2020年4月に開催予定のUX DAYS TOKYO 2020に、ビジュアル・シンキングのエキスパートであるEva-Lotta Lamm氏を招聘し、ワークショップを東京でも開催することになりました。
2019年10月にイタリアのミラノで開催された2日間のワークショップ「ビジュアル・シンキングワークショップ:目に見えないものを作る」の準備として、ホスト企業のAvanscopertaによるワークショップトレーナーのエバのインタビュー記事が2019年6月にAvanscopertaブログで公開されました。
日本でもワークショップ開催の前に、講師のエバやビジュアル・シンキングについて知っていただくため、上記インタビュー記事の翻訳版をお届けします。
インタビューでは、彼女のこれまでの経験に交えて、日本ではまだ馴染みの薄い「ビジュアル・シンキング」とは何なのか、なぜ重要なのかについてと、ワークショップについて語られました。
まずは絵を描くきっかけになった出来事を聞かせて欲しいのですが、いつから絵を描くのが好きでしたか?絵を描き始めてから、印象に残っている子ども時代の思い出を教えてください。
幼い頃から絵を描くのが、とても楽しかったですね。
私が4歳か5歳のときに1〜2行の文と、その文にそって描いた挿し絵を添えた小さな本を作りました。
私はまだ学校で文の作り方を学んでおらず、本当に煩雑な文になっていましたが、それを差し引いても挿絵を描くのはとても面白かったです。
他にも、暑い夏の日にプールに来た人を思い出して、水から突き出た水泳帽をかぶった頭を沢山描きましたね。
また、何歳ぐらいでスケッチしたり絵を描くことを職業にしようと決めたのでしょうか?
もともと私は大学でグラフィックデザインを勉強していましたが、途中で転校してインタラクティブデザインの勉強に専念しました。
大学では沢山のスケッチを描きました。
基礎コースはもちろん、個人的なプロジェクトのアイデアを描き貯めておくためにもスケッチブックを持ち歩いていました。
しかし、卒業後にデザイン会社で働き始めたときから数年間はスケッチを描くことから完全に離れていました。その時は、全てコンピューターで制作を行っていました。
2006年にカンファレンスに参加し始めるのをきっかけに、私の人生と仕事にスケッチは戻ってきました。
私のノートは自然とビジュアル的な形になり、「スケッチノート」という用語を発見したときには、自分がやっていることはまさにコレだと感じました。
それ以降、最初はBarCamp(バーキャンプ:参加者主導のオープンなカンファレンス。当日集まった参加者が話したい内容を話す。)でスケッチを描くことについて話し始め、それからカンファレンスで講演するよう招待されるようになり、仕事の空き時間にワークショップで教え始めました。
その後2017年に、スケッチとビジュアル・シンキングを本業として研究し、教えることにしました。
そうですね、では共通点から説明しましょう。
「ドローイング」と「スケッチ」は、どちらも紙に「しるし」をつけることです。
ドローイングとは、最終的にそこに人物がいるとわかるように、人物の肖像画を描くようなもので、物やシーンの現実的(または現実的に近い)な描写を作成することです。
スケッチとは、考えやアイデアを捉えた下書きを作成することです。
正確に描写されているだとか、似ている似顔絵を描くことではなく、ペンの助けを借りて思考を探求し、発展させることです。
名前が示すようにビジュアル・シンキングとは、ビジュアルの力を借り、問題を考える行為です。
互いに関係性はあっても、異なる多くのパーツで構成された複雑な問題や状況を考える時に、頭の中だけで考えようとすると全体像を把握するのは非常に難しくなります。
そういったシーンで、ビジュアル(ビジュアルを作成するのに、非常に迅速で即時的な方法としてのスケッチ)が活躍します。
複雑な問題や状況を全て異なるパーツとして紙の上に配置します。そうすれば、様々な方法で配置を並び変えることができますし、物事を繋げたりして関係性を示すことができます。
頭に思い浮かべているだけではなく、物理的にホワイトボードなどで目の前にして見ることにより、物事のパターンや違いを簡単に見つけることができ、全体の構造が正しいかどうか、何かを見逃していないかなどの評価ができます。
また、書き出されたパーツについて話すことができるため、注釈を追加したり、発生した質問を書きとめ、問題やハイライトといった目印をつけることができます。
