自然言語や直感的な方法で目的を達成できる状態です。もちろん技術的には何らかのインターフェースは必ず存在しますが、重要なのは「インターフェースの透明性」ユーザーがツールの存在を意識せずに、やりたいことに集中できる体験の実現です。
AIエージェントの設計思想は「シンプルさこそが最高の洗練」を体現しています。事実、Google検索の成功例を見れば明らかです。20年以上経った今でも、基本的にはテキストボックス一つだけのシンプルなデザインでありながら、世界中の情報にアクセスできる強力なツールとして機能し続けています。
従来のインターフェース設計を氷山で例えるなら、UIは水面上に見える巨大な部分でした。ユーザーは複雑なボタン、メニュー、画面遷移といった視覚的要素の大部分と直接向き合う必要がありました。
しかしAI時代のインターフェースでは、この関係が逆転します。複雑な処理や判断は水面下のAIが担い、ユーザーが接するのは氷山の頂上部分—最小限で直感的なインターフェースのみとなります。
重要なのはUX、UIではない
AIファースト(特にエージェントファースト)なシステムは、アラン・クーパーが著書「The Inmates Are Running the Asylum(精神病院を乗っ取った患者たち) 日本版なし」で表現した「踊るロボットウェア」そのものです。
たとえそのロボットが、まだバシニコフ(ロシアの伝説的バレエダンサー)のような優雅さで踊れなくとも、それはロボット自体の欠陥を意味するものではありません。この「踊るロボットウェア」としてのAIは、すでに多くのワークフローに計り知れない価値をもたらしています。
しかし重要なのは、AIが本質的に「踊るロボットウェア」である以上、従来のような精緻なUIデザインは、もはや顧客にとってそれほど重要ではないということです。AIが主役となる時代において、インターフェースの役割そのものが根本的に変化しているのです。
言い換えれば、AIファーストなアプリケーションは「UI要素への依存度」は低い一方で、「ユーザー体験への感度」は極めて高いという特徴があります。
もちろん、適切なボタン配置や情報の可読性といった基本的なUI要素は依然として重要です。また、以前こちらで議論したCanvasデザインパターンのような革新的なアプローチは、ユーザビリティの向上に確実に貢献します。
しかし、もし皆さんが今でも以下のような作業に時間の大部分を費やしているなら:
- ボタンの配置位置の選択
- ボタンの色選択
- タブやコントロールのラベル
遠慮なく申し上げますが、将来は非常に厳しいものになるでしょう。
UIの細かな要素や従来のデザイン構成要素は、もはやそれほど重要ではありません。
これは例えて言うなら、「踊るロボットを青にするか赤にするか」を決めているようなものです。誰がそんなことを気にするでしょうか?ロボットは踊っているのです!人々が見たいのは、その踊りなのです!
(これはまさに、ヘンリー・フォードの名言「お客様はお望みの色の車をお選びいただけます。黒である限りは」と同じ状況です。AIにおいても、「顧客が望むどんな色でも、それが機能する限り」提供されます。)
つまり、もしあなたが日々のデザイン業務で、Figmaで表現できる視覚的要素ばかりに注力しているなら時間の浪費に他なりません。踊るロボットが青であろうと、赤であろうと、紫であろうと、本質的には何の違いもないのです。
現時点では、色は重要ではありません。重要なのことはロボットがどれだけうまく踊るかです。
AIファーストなアプリケーションで、ドキュメントを高速で要約する機能を開発するとしましょう。その要約がUI上でどのように表示されるかは、ほとんど重要ではありません。
背景色?ありえない。
フォントサイズ?ジョークでしょう。
ページのどこにあるか?重要ではありません。どこでもいいので選んでください。機能をリリースし、ベータ後に最適な場所が見つかれば移動してください。
コンテンツはフレーム内にあるか、ページ全体に広がっているか?うーん、少しは重要かもしれません。でも、実際にはそうでもありません。表示を完全にめちゃくちゃにしない限りは(しかし、私たちは、それを防ぐ方法を知っていますよね?そうですよね?もし皆さんがこの記事のような記事を読んでいるなら、正しく行う方法を知っているはずです)。
AIファーストなUXにおいて重要なことは何でしょうか?
