先日、問いのデザイン: 創造的対話のファシリテーションの読書会を行いました。この本には、本当に解決すべき課題を正しく認識できる問いの仕方、問題を捉える思考法、ワークショップのファシリテーション方法が書かれています。
人間の認識と関係性が固定化してしまう病を解決し、イノベーションを起こすため、問いを投げるべきだと書かれています。中でも、”問題が何かを見つけるために、問いが必要である”という言葉が印象に残りました。
問う側も問われる側にも答えがないのが「問い」
この本での”問い”は、「人々が創造的対話を通して認識と関係性を編み出す媒体」と定義しています。
以下の表にある通り、問いは、問う側にも問われる側にも答えがないもの、創造的なディスカッションをするためのものとしています。
問う側 | 問われる側 | 機能 | |
質問 | 答えを知らない | 答えを知っている | 情報を引き出すためのトリガー |
発問 | 答えを知っている | 答えを知らない | 考えさせるためのトリガー |
問い | 答えを知らない | 答えを知らない | 創造的対話を促すトリガー |
また、問うことによって、問われた側の思考や感情を刺激し、創造的会話のきっかけになります。創造的会話をすると認識と関係性に変化が生まれ、一定の解を発見し、さらなる問いが生まれるというサイクルができます。
ビジネスコンサルタントはファシリテーション力が大切
問いの定義を改めて認識すると、問いの力量で方向性も変わるため、ビジネスコンサルタントはファシリテーション力が必要であることに気づきます。できるコンサルタントの単価が高いのは、問いをできる人が希少価値だったということがようやく分かりました。
UXは一つの解答がない難定義問題
UX DAYS TOKYOオーガナイザの大本さんは、読書会でこの本を取り上げた理由を「UXは難定義問題に値します。UXは明確な解答が定まっておらず、考え方が重要だからです。」と話していました。
書籍では、問題を「目標があり、それに対して動機づけられているが、到達の方法や道筋がわからない、試みてもうまくいかない状況のこと」、課題を「関係者の間で解決すべき前向きに合意された問題」と定義しています。
そして、問題には明確な答えがある良定義問題と、問題に対する解が複数あり、解に到達するまでのプロセスが複数ある難定義問題があると述べています。
世の中にある問題の多くは難定義問題で、認識によって解釈が変わってきます。
UXにも計算問題のような1つの解答がありません。美味しいカレーでも、お腹が空いているときには食べたくないように、同じ製品やサービスでも使う人の状況(コンテキスト)によっては必ずしも役に立つとは限りません。
UX設計のユーザーリサーチも問いが重要です。リサーチは、最初から答えを知らない状態ですが、問うことによって発見されることがあります。もし、インタビュアーがユーザーを誘導してしまう問いをすれば、それは意味のないものになってしまうでしょう。
課題を創造的な対話を生み出すワークショップから解決に導く
創造的な対話を生み出す手段として、ワークショップが紹介されていました。
ワークショップ開始時には、誰もが予想もつかなかった答えにたどりつくこともできます。ファシリテーターが問いを投げかけ、参加者がそれに答えていくと活発な会話が生まれ、ゴールを探り当てていくことができます。
ファシリテーターが一方的に話すだけでは、みんなが納得する解決に辿りつく事はできません。ワークショップを実施した例として、京急電鉄の三浦COCOON(https://miuracocoon.com/)が紹介されていました。
三浦半島は人口や観光客が減少しているという問題に対し、三浦半島の交通インフラや観光施設を運営する京急電鉄は、活性化のための施策をとっていましたが、観光の軸となるコンセプトが存在しておらず、ターゲットが定まっていない状況でした。
そこで、本質をとらえなおすところから始め、目標を整理して課題を定義しました。
ここでは、具体的なターゲット・ペルソナにとっての三浦半島の経験価値を定義するという課題が定義できたので、仮説を出しながらペルソナを作成したそうです。
ワークショップを行うと、対立意見が出てくることもあります。意見が割れてしまったときは、第三の道を活用し、問いを立てて対話の機会を設けます。
三浦COCOONでも、「グループの利益につながる導線にしたい」という京急チームの意見と、「それだと、ペルソナからずれてしまい、ユーザーに価値を届けられない」という外部チームの意見が割れていたそうです。
そこで、「京急電鉄がこのイベントに取り組む意義は?」「京急が取り組むからこそペルソナに付加価値をもたせられないか?」
という問いを立てて、対話を重ねたそうです。
その結果、COCOONのサービス施設を利用するだけで無く、移動手段として鉄道やバスを使ってもらうという新たな方向が生まれました。自転車回遊型のイベントとして開催された三浦COCOONは成功し、現在も不定期で開催されているそうです。
UXはデザインされたUIも大切!
読書会では、ディスカッションも行います。今回は、書籍で取り上げられていた「三浦COCOON」のサイトのUIや設計されたペルソナについて話し合いをしました。
トップでは、タグ選択で情報を絞ることができます。しかし、残念なことに、絞り込み結果のページは、絞り込みしている状態かがひと目で分かりませんでした。
良く見ると「絞り込み条件を開く」というUIを見つけられましたが、気が付かない人がほとんどでしょう。きっと、ユーザビリティテストを行っていたら、すぐに見つけられる問題です。
読書会では、ファシリテーションの専門家だけでは見えない、ウェブサイト構築のプロの視点から、問題が発見できました。読書会に参加された方からも自分で読むだけでは気が付かなかった点を知ることができてよかったという声をいただきました。