思考をビジュアル化することにより、グループの会話(または単独の思考セッション)で情報の共有と、トピックの具体的な概要を作成できます。
ビジュアル・シンキングは強力なツールです。とくに現代の複雑なシステムを使い、チームで行うプロジェクトにとても有効です。
とくに「ひらめいた!」という瞬間はなく、ずっと前からビジュアル・シンキングは重要だと確信していました。
昔、地理の教師が赤道砂漠と、熱帯雨林の気候システムのモデルを黒板に描いたのを覚えています。
それは完全に合理的で、単に気候システムのプロセスを説明するより、はるかにわかりやすい方法でした。
なぜ全ての教師が、概要をビジュアル化して描かないのだろうと思いました。
私はこの感覚を長年感じていて、その気持ちは成長しづつけています。
私は絵を描くことで、問題や複雑な状況を理解しています。
正直に言うと、視覚的にマッピングせずに、複雑なシステムをどのように理解するのか、たまに想像できなくなります。
ここ何年も、マッピングが難しいコンセプトやプロセスに取り組みました。
そのひとつに、とある大規模なオンライン旅行会社のプロジェクトがありました。課題は、様々なユーザージャーニーを記述するためのビジュアル・ランゲージ(視覚言語)を開発することでした。
旅行(旅行先を見つけることから始まり、オプションの閲覧、フライトと宿泊施設の検索、予約、実際の旅行まで)は、旅行者ごとにバリエーションが異なります。
包括的なパターンと共通性を抽出しつつ、説明しながらバリエーションに対応できる柔軟性を備えたシステムを構築しなくてはいけません。
このようなプロジェクトで最も重要なのは、最初の段階で非常にオープンで好奇心が強い姿勢でいることです。
すでにある資料と情報に飛び込んで多くの質問をし、パーツとその属性を分析して、資料を分類してグループ化する様々な方法を試します。
スケッチとビジュアル・シンキングは、あらゆる可能性をマッピングし、様々な構造・空間配置・視覚的処理を試して、情報を適切な形にする場面で最も役立ちます。
何かを習うときには、新しいやり方ができる余裕があるのがベストですし、そうあるべきです。
ビジュアル・シンキングを使用する可能性は、考えたり説明したい事と同じぐらい多く、多様です。
ビジュアル・シンキングを学ぶ方法は一つではありません。
私の講座では参加者が実際に活用したり、実験を始められるように、最も重要な基本スキルを練習してもらいます。
わかりやすくて見やすいスケッチ、空間構造、ビジュアルを作成するための基本原則を段階的に紹介します。
基礎を取得すれば、興味のあることや、トピックに適用できるようになります。
残念ですが、受講者が私に教えてくれる以外の成功体験はわかりません。
受講者からは定期的にメールが届いたり、私の別のワークショップに参加してくれたり、仕事のやり方が変わったという人もいました。
皆さん、自分のアイデアやコンセプトを教えてくれたりします。
スケッチを描くことと、文章を書くことを比較するのは好きですね。
定期的にビジュアル・シンキングを使い始めると、無限の可能性があり、大小さまざまな方法で人生のほぼすべての分野に適用できると理解できます。これは、非常に基本的なスキルです。
そうですね、デジタルでのスケッチは少なくともApple PencilとiPadを導入して以来、手間がほとんどかからなくなりました。
iPadに限らず、タブレットで描くのは実に素晴らしい体験です。
コンテンツの編集と並べ替え、また他のデジタルツールで開くことも可能なので、ビジュアルの制作プロセスを高速化するのに非常に役立ちます。
しかし、ペンと紙は今もなお最も身近なツールです。
高価なハードウェア、空のバッテリー、複雑なインターフェース、気を散らす通知やインターネットの誘惑は必要ありません。
ただ私と、私の考えと、紙切れがあればよいのです。
私はこのシンプルさと、自分の考えを非常に少ない手段で探索し表現することが好きです。
紙の最大の利点の1つは、スペースに制限がないことです。
1ページがスケッチで満杯になってしまっても、次の紙、次の紙と描き進むことができます。
描いたものは並べて配置しなおしたり、壁に掛けてグループで話し合うこともできます。
デジタルツールの場合、常に画面の一部分しか見えず、一歩下がって全体像を見ることができません。
また、自宅でスケッチを始めるために必要なものは何ですか?
