ピクセルではなく“プロセス”をデザインせよ
「UX for AI」の記事「Snowball Killed the Dev-Star: Stop Handing Off, Start Succeeding in the AI-First World(スノーボール(雪玉)がデブ・スターを打ち砕いた― ハンドオフをやめ、AIファーストの世界で成功せよ)」の翻訳です。
原文:https://www.uxforai.com/p/snowball-killed-the-dev-star-stop-handing-off-start-succeeding-in-the-ai-first-world
AIファーストのUXデザインでは、ピクセル単位で完璧なモックアップを作ることが目的ではありません。本当に重要なのは、プロダクトの表面ではなく「根本的な課題」に焦点を当てることです。
従来の「3-in-a-box」形式──つまり、プロダクトマネージャー、開発者、UXデザイナーがリレー形式で引き継ぐやり方は、AI時代には通用しません。この仕組みは情報伝達のズレを生みやすく、AIの挙動に問題が起きると、チーム全体が混乱してしまいます。
本記事では、UXデザイナーが「スノーボール(雪玉)」のように、チームとともに転がしながら顧客中心の設計を実現する方法を紹介します。
初期からコード化(バイブ・コーディング)を行い、実際に動くプロトタイプをすぐ提供する。
それによって顧客が本当に求める価値を早い段階で確かめることができます。
3-in-a-boxはもう終わり ― AIが変えた開発の常識
何十年もの間、プロダクトチームは「3-in-a-box」モデルで動いてきました。
しかし、AIファーストの時代ではこの仕組みが機能しなくなっています。なぜなら、開発者が「デブ・スター(Dev-Star)」という孤立した構造を築いてしまうからです。そこでは情報が閉ざされ、価値あるアイデアも外に出てこない。やがて巨大な無駄が爆発し、ユーザーの期待から外れたAI機能だけが残ります。
いま必要なのは、この“デブ・スター”を爆破し、“スノーボール”を転がすことです。
つまり、孤立ではなく協働、静的な設計ではなく動的な学びを選ぶことです。

- 左がDev−Star、Death Starにかけている。UXとPMが別々に連携している
- 右はスノーボールをRAG、リサーチ、バイブコーディング、ビジョンが一緒に押している
ハンドオフはAI時代の足かせになるのか
AI駆動型プロダクトでは、従来のように「仕様を固めてから開発する」プロセスが通用しません。
完璧な要件を待っていては永遠に出荷できない
AIファーストでは、まず作り、試し、観察することが唯一の学びです。議論よりも実験が重要です。
AIの挙動は事前に仕様化できない
AIはプログラムされるものではなく、訓練されるものです。動かしてみなければ結果はわかりません。
UIは、もはやUXの中心ではない
多くの成功するAIプロダクトは、入力欄と出力欄しかないほどシンプルです。Figma上のモックアップでは、AIの“人格”や学習の柔軟性を表現することはできません。
「伝言お絵かき」が生む悲劇
旧来のリレー式プロセスは、まるで「伝言お絵かきゲーム」のようです。
リサーチ→デザイン→PM→開発と渡っていくうちに、最初の意図が歪み、最後には全く別のものが完成してしまいます。

たとえば、「彼女が部屋に入ったとき、彼の心臓は止まった」という一文が、最後には「ビデオがラジオスターを殺した」になってしまうように。見ている分には面白いかもしれませんが、これがあなたのプロジェクトで起きたら、笑いごとではありません。
Figmaの雨どいテストに陥っていませんか?
Figma中心の発想にとらわれると、ユーザーは「装飾」しか評価できません。
「ドラゴン型とガーゴイル型、どちらの雨どいが好きですか?」と問うようなものです。

議論は盛り上がりますが、本質であるAIの意思決定や信頼設計には一切触れられません。
真に意味のあるUXリサーチとは、動くAIをユーザーに触ってもらい、実際のデータや反応を通じて洞察を得ることです。これが「スノーボール方式」の核心です。
孤立した「デブ・スター開発」が失敗を生む
AI時代における最大のリスクは、開発者が孤立し、UXやPMが表層的なUIにこだわることです。
この分断こそが、AIプロジェクトの85%が失敗に終わる原因です。
AIを理解することは、もはや開発者だけの仕事ではありません。
チーム全員がAIの仕組みを理解し、同じ土台で議論できる必要があります。
スノーボールモデル ― チーム全員で学びながら前進する
新しいアプローチ「スノーボールモデル」は、全員が一緒に作りながら学び、反復し、初日からユーザーを巻き込む方法です。
PM・UX・開発・データサイエンスが一体となり、小さな単位で動くプロトタイプを連続的に改良していきます。その過程でプロダクトは自然に強く、ユーザー中心に育っていきます。
スノーボールを転がせ:AIプロダクトを構築する新しい方法
では、デブ・スター地獄をどう避けるのか?根本的に異なる働き方 ― スノーボールモデルを受け入れることです。大きなハンドオフ(部門間の移行)や孤立したサイロの代わりに、スノーボールモデルでは、皆で一緒に作り、常に反復し、初日から実際のユーザーを巻き込みます。
チーム(PM、UX、開発、データサイエンス ― 全員)が一つのユニットとして働きます。雪玉を固めるように、洞察と機能を次々と積み重ねていき、顧客がリアルタイムで「ダメ出し」をします。製品は小さく検証可能な単位で前進し、スノーボール(雪玉)を転がすごとに大きくで頑丈になっていきます。大爆発も大失敗もなく、ただ学びと調整を繰り返すのです。

