デジタルサービスの競争が激しくなる今、「機能は同じでも、選ばれるプロダクト」と「スルーされるプロダクト」の差はますます広がっています。その差を生むのがUX(ユーザー体験)です。
UXは「見た目のデザイン」ではありません。ユーザーが迷わず、気持ちよくゴールにたどりつく流れ全体を設計すること。つまり、ビジネス成果に直結する設計戦略です。
ところが、経営や事業の現場でUXの議論がうまく進まないケースもあります。
その背景には、私たち自身が無自覚に陥ってしまう思考のクセ(=認知バイアス)があります。
UXの価値を見逃さないために──経営判断をゆがめるバイアスとは?
管理職につくと、誰でもつい保守的な考えになりがちです。時に、経営は大胆で鋭い判断を下す必要があります。
ここでは、会議や判断の場で起こりやすい代表的な5つのバイアスと、それを乗り越えるための視点をご紹介します。
1. 確証バイアス(Confirmation Bias)
自分の信じたいことに合う情報ばかり集めてしまう。
例:「これまでのやり方でうまくいってきた。UXに力を入れる必要はない。」
経営的リスク:変化の兆しを見落とし、後手に回る
対策:反証データも見る。成功企業の「転換点」に注目する
2. 現在バイアス(Present Bias)
目の前の利益やKPIを優先し、長期的な視点が抜ける。
例:「今期の売上が最優先。UX改善は余裕ができてから。」
経営的リスク:一時的な数字は取れても、継続率やLTVが伸び悩む
対策:UXを“未来の売上”の投資と捉え、短期と長期のKPIを併置する
3. 正常性バイアス(Normalcy Bias)
「これまで問題なかったから、今後も問題ないだろう」と安心してしまう。
例:「顧客から大きなクレームは出ていない。現状維持でいい。」
経営的リスク:ユーザーの不満は“静かに離脱”という形で表れる
対策:顧客が何を言っていないか(行動・無言の不満)にも注目する
4. アンカリング効果(Anchoring Effect)
過去の数値や経験に引きずられて、冷静な判断ができなくなる。
例:「前回の改善に2週間しかかけなかった。今回もそれで。」
経営的リスク:課題の深さを見誤る。中途半端な対応で逆効果になることも
対策:都度、状況をゼロベースで評価する。UXリサーチを意思決定の根拠に
5. 論点のすり替え(Red Herring)
本質的な課題から目を逸らしてしまう。
例:「そもそも営業チームの動きが悪いんじゃないか?」
経営的リスク:組織間の責任転嫁で、課題が先送りされる
対策:「誰が悪い」ではなく、「どうすればユーザーの課題を解決できるか?」に視点を戻す
会議でUXの話が進まないときにすべきこと
経営層として、以下の3点を会議で意識するだけで、UXが正当に扱われる土壌がつくれます。
1. 「事実」と「意見」を切り分ける
- 「数字や顧客の声」と「過去の経験則」が混在していないか?
- 意見ではなくエビデンスで語れる場をつくる
2. “今すぐROIが出る施策”だけを求めすぎない
- UX施策の多くは“因果関係の見える化”が難しい
- 「短期でROIが見えにくいものこそ、競争優位になる」視点を持つ
3. バイアスに気づける文化をつくる
- 誰かの指摘で「確かに自分もそう思い込んでいたかもしれない」と言える雰囲気
- 「正しいか間違いか」ではなく「よりよい問いを立てられるか」を評価する
UXはコストではない。変化に強い組織になるための“判断基盤”です

プロダクト開発においてUXは、顧客理解を軸にしたビジネス戦略の一部です。
判断にバイアスが入り込むことは、経営層にとって避けがたいリスクの一つ。
だからこそ、「気づける」「修正できる」「共に考えられる」土壌づくりが、プロダクトの成功と組織の持続的成長を支えます。
最後に
UXの価値を正しく判断し、チームと健全に対話するために、バイアスを知り、それを越える姿勢を持ちませんか?
経営判断の質は、その“問いの立て方”にかかっています。
- 自社のUX投資や判断基準について、壁打ち・相談したい方はお気軽にご連絡ください。
- UXと経営判断に関する社内勉強会の資料テンプレートをお渡しします。