学びには”前提”が重要です。この前提がないと学びが遅くなります。逆に前提を正しく認識していれば学びがすすみます。
今回は、UXの学びを正しく・早く理解できる”前提”をご紹介します。
UXの広さとその重要性

UXの概念はパズルのピースの位置がどこかわかるということに等しく、学び(完成)を早くさせる重要な要素
UX(ユーザーエクスペリエンス)は非常に広範な領域を含みます。UIデザインやビジネス設計においても不可欠な要素であり、企業全体で理解し共有すべき概念です。どの部署でもUXを意識することが求められます。
特にUXデザイナーなどの「UXer」にとっては、この広い領域の中で何が重要かを把握することが必須です。「点と点が繋がる」とよく言われますが、これはまさにパズルのような作業です。パズルを効率的に進めるには、各ピースがどの部分に属するかを分類する力が必要です。この「分類する力」、すなわち前提知識が、学習スピードや成果の質を大きく左右します。
前提知識と俯瞰力の重要性
UXを学ぶ上で、全体を俯瞰して見る力は非常に重要です。俯瞰力や前提知識が不足していると、学びが部分的(ミクロ的)な理解に留まり、点と点が繋がらないまま終わってしまいます。さらに、得た知識が何のためのものなのか理解できず、目的を見失うケースも少なくありません。
UXをチームで共有する意義
「深層心理」をテーマに、今回はUXの基本概念(前提)の重要性を紹介します。「当たり前」と思える内容であっても、チームで共有されていなければ問題の深度や位置が不明瞭なまま進行してしまいます。たとえ同じ言葉を使っていても、認識のズレが成果に悪影響を及ぼすことがあります。
例えば、2017年末に参加したYahoo!大阪のイベントで、瀧知惠美さんが「共通言語を明確にする」重要性について語っていました。
これはUX DAYS TOKYO 2015でアビーさんが述べた内容とも共通しています。同じ言葉を使っていても、解釈が異なれば良い成果は生まれません。そのため、「当たり前」の前提を共有することが欠かせないのです。
心理学を用いたマーケティング
心理学や脳科学を活用したマーケティングは、UX設計においても重要な領域です。関連書籍を読むと、無意識の行動がいかに人々の判断や行動に影響を与えるかが分かります。しかし、これらの知識も前提がなければ混乱を招くだけです。
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人によってUIは本当に異なるのか?
「UIをデザインする際に、誰向けのデザインかによって異なるので難しい。」という言葉聞いたり目にしたことがあります。私も2008年にUX LONDONを主催しているアンディ氏に懇親会の居酒屋でそんな言葉への疑問を質問をした覚えがあります。今現在は、ユーザビリティ検定講座でも同様の質問をもらうことがあります。
解答からすると、解釈レベル(前提)によって解答が異なります。
ユーザビリティ検定講座では、マズローの法則の三角図(ピラミッド図)のようなものを用いて解説しています。

