
本当に「ユーザー視点では売上が上がらない」のか?
2020年11月18日に公開された『ユーザー視点になり切れないのはなぜか』という動画では、「ユーザー視点になりきれないのは、どんな人・どんな時か?」をテーマにディスカッションが行われました。
この回に私(大本)は参加していなかったのですが、話題の中で気になる点が2つありました。
1つは「ユーザー視点では売上が上がりにくい」、もう1つは「UXは長期化しやすい」という指摘です。
詳しく聞いてみると、ユーザー視点で施策を行ったものの、結果として売上に繋がらなかった。だからそれ以降はユーザー視点で進めにくくなり、結局は従来のやり方に戻ってしまった、というものでした。よくある話ですね。
もう1つは、受託企業の立場だと短期プロジェクトが多く、UXのように長期視点が求められる施策は実行が難しいという意見でした。
どちらも一理ありますが、こうした言葉だけが一人歩きして「ユーザー視点では売上が上がらない」「UXは時間がかかるから難しい」という印象だけが広がってしまうとしたら、それは危険です。もっと深掘りして考える必要があると感じ、今回のテーマにしました。
「ユーザー視点では売上が上がらない?」と聞かれたらどう答える?
ディスカッションの中で出てきた言葉を少しリフレーミングして、今回は「ユーザー視点で売上は上がらないのか?」というテーマで改めて話し合いました。
参加者からは、こんな声が挙がりました。
- 短期的に見ると、売上に繋がらないと思われがち
- でも、結果的には上がると信じている
- 短期的に成果が出ないと顧客が離れてしまう。だからユーザー視点で動けない
掘り下げていくと、いくつかの「誤解」が見えてきました。
- UXに時間がかかると思われている
→ やり方を知らないために、見積もりが大きくなりがち - 不適切な方法により、余計な費用や時間がかかっている
→ 正しいやり方を知らずに取り組んでいる - ビジネス視点では虚偽の成果(バニティメトリクス)を評価しがち
→ 視点そのものがずれている
つまり、「時間がかかる」「成果が出ない」と言われる原因の多くは、UXの本質ではなく、やり方や視点の違いにあるといえます。
バニティメトリクスとUX
UX DAYS TOKYO 2015・2019の両方に登壇し、「UXの評価」について語ったケイト・ルター氏のワークショップを受講したキム氏からは、バニティメトリックス(見た目だけの指標)に関する話が出ました。
私自身も現場でよく見かけますが、そもそもゴール設定が誤っていることが多く、結果として評価方法や施策の進め方がズレてしまうケースがあります。
今回のテーマではありませんが、こうしたズレがあると「UXの効果が感じられない」となりがちです。
その一言が、チームの進む方向を変えてしまう
今回、「ユーザー視点では売上が上がらない」という言葉が、意図と違う形で広まる危険性があると感じたため、このテーマを取り上げました。
言葉はチームの文化や考え方をつくります。マインドセット次第で、プロジェクトの進行そのものが変わってくるのです。
だからこそ、その言葉の背景にどんな意図や文脈があったのかをきちんと理解することが重要です。解釈次第で、まったく逆の意味になってしまうこともあります。
今回のディスカッションでは、「ユーザー視点では売上が上がらない」のではなく、「ユーザー視点でも売上は上がる」「むしろ、上がらないわけがない」という結論に至りました。
ぜひ動画を観て、みなさん自身の考えも深めてみてください。