保険のCMにも行動経済学?
住友生命の保険「Vitality」は、人の行動に配慮した保険であるというCMがやっていました。UX DAYS TOKYOのスタッフの中でもちょっと違和感を感じている人がいたようですが、私も同様に「行動経済学なのか?」と思いました。
おそらく、「人間は理論や理性だけで動いていないので、それらの行動も含めた保険である」と表現したかったのだと思いますが、やはり「経済学」という言葉に違和感を感じます。
経済学でいいのか?
UX DAYS TOKYOで行った行動経済学(ビヘイビアラル・エコノミックス)の実践方法ワークショップにて、講師のロキシー・ボロウスカ氏は、行動経済学ではなく、行動科学と呼ぶと解説していました。
経済的思考があると、企業視点や企業マインドになりがちだからです。
UXerは、人をコントロールするために心理学を学んでいるわけではない
コンサルティングをしていると、「大本さんは人の心が読めるから、コントロールしているの?」と聞かれることがあります。
もちろん、コンサルティングなので、教育という意味でナビゲートすることはありますが、コントロールしていませんし、することはできません。「ナビゲート」と「コントロール」は近いようで違います。
コントロールは自分の利益が先に立ち、思うままに操ることを指します。一方、ナビゲートは相手自身が考え、仮に間違いの方向に行こうとした際に、指導・誘導していきます。
いくら言葉にしてナビゲートしても、その人が心から思わければ、人は行動しません。そのため、その人がどのように考えているのか?という仮説をたてます。つまり、人を知る必要があるため、UXerは人の心を知ろうと心理学を学びます。
人を好きになることが人を知ろうとする原動力
人の心を知る原動力は、その人を好きになることからはじまります。興味がなければ、知りたいとも思いません。そしてその人に好きになってもらうために、どうしたらいいのか?という視点も必要になります。人を好きになって興味を持ち、その人(お客様)がどのように思うのかを考えて行動することは、ユーザーに興味を持ち、彼ら(ユーザー)について知り、彼ら(ユーザー)から喜ばれるものを提供することと同じで、私達UXerの仕事の基本と言えます。
ナッジとダークパターン
人は、理論的に行動せずに動いていることを説明した「ファストアンドスロー」の著者、ダニエル・カーネマンが”ノーベル経済学賞”を得てからさらに心理学が経済学に用いられるようになってきました。
心理学を用いることは、効果が高い反面、人を騙す行為になってしまうことがあります。特に、心理学を経済学に取り入れることは、企業の売上を上げるための経済の考えがベースにあるのでダークパターンになりがちです。
このような「人を騙す行為は良くない」という結果から、控えめな合図を送り、無理なく自然に行動の傾向を変える「ナッジ」が発足しました。
UXerは人を知るために心理学を学ぶ
先程の質問ではないですが業界内でも、UX設計をしていると、いつの間にか人をコントロールしようとする人がいます。
私達は、人を知るために心理学を学んでいるだけです。そして、その知識を持って、人をそっとナビゲートできる「ナッジ」マインドでデザイン・UX設計することが大切だと理解しています。