迷わず使えるUI(デザイン)は狩野モデルでいう当たり前品質
UI操作のレベルで解説している「迷わず使える」部分は誰もが使えるべきUIです。つまり、「誰向けのデザインかによって異なるでは?」の質問にある、誰向けのデザインによって異なることのないデザインとなります。2008年当時のアンディ氏も同じことを解説していました。そして、それはこの地球上にいる現代人であれば同じと言えます。
UX DAYS TOKYOで行っているユーザビリティテスト検定講座では、迷わず使える部分は狩野モデルの当たり前品質になると解説しています。つまり、できて当たり前、あって当たり前です。
プロである私達(技術・制作者)は、迷わず使えるためのものでなく、更に、その上の便利で好きになってもらうデザインを作る必要があります。しかし、それは土台があってはじめて上を作り上げることができます。
UXの書籍であまりにも有名なドンノーマン氏の「誰のためのデザイン」を読むとヒューマン(人間)のためと記載されています。つまり、誰でもというニュアンスが入っています。しかし、なぜか?誰のためのデザインの書籍は、ターゲットのように解説されている記事やコメントを読むことがあります。前提の土台である部分を解説せずに、人それぞれという部分だけが表に出てしまっています。
人によって無意識レベルは変わってきますが、誰のための?と特定づける前に、現代社会人、もっというと人に対してのデザインをベースに考える必要があります。これがHCDに当てはまるところです。
土台である前提がない状態で、“人によってUIが異なる”という認識が先にたってしまっているのは本当に危険です。あって当たり前がない状態になるケースが多いので、使えないシステムやデザインを生み出してしまっています。全てではないですが、当たり前ができていないデザインを見るたびにそのように感じてしまいます。
迷わず使えることが土台、土台を忘れない
当たり前品質でもあるように、「誰でも使える」というデザインはなくてはならない要素です。UXデザインを含む、UIデザインは、この当たり前品質のデザイン(下の領域:土台)から上(頂上)を目指す必要があります。
迷わず使えるUI、それは無意識のうちに操作を理解して動いています。ドアの開閉は頭で考えて使う方はおらず、ドアの形状を見て動きを判断して無意識に動いています。ドアノブの形状によるアフォーダンスや、その配置場所・ドアのカタチもろもろのシグニファイヤーで人に操作方法を与えていると考えられています。
これらは無意識に反応してしまう、深層心理に働きかけています。ちなみに、上部で紹介した書籍はどれもこの深層心理に働きかけています。
無意識の行動には、今までの学習や繰り返しの経験で成り立っていると考えられます。ドアもノブと扉の形状で理解するけれど、それは赤ちゃんの時から自然と覚えたことで培われています。
ドアのように、現代人の誰もが何も考えずに使える部分はあります。これらは、現代社会人の多くの方に共通しますが、マサイ族のような生活だと私達の住宅の概念が異なるので、結果的にドアを考えて使うことになると考えられます。

無意識に行動ができる状態になるまで:考える>学ぶ>繰り返す>刷り込まれる>記憶する>無意識に動くことができる
このように学習して覚えた深層心理のことをメンタルモデルと呼びます。しかし、ユーザーが学習したメンタルモデルやアフォーダンスが違うデザインがあると、ユーザーは迷ってしまったり苛立ってしまうことがありますが、土台であるデザインができていないことで発生してしまいます。
ちなみに、人はある同じ形状ものをひとつのものと認識するスキーマという概念も存在します。板があって穴があいていればドアに見える。というような認識です。
個人的嗜好とブランド効果
脳は複雑に絡みあっていて、脳科学という学問があるくらいなので簡単ではありません。以下の説明で良いのか不明でもありますが、深層心理にも同様に三角図(ピラミッド図)があるように感じています。つまり、レベルと対象者の数(量)です。
三角図(ピラミッド図)は上部になればなるほど裾野が狭くなっています。これは、人はそれぞれの考えや思考によっても受取り方や行動に影響しているため、人によって共通と感じる割合が少なくなる(バラバラになる)と考えられます。

シャネルのバックも好きでない人には価値は低い
カバンがあります。一見普通のカバンですがシャネルのバックです。きっと、シャネル好きでない人は価値を感じることは少ないでしょう。これは普通のカバンにロゴが入っているか否かという単純なことではないですが、もし同じ品質のものでロゴが入っているか否かであればロゴが入っている方が価値が高いだろうと感じるブランド効果です。この効果は、そのブランドがこだわった製品を出した結果とも言えます。
また、ブランド効果の凄いところはちょっとカタチが変だったり、使い勝手が悪くても、それをカバーしてしまう効果も発揮します。これはハロー効果のアバタもえくぼと同じです。
ただし、ブランドもその価値を失ってしまうと、その効果も失ってしまいます。つまり、例えシャネルでも、そのカバンがあまりにも使い勝手が悪ければ、その価値を理解できなくなってしまうかもしれません。好きだと思っていた方も飽きてしまうのです。有名ブランドになったとしても、土台である当たり前品質はカバーする必要があることを示しています。
上部は個人的思考や思考で左右される

