昨今闇バイトに関する犯罪が増えています。UX DAYS TOKYOの大本さんから「誰でも闇バイトに加担してしまう可能性がある」と言われ、どういうことか気になり、考えてみることにしました。
闇バイトは犯罪を連鎖させる「ゾンビ」
「闇バイト」とは、簡単な作業で大金が得られるように見せかけ、一般人を犯罪に巻き込む危険な手口です。「指定された場所に荷物を運ぶ」「SIMカードを代理で契約する」など、一見犯罪と思えない内容で募集されるため、軽い気持ちで応募する人が増えています。依頼されたことが犯罪に見えなくても、複数の作業を組み合わせて組織化し、大きな犯罪にする手法はみなさんも良く知るところでしょう。有名な「ルフィ広域強盗事件」では、「実行役」「見張り役」「回収役」などの作業が分担されていることが明らかになりました。
さらに、闇バイトは単に実行犯を募るだけではありません。「犯行の指示役」や「リクルーター」といった、実行犯を生み出すバイトも存在します。実際、こうした闇バイトが関与した犯罪がエスカレートし、最終的に殺人事件に発展したケースも報告されています。
手口は巧妙、他人事と思ってはいけない
楽して大金を得られるという怪しいバイトに手を出す側にも責任はあります。しかし、中には「闇バイトではありません」「高額報酬ではありません」と謳い、一見安全に見せかけた求人も存在します。こうした犯罪の手口は年々巧妙化しています。
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高額ではないと書かれた闇バイトの求人例
申し込んだ後に怪しいと気づいても、すでに身元情報を相手に伝えてしまっているため、脅迫を恐れて仕事を断れないケースも少なくありません。警視庁が闇バイトに加担して悩んでいる人に相談窓口を設置したところ、応募からわずか3週間で46件も警察へ保護を求める人が殺到したそうです。
簡単なバイトで高額報酬がもらえると気軽な気持ちで申し込ませ、逃げられない仕組みにする手口は、ユーザーの心理を巧みに利用した犯罪です。このような手法は、詐欺や犯罪に詳しい人でも、油断すれば巻き込まれる危険性があり、闇バイトを他人事として考えるべきではありません。
普通の一般人が犯罪に巻き込まれて抜け出せなくなり、さらにその人が新たな一般人を犯罪に巻き込む連鎖は、まさに「ゾンビ」現象といえます。
志がないと騙されやすい
お金に困る人々が闇バイトの誘惑に陥りやすい原因の一つとして、ギャンブルによる借金が挙げられます。ギャンブルで生じた借金を返済するために、「高収入」を謳う仕事に引き寄せられる人々には、「志の欠如」があるのではないでしょうか。
例えば、「生まれ育った地元のために働きたい」という志を持つ人であれば、ギャンブルすることは少ないはずです。また、仮にお金に困る状況に陥ったとしても、節制を心掛け、努力を重ねて困難を乗り越えようとするでしょう。志を持つことは、人生の誘惑や困難に立ち向かう上で重要な指針となるのです。
実際に、リクルートワークス研究所の2023年の調査によると、4割以上の人が「やってみたい仕事がない」と答えており、多くの人が志を持って働いていないことがわかります。

リクルートワークス研究所「キャリアに関する実態プレ調査」2013
誘惑に流され、騙されないためにも、志は意識高く、立派な人だけが考えるべきものではありません。では、どのようなものを志と呼び、なぜ誘惑や困難に打ち勝てるようになるのでしょうか。
志は、なりたい自分を目指し、周りに感謝する事で大きくなるもの
「志」は、「楽して稼げるようになりたい」「好きなことだけやって自由に暮らしたい」といった、仕事をお金や生活の手段と捉える考え方ではありません。むしろ、仕事を通じてなりたい自分に近づき、目標を追い求めることです。
また、「志」という言葉には仏教や武士道の「忠義」の影響があり、精神的な成長や「人や社会に仕える」という意味合いが込められています。夢や目標に向かう中で、周りの人々の助けに感謝する気持ちは、自然と社会に奉仕する心へと繋がります。
社会のために高い目標を持つことで、目の前の困難を些細な問題と捉えることができるようになります。志を持つことは、誘惑に負けず、困難や挑戦に立ち向かう大きな力となるのです。

