エンジニアのかじしまです。すぐれたUXerを目指して学び続けています。
私は、2023年4月2日に開催されたUX DAYS TOKYOのワークショップ、コンテンツ戦略のためのUXライティングを受講しました。私はUX DAYS TOKYOのスタッフとして、UXの向上にはわかりやすい言葉が不可欠であることを学びました。用語集や記事を公開することもありますが、いつも文章作成に時間がかかっていて、文才がないと悩んでいたのです。そのため、このワークショップを受講することにしました。
ライティングが出来ないのは理由がある
ライティングの重要性を認識していても、実際の現場では後回しにされることがよくあります。私自身も、仮作成したラベルの文言がそのままリリースされてしまったことがあります。Kubie氏は、ライティングがうまくできない理由とそれに対する解決方法を説明してくれました。
オーナーシップがない
1つ目の理由は、誰がライティングを担当するかが明確でないことです。ライティングは大変な作業ですが、組織内で誰かが責任を持って行わなければなりません。誰かがやればいいや、というのではなく、「Aさんがこの部分を担当し、Bさんがレビューを担当する」といった具体的なアサインが必要です。また、Kubie氏は「肩書きにとらわれずに書くことが重要」と指摘しています。「エンジニアだから、ライティングは自分の仕事ではない」と考えるのではなく、ライティングを自分の責任として受け止める必要があります。
締切りが決まっていない
2つ目の理由は、いつまでに文章や文言を完成させるべきなのか分からないことです。
Kubie氏は、「ライティングにかかる時間を見積もるのではなく、リリース日から逆算した時間から締切を設定することが重要です。デザインとライティングの締切を分けることも大切です」と説明していました。
人間には現在バイアスという認知バイアスがあり、締切がないとタスクを後回しにしてしまう傾向があります。仮作成したラベルの文言がそのままリリースされてしまうのは、決定の期限が明確でないことも一因だと気づきました。
計画がない
3つ目の理由は、計画を立てずに行き当たりばったりでライティングを行うことです。Kubie氏は、「ライティングはデザイン(設計)です。ワークフローを作ることが重要」と指摘しています。文章を書いているうちに伝えたいことがブレてしまうのは、無計画だったからだと気づきました。
ライティングをスムーズに進めるために、以下の基本的なワークフローを作ります。
- 準備(Prepare):書く前に情報を集め、目的やターゲットを明確にする
- 作成(Compose):アイデアをまとめ、文章を作成する
- 編集(Edit):文章を見直し、不要な部分を削除や表現の改善をする
- 仕上げ(Finish):振り返りを行う
ワークフローを作って戦略的にライティングをする
ライティングには戦略が必要です。「真っ白なスプレッドシートにいきなり書き始めてはいけない」というKubie氏のアドバイスが印象的でした。
Kubie氏はワークフローを食事づくりに例えて説明してくれました。作るものによって具体的な手順が変わっても、何を作るか決める、材料を手に入れる、料理する、盛り付けをするという流れは変わらないとのことでした。
ライティングを行うためのワークフローは以下の通りです。
準備(Prepare)
何を達成したいのかを明確にするために時間をかけるフェーズで、4つのステップを行います。
アサインを決める
役割分担や締め切り、コンテキストや制約を明確にします。例えば、ウェブサイトのボタンに表示する文言の場合、ユーザーのコンテキストやラベルの幅、法律などの制約事項を把握します。
インプットを集める
インプットがなければ、アイディアを生み出したり文章の構成を考えたりすることができません。具体的には、会議のメモ、ユーザーリサーチの結果、ステークホルダーのコメント、デザインカンプなど、ライティングの元になるものを集めます。
アイディアを生み出す
アイディアを生み出す方法はいくつかあるのですが、具体的な演習ではマインドマップを活用しました。このレポートを作成する際には、下図のマインドマップを作成したので、以前よりも文章の構成がしやすくなりました。
文章を構成する
生み出したアイディアをもとに、階層構造のアウトラインを作成し、書きたいことをリストアップしていきます。Kubie氏は「しっかりとしたアウトラインを作成すれば文章を書きやすくなる」と説明していました。これまで文章の作成に行き詰まる事が多かったのは、作成したアウトラインが曖昧だからだと気づきました。。
作成(Compose)
文章を書くフェーズです。Kubie氏は、「この段階では完璧な文章を考えようとせず、早く全てを書くことが重要です」と説明してくれました。文章がスムーズに書けない場合は、構成がうまくできていない可能性がありますので、インプットの見直しや構成の再考が必要です。
また、Kubie氏は「Accuracy(正確)、Clearity(明確)、Brief(簡潔)を心がけましょう。」と話していました。最初から短く分かりやすい簡潔な文章を目指すのではなく、長文になってもいいので、正確な情報を書いてから、文字数を削って文字制限に合わせるようにします。ラベルに表示する文言の場合は、伝えたいことを正確に全て記載し、ラベルに収まるよう余分な文字を削ります。
編集(Edit)
書いた文章をより良くするフェーズです。以下がその目的です。
- インパクトのあるものにする
- フォーカスを当てる(余計なものを削除する)
- 一貫性を保つ
- 読みやすくする
- シンプルにする
音読や他の人からのフィードバックにより、読みやすい文章にできます。読み上げツールやChatGPTを使った文章校正も有効な方法です。
Kubie氏は「編集の過程でも、Accuracy(正確)、Clearity(明確)、Brief(簡潔)が重要です。まずは正確さを優先しましょう」と説明してくれました。
仕上げ(Finish)
最後の仕上げを行うフェーズです。ライティングは1回ですべて終わるものではありません。次回に向けて、さらに良いものにするために改善していきます。
振り返りを行う
プロジェクト全体を振り返り、反省や改善点を洗い出します。
ワークフローを評価する
ワークフローをブラッシュアップさせるため、効果的だった点や改善の余地がある点を見つけます。
チェックリストを更新する
ライティングにおける重要な項目や、確認すべきポイントをまとめたチェックリストを更新します。
ワークフローを作成すると書けるような気がしてきたが…
ワークショップの最後に、「UX DAYS TOKYOワークショップのレポートを作成する」というテーマで、チームでワークフローを作りました。
下図が、4つのフェーズに分けて、具体的な作業内容を記載したワークフローです。
Kubie氏の「ライティングはデザイン(設計)だ」という言葉の意味をここで初めて理解できました。ライティングは、プロジェクト計画のように細かく考えなければならないのです。
このようなワークフローを作れば、レポートがスムーズに書けると感じましたが、うまく進みませんでした。ワークショップ時にとったメモの見直しやKubie氏の書籍(Writing for Designers)を読むなどして復習をしながら書いていると、「インプットがなければ、アイディアを生み出せない」という言葉を思い出しました。レポートに必要なインプットはワークショップに対する理解度だったことに気づいたのです。理解していないワークショップのレポートを書ける訳がありません。
戦略を立てて書き続ければライティングが上手くなる
「ライティングは大変なものだ」というKubie氏の言葉通り、ライティングは困難で、一瞬で上手くなる魔法はありません。継続的な努力が必要です。
私は自分に文才がないと諦めていましたが、このワークショップを受けて、文章を作成する前にワークフローを考えて戦略的にライティングすることが重要だと気付きました。ワークフローを作るだけでは不十分で、実際に文章を書き続けることがライティングのスキルを向上させる唯一の方法です。
何にでも言えますが、戦略を立てても実践しないと出来るようになりません。
ライティングスキルを向上させるためにも、今後も定期的にレポートや用語集を公開していきます。