無意識レベルから個人の考え、嗜好によってレベルやカバーできる範囲が異なる
土台になる部分に関して理解してきました。では、上部はどのようなものが占めるのでしょうか?
私が考えるには、上(頂上)から「好き嫌いなどの感情・愛」>「異なる考え方(思考)・宗教・文化・情報など」>「 共通しているメンタルモデル」のようになると考えています。
「誰向けのデザインにかによって異なるので難しい」という言葉でいうと、上部になれば文化や人によって、もしかしたら作業する内容によってデザインも変えていく、異なる。という言葉が当てはまります。ただ、繰り返しになりますが、土台あっての前提であるべきです。
そして、プロダクトを作るプロの私たちは、プロダクトを使うプロではないので、プロダクトを使うプロ(ユーザー)にどのように使っているのか?どのように思うのか?をリサーチするのです。土台を踏まえた上で、ユーザーに好きになってもらいやすいデザインを考案するのです。
- 好き嫌いなどの感情・愛
- 異なる考え方(思考)・宗教・文化・情報など
- 共通しているメンタルモデル
本能の無意識
少し余談ですが、あくびってうつりますね。これは文化的な要因で学んだ無意識とは異なり、本能的な無意識になると思います。(あくびに関しての記事もあったので参考すると「無意思的模倣」というものになるそうです。)
専門家ではないので詳しくはわかりませんが、アヒルがフラミンゴの中にいるのも周りから影響されて足を上げています。この場合は、無意識か意識的にか正確にはわかりませんが、きっと本能的に動いてしまった例だと考えています。このように、人も本能的に無意識に動くものも存在し、無意識レベルもいくつかに別れているのかな?と感じています。
ユーザーのどの意見を取り入れるかの判断が大切
UXと名が付いていれば100%、全員が満足できるものが作れる訳ではない
誰しもが同じ感情や考え方でないという、この前提が大切です。この三角図(ピラミッド図)が前提にないと、全ての人にだれでも適応できると思ってしまう危険性があります。
例えば、UXと名が付いていると、より勘違いをしてしまう人もいるようです。実際に(弊社のイベントという訳ではないですが)UXのイベントに参加した方がSNSでディスっているものを拝見します。UXあるあるとして、細かいところをチェックして否定する方がいます。自分の感情だけで何の根拠もなくお客様だ。と言わんばかりに批判する方がいますが、モンスター以外何者でもありません。
もちろん、できるだけ多くの方に満足行くサービスやプロダクトを作ることがプロではありますが、100%満足できないことを理解しておくことは大切です。個人的感情でディスっている参加者はUX関係の方でなかったのかもしれないですが、逆に、このUXの前提を理解していない人だと判断できます。UXerであれば、モンスターか見極める力が必要になります。
もちろん、UX関連のイベントであればいろいろな点で気をくばりたいですが、前提として三角図(ピラミッド図)があることを理解しておきましょう。
モンスター化を防ぐ文化づくり
飲食店の予約で、突然キャンセルされて困るという社会問題をニュースで見たことがあると思いますが、「お客様は神様」と勘違いしているモンスター(カスタマーハラスメント)が多くいるように思います。
「お客様は神様」と言った、三波春夫さんは、芸(歌う)を行う時お客様を神様と見立てて心の雑念を払い最高の芸を見せるようと心がけているという事で、この言葉を利用したのですが、言葉だけが違う意味で独り歩きしてしまっています。
UX DAYS TOKYOのスタッフの中にも、(無料の)ワークショップの参加者をお客様のスタンスで扱っていた方がいましたし、教えてもらって当然と思っている受講生がいました。私は、「そのような方には“満足度より理解度”をKPIにしているので」と伝えています。
もちろん、不満内容を改善することも必要ですが、何が何でもお客の言うことは絶対というスタンスを作らないのも、モンスターを作らない文化だと感じています。
幸いUX DAYS TOKYのワークショップは、9割以上の方が理解し満足していただいているので、この調子でUXを日本に広めていきたいと考えています。モンスターが生まれない日本にしたいなと心から願っています。