顧客のために料理を作り続ける町中華店主
最近、「志」を感じた話を目にしたので紹介します。全国からお客さんが訪れる有名な町中華「丸鶴」の店主、岡山実さんのエピソードです。

中華「丸鶴」の店主岡山実さん
引用:nhkbook-hiraku.com
岡山さんは幼い頃、中華料理に感動し、自分も同じような料理を作りたいという思いから、若くして料理人を志します。しかし、自分の店を開くまでの道のりは、多くの人々の支えが必要でした。駆け出しの頃、20歳にも満たない岡山さんをいくつかの店が雇い、技術を磨く場を提供してくれました。店を開く資金を得るために銀行からも大きな支援を受けました。
現在70歳を迎えた岡山さんは、売上や効率だけを追い求めるのではなく、「お客様に喜んでもらうこと」を第一に考えています。「中華は庶民のもの」という信念を持ち、原材料の価格が高騰しても、気軽に食べられる価格設定を守り続けています。また、忙しいお昼の時間帯でも、手間のかかるコーヒーを提供するなど、細やかな心遣いを忘れません。大変なことがあっても、顧客のために仕事をする姿に「志」を感じました。
何度も指摘を受けてようやく理解した「志」の必要性
私自身、志の本質を理解することは想像以上に難しく、UX DAYS TOKYOの大本さんに何度も指摘を受けながら、ようやく理解することができました。
私は過去に、「部長に昇格したい」という「目標」を掲げていましたが、あるプロジェクトで失敗すると「自分はそんな器ではなかった」と、目標を簡単に諦めてしまったのです。
諦めてしまったのは、自分に「志」がなかったからです。自分にとって、部長になることは、なりたい自分ではなく、「報酬を得たい」だけだったと気づいたのです。
この大きな発見をきっかけに、地位や報酬ではない「なりたい自分」を明確に決め、その上で目標を立てるようになりました。すると、目標を考えて行動することが苦痛だった自分が、目標に向かって行動できる自分へと変わり、「まずはやってみよう」と、その日から目標に関する行動を始めるようになりました。
このような行動の変化は自分にとって大きく、とても嬉しかったです。
志は犯罪抑止だけでなく、社会を良くする
犯罪が恐ろしいのは、「被害者が増えるほど犯罪が増える」という負の連鎖が生じる点です。被害者が増えることで、「犯罪が成功しやすい」と見なされ、さらに犯行する人が増えてしまいます。被害者は自分が痛い目にあったのだから他者から奪っても良いと考え、犯罪者側に回ることもあるでしょう。しかし、一人ひとりが志を持ち、高額報酬の誘惑だけで仕事を選ばない姿勢を持つことで、闇バイトに巻き込まれるリスクを減らすことができます。結果として、騙される人が減り、犯罪を企てる人も少なくなります。
さらに、志は犯罪抑止だけでなく、社会に良い影響を与えます。先ほどの例にあげた町中華「丸鶴」の岡山実さんの息子さんは、父親の仕事を見て「この味をもっと多くの人に伝えたい」と考えるようになりました。地域で中華のお祭りを開いたり、父親の味を冷凍食品で販売したりする中で、「食」における社会問題まで考えるようになり、孤食の子どもたちへ寄付活動を始めるようになりました。
人が周囲に与える影響は、思っている以上に大きいものです。ひとりひとりの行動が社会に与える影響を理解することができれば、もっと良い社会が作られていくと私は考えます。志があることの良さや社会に対する重要性を理解できたことが、とても大きい学びとなりました。