- コンテンツの長短
- コンテンツの構成。
- コンテンツの完全性。
- コンテンツの正確性、信頼性、可読性、スキャンニングのしやすさ。
- AIによる要約に付加価値を与える企業または顧客からの独自に調整されたデータ。
- 元のドキュメントと並行して使用されるか、それ自体で機能するか。
- APIの有無
- クライアントへの提供速度
言い換えると
Figmaでは、上記の重要な要素を適切に表現できません。そのため、今日「UX・UIデザイナー」を自称する多くの人々は、単にボックスにダミーテキストを配置して作業を完了したと考えています。そのようなUX・UIデザイナーにとって、AIのUX・UIの本質的側面は、存在しないかのように扱われているのです。
これは根本的な誤解です。
真のUXとはプロダクトとして統合された「一つ」の体験であり、その体験こそが唯一重要な側面なのです。UXデザイナーが最も時間を費やすべきは、まさに核心部分です。ページ上で「踊るロボット」をどこに配置し、どのように装飾するかを決めるためにFigmaで長方形を描くことではありません。
ガーゴイルの雨どい
別の例えで説明するなら、皆さんは派手なゴシック様式のガーゴイル(空想上の動物)雨どいやバロック様式のイルカ装飾ではなく、すっきりとした線、フォルム、機能性を重視するモダン建築を設計しているようなものです。
そしてFigmaで行っている作業のすべてが、急速に単なる「装飾」へと変化しつつあります。
ガーゴイル、ライオン、ドラゴン、カエル、ヘビなど、かつてはクールで印象的に見えたこれらの装飾要素も、今では時代遅れで滑稽なものに映ります。まるで雑多な「飾り物」の寄せ集めのように。
それは、Windows 3.0時代のスキューモーフィックなボタンや、人工的な木目調ベニヤ板のような存在です。当時は最先端だったものが、今では古臭い過去の異物として見られているのと同じことなのです。
もちろん、適切な装飾は重要です。それらはユーザビリティ、可読性、アクセシビリティなどを向上させますが、正直なところ、
AIファーストなインターフェースは、思ってるほどUIに左右されない
最近の複数のリサーチのプロジェクトで、多種多様なUIの複数のバージョンをクライアントに提示したところ、どのバージョンから始めたとしても、クライアントは常に「本当に素晴らしいですね。ぜひ欲しいです。これがあれば私と私のチームは時間を節約できます。いつ購入できますか?」と発言したそうです。ボックスの位置、色、ラベルといった要素は、クライアントにとってほとんど重要ではありません。彼らが求めているのは、自分とチームの時間と労力を節約できるサマリーボックスなのです。
UX・UIデザイナーが、価値提供の迅速化や効率化ではなく、装飾を優先してリリースプロセスを遅らせる存在だと見なされれば、ボトルネックと判断され、職を失うでしょう。明確な事実です。AIの急速な進歩はあらゆるものを大きく変えているため、時代に乗り遅れないよう、チームへの貢献方法を根本的に見直さなければなりません。
UX・UIデザイナーの主な仕事はUXデザイナーといいながらもFigmaなどのツールを用いたUIデザインが中心でした。しかし、AIの進化とAIファーストなプロダクトの増加に伴い、役割は大きく変化しています。今後、UXデザイナーがUIデザインに割く時間は全体のわずか5%程度に留まり、残りの95%は本来の戦略的かつ重要な仕事に集中する必要があるでしょう。
これからのUXデザイナーが注力すべき95%
- ユースケースの選定と検証: どのAI機能を開発すべきか、それがユーザーの課題を本当に解決するのかを見極めること。(https://www.uxforai.com/p/how-to-pick-an-ai-use-case)
- AIモデルのスパイキングと迅速なリーンRITE調査: 実現可能性を検証するために、AIモデルを迅速に試作し、ユーザーによる評価を繰り返すこと。(https://www.uxforai.com/p/the-new-ai-inclusive-ux-process)
- データサイエンティストとのデジタルツインワークショップ: データのフロー、AIの制御方法などを理解するために、データサイエンティストと密に連携すること(https://www.uxforai.com/p/digital-twin)
- AIの意思決定の価値マトリクス: 真陽性・真陰性の利点と、偽陽性・偽陰性のコスト、AIのハルシネーションの影響などを理解し、評価する必要があります。(https://www.uxforai.com/p/ai-accuracy-is-bullshit-75b3)
