ステークホルダーを巻き込むのは今がチャンス!
UXを現場に広めるには、ステークホルダーを巻き込むことが重要だと言われています。その理由は、日本でも海外でも共通しており、ステークホルダーの意見が強いからです。
幸い、ハーバード・ビジネス・レビューがデザイン思考を取り上げたり、ハーバード・ビジネス・スクール(HBS)の教授であり「イノベーションのジレンマ」でも有名なクリステンセン氏のジョブ理論がデザイン思考やエクスペリエンスマップと相性が良いとされるなど、ビジネスの上層部にも受け入れられやすい環境が整っています。
この絶好の機会に、私たちのデザイン思考や手法をステークホルダーと共有しましょう。
「エアーサンドウィッチ」— 組織の意思疎通を阻む障壁
書籍「エクスペリエンスマッピング」
では、「エアーサンドウィッチ」という概念が紹介されています。
「エアーサンドウィッチ」とは、上層部が掲げる「明確なビジョンと戦略」(上のパン)と、現場の社員が日々の業務として遂行する「実務」(下のパン)の間に、本来必要な意思決定や調整(サンドウィッチの具)が存在しない状態のこと。
つまり、上層部と社員の間の意思疎通や意思決定が不十分であることを示しています。
私が関わったプロジェクトの中にも、この問題が見られました。上層部の意図が明確でも、社員が正しく理解できず異なるものを作ってしまうケース。また、社員がユーザー視点で進めようとしても、上層部がその意図を理解せず、適切なUXが広まらないケースです。
どちらが悪いということではなく、共通の問題意識を持つことが大切です。問題解決には、両者が同じ認識や視点を持つことが不可欠です。
そのためには、上層部と現場の間で意思疎通を図ることが重要です。これにより、スケジュールありきの進行や、一方的な指示による混乱を防ぐことができます。
巻き込みワークショップの実施
では、どのように意思疎通や意思決定を実現すればよいのでしょうか?
それは、日本で言う「同じ釜の飯を食べる」ような関係を築くことです。つまり、共通の経験を通じて、信頼関係を構築することが重要です。ワークショップを通じて、ステークホルダーと共に考える機会を作りましょう。
自分たちで開催する
ワークショップは、上層部を含めたステークホルダーと共に実施します。まずは自分たちで動き、上層部に働きかけることが大切です。
UXワークショップでよく聞く声には、「うちはマーケティングが強いから」「売上しか見ていない」「上が理解していない」といったものがあります。ユーザー中心の考え方を理解しても、上層部が納得しないのでは?という疑問が生まれるのです。
しかし、やってもみないうちに諦めるのはもったいない。まずは自分たちで開催してみましょう。
注意点
- ワークショップのやり方や視点が間違っている可能性があると認識すること
- 定期的に何度も開催すること
ワークショップは万能ではなく、ただ開催すれば効果が上がるものではありません。実施の仕方を間違えると「使えない道具」と思われてしまうこともあります。適切な方法で繰り返し行うことが重要です。
また、時間がかかることを社内の共通認識として持ち、上層部に事前に伝えておくことも大切です。
開催するメリット
正しいワークショップを何度も繰り返し行えば、いつかアハ体験や共通の認識を持つことができるようになります。何度も繰り返し行うことで、何が有効か失敗だったのかがわかるようにもなります。
そうなれば、同じチーム内の意識を統一することができます。ステークホルダーも入ってもらえば、いきなり鶴の一声で物事がひっくり返ることはなくなります。
他にも、同じ視点になることによって手戻りやミスも少なくなりますし、前に進みやすくなります。スケジュールに追われる仕事ではなく、戦略をきっちり立てることの重要性や、その(時間的)予算も割り当てられるようになります。
戦略がない(キチンと整っていない)状態で戦術を行ってしまう企業がありますが、キチンと戦略を考えて戦術を決定するのではビジネスの成功は異なります。
チームワークでの仕事は、スポーツと同じで、人へのパスやバトンが上手に渡せなければ次の人は負担になるし、失敗する可能性もでてきます。「1」言って、異なる数字を思い浮かぶようなチームでは良いものなど生まれません。ワークショップはこのようなコミュニケーションが活発になるように促してくれます。
- 繰り返し実施することで、共通認識が生まれる
- 何が効果的か、何が失敗かが明確になる
- チームの意識が統一され、突然の上層部の意向変更が減る
- 手戻りやミスが減少し、スムーズな進行が可能に
- 戦略的なアプローチが可能になり、無計画な戦術に走るリスクを回避できる
はじめは3〜5名のチームからスタート
人数が多くなるとコミュニケーションが難しくなるため、最初は3〜5名程度で実施するのがおすすめです。いきなり上層部を巻き込むのではなく、小規模なプロジェクト単位で実施し、ワークショップに慣れてから上層部を招くのも良い方法です。
ワークショップの成功には、柔軟な姿勢も大切です。最初から「ベストプラクティス」を求めるのではなく、試行錯誤を繰り返すことでコツを掴んでいきましょう。
ステークホルダーへのアプローチ
上層部(ステークホルダー)とのワークショップ開催は難しく感じるかもしれません。しかし、ビジネスにおけるデザイン思考の重要性は社会的に認識されつつあります。適切に説明すれば、興味を持たない上層部はいないでしょう。
チーム内でワークショップを継続的に行えば、成功事例が生まれ、自然とステークホルダーも巻き込めるようになります。まずは実施することが大切です。
ただし、ワークショップには適切な設計が必要です。ベストプラクティスを盲信するのではなく、実践を通じて設計のコツを学ぶことが重要です。
Amazon Designや政府機関が実施する世界的なワークショップの事例
UX DAYS TOKYO 2018では、世界的デザインファーム「frog」のデイビッド・シャーウィン氏とメアリー氏による、UXチーム向けのワークショップ設計講義が行われました。
彼らは、Amazon Design Group、MailChimp、Microsoft、Intel Labs、DARPA(アメリカ国防高等研究計画局)など、多くの企業・政府機関でワークショップを実施しています。
豊富な経験と実績を持つ彼らの知見を活かし、ステークホルダーを巻き込んだ有意義なワークショップを実施していきましょう。