―「AIをどう使うか」ではなく、「AIで何を生み出すか」へ
AIを活用したプロジェクトが次々と登場する中で、よく混同される言葉があります。
それが「AI駆動型プロダクト(AI-driven Product)」と「AI駆動型システム開発(AI-driven System Development)」です。
一見、どちらも「AIを使った開発」を意味しているように思えますが、
実際には目的も、関わる人の思考も、作られる価値もまったく異なります。
AI駆動型システム開発とは
― AIを“道具”として活用する開発スタイル
AI駆動型システム開発とは、既存の開発工程をAIによって効率化・自動化するスタイルである。
たとえば次のようなケースだ。
- コードの自動生成(GitHub Copilotなど)
- テストケースの自動作成
- バグ検出やコードレビューの自動支援
- 需要予測モデルの構築や運用最適化
このスタイルでは、AIは開発を支援するツールとして位置づけられている。
つまり、「AIを使って開発を早く・正確にする」ことが目的である。
開発の主導権は依然として人間の設計者やエンジニアにあり、AIはあくまでその補助的存在だ。
AI駆動型プロダクトとは
― AIが“体験の中核”になるプロダクトデザイン
一方で、AI駆動型プロダクトとは、AIそのものが価値提供の中心となるプロダクトを指す。
たとえば次のような例が挙げられる。
- ChatGPTやClaudeなどの会話型アシスタント
- Spotifyのレコメンド機能
- Notion AIやFigma AIの自動提案機能
- 医療AIによる診断サポートプロダクト
ここでの焦点は、「AIがユーザー体験そのものを駆動しているかどうか」。
UIの裏側でAIが意思決定や推論を行い、その結果がユーザーとのインタラクションに直接影響を与えている。
つまり、AIがプロダクトの“中身”そのものを形づくる存在なのである。
目的の違い
| 観点 | AI駆動型システム開発 | AI駆動型プロダクト |
|---|---|---|
| 主な目的 | 開発工程の効率化 | 新しい体験・価値の創出 |
| AIの役割 | ツール/補助的存在 | コア機能・意思決定の主体 |
| 価値の源泉 | 開発スピードと精度 | 体験とデータによる学習循環 |
| 評価軸 | 成果物の品質・安定性 | ユーザー価値・AI出力の妥当性 |
| 主導する職種 | エンジニア/システム開発者 | プロダクトマネージャー/UXデザイナー |
プロダクトデザインに求められる新しい視点
AI駆動型プロダクトでは、従来のUI設計だけでは対応できない。
Figma上での画面遷移よりも、次のような「AI体験の設計」が重要になる。
- プロンプト設計(Prompt Design)
AIがどう理解し、どう返答するかをデザインする。 - モデル選定とデータ設計
どのAIモデルを使い、どんなデータで学習させるか。 - ユーザーの信頼と透明性
AIの判断根拠をどう提示し、安心して使える体験にするか。
つまり、AI駆動型プロダクトのデザインとは、
人とAIの協働構造を設計することなのである。
なぜこの違いを理解すべきか?
多くの企業が「AIを導入した」と言いながら、実際にはAI駆動型システム開発の段階にとどまっている。
効率化は進むが、ユーザーの体験価値は変わらない。
一方、AI駆動型プロダクトは、新しい市場や行動習慣そのものを生み出す力を持つ。
つまり、ビジネスモデルレベルでの革新を引き起こす可能性がある。
この違いを理解していないと、
「AIを導入したのに何も変わらなかった」という結果に陥るのだ。
結論:AI駆動型プロダクトは“新しいデザイン産業”である
AI駆動型システム開発が「AIを使って今を速くする」なら、
AI駆動型プロダクトは「AIで未来をつくる」ことである。
私たちデザイナーやPMは、いま「産業革命」のただ中にいる。
ツールとしてのAIから、共創するパートナーとしてのAIへ。
それをデザインすることこそ、次の時代のプロダクトデザインなのだ。
まとめ
- AI駆動型システム開発=AIを使って開発を効率化する
- AI駆動型プロダクト=AIそのものが体験を駆動する
- デザイナーは「UI設計」から「AI体験設計」へと進化する
- 本質は「AIを使うこと」ではなく「AIと共に何を生み出すか」

