
「後知恵バイアス」が学びを妨げる?
人間の思考には「後知恵バイアス(hindsight bias)」と呼ばれる傾向があります。これは、結果を知ったあとで「最初からそう思っていた」と感じてしまう心理のことです。実はこのバイアス、私たちの学びを静かに妨げていることがあります。
漢字「明日」の読み方で見える思考のクセ
「林修の今でしょ!講座|テレビ朝日」という番組のクイズで、「“明日”という言葉には『あす』『あした』『みょうにち』という3つの読み方がある。その使い分けの違いは?」という問題が出されました。
正解は「TPO(時・場所・状況)」によって使い分けているという内容でした。
- 自分に向かって「あす、ジムで走るぞ!」
- 家族には「あした、ジムに行ってくるね」
- 上司には「みょうにち、取引先に伺います」
このように自然と使い分けていることに、多くの人が答えを聞いて「なるほど、私もそうしてた!」と納得します。ところが、たとえ間違って答えていたとしても、「最初からそう思ってた」と感じてしまう……ここに、後知恵バイアスの罠があります。
人は、気づかないうちにこういった思考に陥ってしまいます。特に納得が行く、わかりやすい内容だと傾向がでやすくなります。また、この傾向は人によって異なり、強い人と弱い人がいます。
後知恵バイアスが学びを止める理由
「知らないことに気づいた瞬間」、人は強い好奇心を持ちます。たとえば、隣の人だけが面白そうな本を読んでいたら、気になってしまうように。
一例として、漫画トムとジェリーのエピソードで、猫のトムが面白そうに本を読んでいると、ねずみのジェリーはそれを知りたくて仕方ありません。
もし、自分だけが知らないものがあったらどうでしょうか?きっと、あなたも、どんな内容か気になってしまうのではないでしょうか。TVのクイズ番組に夢中になってしまうのもその理由です。人は、知らないことに気がつくと、知りたいという欲求に思考を奪われてしまいます。
でも、「知ってた」と思い込んだ瞬間、つまり、後知恵バイアスは「自分は知っていた」と錯覚させ、新しい知識のインプットを止めてしまいます。
バイアスが強く出る人の特徴
特に「自分は人より優れている」「なんでもこなせる」というプライドや自信が強い人ほど、このバイアスが強く出る傾向があります。自信は時に重要ですが、過剰なプライドは学びを阻害します。
後知恵バイアスから抜け出すには
客観的視点と自己分析が必要
後知恵バイアスから逃れるには、人の意見を真摯に受け取るか、自分を客観的に分析し、駄目だと思う点を受け入れる能力が必要になります。
なぜ弱さを見せられる組織は強いのか?
UXの優れた考えはシンプルなことが多く、それは知っている・出来ていると錯覚することで、正しいUXの導入を難しくしています。こうした「自分たちが出来ていないことを直視しにくい」組織文化にも原因があります。
書籍「なぜ弱さを見せあえる組織が強いのか」では、失敗や弱さを共有する文化こそが、成長を生む土壌になると説かれています。失敗を責めるのではなく、そこから学ぶ土壌をつくる。これは、組織のUX推進にも通じる大切な考え方です。
- 人の意見を素直に受け入れる
- 自分の弱点を客観的に見つめる
- 「間違いを認めること」が前進の鍵になる
このような姿勢が、学びを深める土台になります。
これらを克服するためにもまずは、自分の弱点を見つけて、認識できるようになることが大切です。
失敗と認識し、失敗をどう扱うかがカギ
書籍「デジタル時代のイノベーション戦略」の紹介では、Googleでは「早期に撤退したチーム」に感謝し、Amazonは「世界で一番失敗する企業」を目指していると言います。これは、「失敗そのもの」を肯定しているのではなく、「失敗から学ぶ文化」を大事にしています。
しかし、繰り返しになりますが「そもそもこれは失敗だった」と自覚することが重要です。後知恵バイアスによって「これは失敗ではなかった」と思い込んでしまうと、反省も改善もできません。

失敗を失敗と認識する
大手IT企業が失敗を許す文化として紹介されていますが、それを単純に「失敗はした方がいいのね」と鵜呑みにせず、2つのポイントがあることを理解してもらいたいです。
ひとつは、失敗ばかりしても意味がなく、良い失敗と悪い失敗があることを、彼ら(Google・Amazon)は承知しています。単純に失敗をウェルカムとしている訳ではなく、失敗から学ぶものがなければ駄目だと考えています。
もう1つは、「失敗を失敗と認識する」です。これは冒頭で解説したように、後知恵バイアスによって失敗を軽視する場合もありますし、そもそも、失敗だと認識したくないために逃避する思考もあります。
GoogleやAmazonの様に、失敗をウェルカムとする文化であっても、失敗だけを望んでいる訳ではなく、そこには、成功を見据えた失敗であることを認識しましょう。
この記事内容自体も、そんなの当たり前だ。と思わず、「本当の失敗(問題)に目が向けているか」「失敗から何を学んだか」を認識していきましょう。そうすることで、UXが浸透する組織ができあがっていきます。
最後に:自分の学びを止めていないか?
この記事の内容も、「そんなの当たり前でしょ」と思った方は、少し立ち止まって考えてみてください。
- 本当に自分は、失敗に向き合えているか?
- 後知恵バイアスにとらわれていないか?
- 弱さを認め、学びにつなげられているか?
こうした問いを持ち続けることが、UXの根付く組織文化、そして成長する個人の学びを支えてくれるのではないでしょうか。