特にオススメがあったら教えてください。
今あなたの身近にあるペンが最もいいツールですね。
スケッチを始める人によく、「うまく描くために何か特別なツールが必要ですか?」と質問されます。
最初はシンプルな黒のペンと、2、3の色ペンで十分です。
ちょっとしたコツとしては、描画する対象のサイズに合った、適切な太さのペンを見つけることです。
描画サイズに対して、ペンが細すぎるとスケッチが見づらくなり、逆に太すぎると細部の線が潰れてしまいます。スケッチがビジュアル的にある程度見やすくなるためには、適切な太さのペンが必要になります。
簡単な実用的スケッチを作成できることは、文章を書くことと同じくらい基本的かつ有用なスキルです。一部の分野では言葉だけで説明するより、ビジュアル構造と画像を使用する方がより効果的です。両方を一緒に使うことを学べば、思考力とコミュニケーション力を飛躍的に高めることができます。
私のワークショップでは、多くのスケッチに沿った使い方の実例や、特定のテクニックを学び、実際に手を動かすので非常に実践的です。
また、グループディスカッションとフィードバックを行って作業を振り返り、どのように改善し展開できるか考えます。
最後に、スケッチとビジュアル化を行う際に正しい決定ができる方法を説明する基礎理論を学びます。
複雑な問題に取り組んでいる人や、概念やプロセスやシステムをチーム、ステークホルダー(利害関係者)、クライアント、コーチなどを通して定期的に検討、または伝える必要がある人に向いています。
私は今までに、デザイナー、エンジニア、製品担当者、トレーナー、ファシリテーター、作家、更にはヨガ教師まで様々なタイプの人々に教えてきました。
絵心のあるなしや、芸術的であるかどうかは必要ありません。
誰もが学べる、非常に体系的で実用的な角度からスケッチにアプローチします。
絵が描けないという人は、ワークショップを最大限に活用できる人です。
間違いなく希望はあります!
ロンドンとベルリンはどんな違いがありますか?選ぶとしたらどちらの都市がお気に入りですか?
あぁ…それは難しいですね。
ロンドンはベルリンよりもペースが速く、エネルギーに満ちていますね。
ベルリンはもう少しゆったりしていますね。
どちらかをお気に入りに選ぶのはとても難しいです。
どちらにも、素晴らしい曲がり角がありますし、人や運命、驚きが見つかります。
ソロー(アメリカの作家)が言うように:「大切なのは、何に目を向けるかということではなく、そこに何を見るかということです。」
うーん、誰か一人の名前を上げるというのは不可能に近いですね。今の段階ですと、インスタグラムでお気に入りのビジュアル・アーティストを紹介するシリーズ化した投稿を少ししていまして、「#iloveyourwork」というものです。
似顔絵と名前のレタリングのビジュアルで、アーティストを紹介しています。
投稿のキャプションで、彼らの仕事で好きなところを説明しています。
この投稿を見れば、私がお気に入りのアーティストを誰か一人に選べなかった理由がわかると思いますよ。
音楽はかけません。外の鳥の鳴き声や、屋根にあたる雨の音が好きです。