スノーボール・マニフェスト:AIファーストチームの10原則
- データから始めよ
1ピクセルを描く前に、まずデータ戦略を確立しましょう。
LLMはすでに世界中のデータの98%を学習済みです。
真の競争優位性は、顧客や企業から得られる固有のデータにあります。
AIを効果的に活用するためには、必要なデータを特定し、整備することからプロジェクトを始めるべきです。 - 顧客を中心に置け
雪玉に芯ができたら、すぐに実際のユーザーに投げて、その結果を確認しましょう。
LLMを活用したプロトタイプは、可能な限り迅速に顧客の前に提示するべきです。
そのフィードバックは非常に貴重であり、まさに金と同等の価値があります。
顧客と共に創造し、テストし、そして改善を繰り返すことで、より優れた成果が得られるでしょう。 - 動くコード > どんな成果物よりも重要
ワイヤーフレーム、仕様書、デッキ ― それらは本質にたどり着くための手段にすぎない。
ユーザーの手で実際に動かせるコードでなければ価値は生まれない。
ドキュメントに固執するのではなく、プロトタイプや機能デモを優先しよう。 - 軽量を選べ
50ページにも及ぶ仕様書や終わりの見えない正式な成果物は手放しましょう。
軽量で実用的なデザイン成果物を選びましょう ― 簡易なストーリーボードのスケッチ、10分で作成可能なデジタルツイン図、一枚のバリューマトリックスなどです。
すべてのドキュメントは即興性と適応性を重視してください。 - サイロなし、ハンドオフなし
チームは一つのユニットであると認識しましょう(実際にそうである)。
役割の垣根を取り払い、タスクは肩書きではなく、スキルと能力に基づいて割り当てるべきなのです。成果に対する責任は全員で共有し、失敗時には責任の押し付け合いを決して許してはいけません。 - すべての要素をバランスよく
特定の専門分野だけが突出しないように注意せよ。
データ、AIモデル、UI/UXは常に調和を保ちながら連携し、相互に影響を与え合うべきである。
スノーボールを偏った方向に転がすことなく、全方位に均等に進め、いびつな製品(例えるなら「雪の丸太」)を生み出さないように心掛けよう。 - 評価を組み込め
テストや指標は単なるフェーズではなく、製品そのものの一部である。
データを追加したりモデルを調整するたびに、評価スクリプトや指標を組み込み、継続的に追跡しなければならない。進行中に測定を行い、品質を後付けすることは避けるべきである。 - 明確さは反復で得よ
すべての要件は検証すべき仮説として捉えましょう。AIを実際に動作させることで、「何をすべきか」をより明確に洗練させるのです。
UXや挙動に疑問がありますか?試して確認してみてください。明確さは反復を通じて生まれるものであり、終わりのない議論や膨大なドキュメントからは得られません。 - 素早く決め、頻繁に調整せよ
可逆的な決定であれば、迷わず即座に行動を起こし、必要に応じて後から修正すればよい。スピードこそが成功の鍵だ。
一方で、もし本当に不可逆的な決定であるならば、チームの意見を十分に取り入れた上で決断し、その後は全員が一丸となって100%の力でコミットすることが重要だ。 - コードが語り、虚言は消える
最も重要なのは、AIソリューションがユーザーのニーズを満たし、実際に機能することである。会話、計画、理論化――これらが実際の製品として形を成さなければ、すべては無意味だ。
創造し、試行し、学び続けよ。そして、そのプロセスを繰り返しながら、実際に動作するものを世に送り出そう。
Figmaを閉じて、まずCSVを開こう
最初のプロトタイプにはUIをゼロにしてみましょう。
Figmaの代わりにテキストファイルを開き、CSVをChatGPTにアップロードしてRAGファイルを作る。
これこそ、データドリブンなデザインの始まりです。
AIを単なるツールではなく“共創のパートナー”として扱うことが、次世代デザイナーの使命です。
UXデザイナーよ、コードを書くか、淘汰されるか
AIは私たちの仕事を根本から変えています。
静的なモックアップにとどまるデザイナーは、スマートフォン時代に取り残された電報オペレーターと同じです。
しかし、AIと協働し、コードを理解し、実験を繰り返すデザイナーは、新しい時代の中心に立つことができます。
さあ、デブ・スターを爆破し、雪玉を転がしましょう。
未来のUXは、もう動き出しています。
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