- AIによる独自課題解決に関する高度な顧客との議論: 顧客の具体的な問題を深く理解し、AIを活用した解決策を提案・議論を主導していく必要があります。(https://www.uxforai.com/p/essential-ux-for-ai-techniques-vision-prototype)
- 独自の専門データの入手先の特定、データ内のバイアスの特定と軽減: AIの精度と公平性を確保するために、データの収集戦略とバイアス対策が重要になります。(https://www.uxforai.com/p/wmd-white-male-default-bias-ai)
- 実際のUIデザイン: そして、これら全ての活動を経て、最後に必要となるのがUIデザインです。
Figmaに固執していてはいけない
もしあなたが、日々のデザイン業務でFigmaを使ってUIを作成することばかりを気にしているのであれば時間の無駄になる可能性があります。AI時代において重要なのは、UIの見た目ではなく、AIが提供する価値、つまりUXそのものだからです。
これからのUXデザイナーは、顧客やデータサイエンティストとの対話を積極的に行い、AIの可能性を最大限に引き出すための戦略的な思考と実行力が求められます。Figmaの高度な機能を使いこなすことよりも、AIに関する深い理解と活用をしてユーザーの課題を解決する能力を磨くことがUX・UIデザイナーにとって不可欠となるでしょう。
AIの波に乗り遅れるな
もし皆さんが、従来のUIデザインのスキルだけに頼っていて、AIの進化に合わせた役割の変化に対応できなければ、取り残されてしまう可能性があります。今こそ、自身の貢献のあり方を根本的に見直し、AI時代に不可欠なUXデザイナーへと進化する時です。
- 適用事例の選定および有効性の検証 (https://www.uxforai.com/p/how-to-pick-an-ai-use-case)
- AIモデルの性能検証と迅速なリーン手法によるRITE調査
(https://www.uxforai.com/p/the-new-ai-inclusive-ux-process) - データサイエンティストと協力してデジタルツインワークショップを実施し、データの流れや制御メカニズムなどを把握すること
(https://www.uxforai.com/p/digital-twin) - AIの意思決定における価値マトリックス、つまり、真陽性/陰性の利益と偽陽性/陰性のコストの理解、ハルシネーションの影響など (https://www.uxforai.com/p/ai-accuracy-is-bullshit-75b3)
- 顧客特有の問題をAIで解決するための高度な議論を、顧客との間で主導的に進めること(https://www.uxforai.com/p/essential-ux-for-ai-techniques-vision-prototype)
- 独自データの取得先の特定、データに含まれるバイアスの把握、およびその対策方法の検討 (https://www.uxforai.com/p/wmd-white-male-default-bias-ai)
- おそらく実際のUIデザインは5%です。
UIデザインが優先順位リストの下位に位置しているのがわかりますか?それが、あなたの優先順位リストにおけるUIデザインの位置付けであるべきなのです。
UXデザイナーの皆さん、自問してみてください。顧客とどのくらいの頻度で話していますか?データサイエンティストとはどうですか?もし、その答えが「ほとんどない」のであれば、チームへの貢献の仕方を考え直す必要があります。なぜなら、AIは仕事のやり方を大きく変えようとしているからです。Figmaのオートレイアウトをどんなに使いこなしていても、もはやガーゴイルのような長方形を描くための魔法の杖にしかなりません。
Figmaは、新たなUXという名の氷山に猛スピードでぶつかり、沈没するタイタニックである。
あなたも運命を共にするのか?
それとも、かけがえのない存在となるのか?
この記事の著者 Greg Nudelmanのワークショップが開催されます
UXデザインとAIの境界はどこにあるのか?
どのようにAIをプロダクトに取り込むのか。
UXデザイナーは、AIを活用する際により戦略的に利用する場面が必要になっていきます。
シリコンバレーでAIがどのように活かされているかを学び、実践で圧倒的なUXデザイナーとしての
価値を高めましょう。
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