UX DAYS TOKYOのワークショップに参加すると、滅多に話せない著名な海外スピーカーに質問することができます。しかし、私は英語ができないため通訳者がいないと会話ができません。翻訳アプリがあっても使いませんでした。他の参加者も翻訳アプリを利用せず、拙い英語でコミュニケーションしていました。
翻訳アプリは便利なアプリに思えますが、海外旅行でも使っていません。なぜ使われないのか?UX DAYS TOKYOのオーガナイザーの大本さんとのミーティングでどういうアプリなら使うのか考えてみることになりました。
会話で重要なことは何か
まず会話について考えてみましょう。私たちは会話する時に無意識に大事にしていることがあります。それは「間(ま)」です。衛星中継で例えて説明します。
衛星中継で「間」を考える
オリンピック開催時によくある、海外とのテレビ中継をイメージしてください。衛星中継のため、送受信にはリードタイムがあり、言葉を発してから相手に伝わるまでに2〜3秒かかることがあります。リードタイムが長いと、相手に届いていないかもと不安になり、再度伝えます。聞こえていた相手が遅れて返答する際に、再度伝えた言葉が被ってしまい、ぎこちない会話になってしまいます。
衛星中継でなくても、会話に間が空きすぎてしまうと、会話は盛りあがりません。つまり、会話には「間(ま)、テンポ」が重要になります。
翻訳アプリに発生する「間」
多くの翻訳アプリは、スマホに話した言葉をテキストに翻訳したり、翻訳された音声を再生することができます。相手には、自分のスマホに表示されたテキストを見せたり、再生した音声を聞いてもらうことでコミュニケーションを図ります。
1 | 私 | 「質問をしても良いですか」とスマホに話しかける |
2 | 私 | (間)翻訳結果が表示されたスマホを相手に近づけて見せる |
3 | スピーカー | 質問をしたいことを理解し、OKの返答をする |
4 | 私 | (間)自分のところに戻す |
5 | 私 | 翻訳結果を見て、質問をスマホに話しかける |
6 | 私 | (間)翻訳結果が表示されたスマホを相手に近づけて見せる |
7 | スピーカー | 質問内容を理解し、翻訳アプリに回答を話しかける |
8 | 私 | (間)自分のところに戻す |
9 | 私 | 翻訳結果を見る |
翻訳アプリの会話のコンテキストを細かく見ていくと良いテンポとは言えません。相手は翻訳結果が見づらいとピンチで拡大したくなったり、聞き取れなかった音声をもう一度再生することになってしまったら長く続く会話になることはないでしょう。場合によっては、他人のスマホを触ったり、触られたりすることはストレスにもなります。
不安や、ストレスが高い状況を考えると、会話自体を諦めたり、身振り手振りを交えつつ拙い英語で直接話した方が良いと感じてしまうのです。
「間」をできるだけ解消するソリューション
大本さんのアイデアは、「お互いのスマホを接続し、自分のスマホが翻訳した結果を相手のスマホに送る」というものです。NFCなどの技術を使ってスマホ同士をリンクさせ、自分のスマホに音声入力を行うと、翻訳された結果が相手のスマホに送信されます。相手は、自分のスマホで音声またはテキストを確認できます。返答する際も同様です。「トランシーバー」を知っている人には、イメージしやすいと思います。
このトランシーバー形式であれば、相手に翻訳結果を見せる「間」が解消され、スムーズにやり取りができるでしょう。翻訳結果を手元で確認できれば、自分のスマホで音声を聞き直したり、テキストを拡大することができるので、ストレスも軽減されます。
電話での翻訳など活用シーンも広がる
このアイディアと同様のものがSamsungから出ている翻訳機能です。CMでも流れていたので、ご存知の方もいるかと思いますが、電話の相手が外国人で何を話しているかわからない言葉を翻訳したテキストを表示しているため、スムーズに会話が成り立っていました。
このアイディアのアプリであれば使う。と感じることができました。
機能を考える前にユーザー心理をみる重要性
今回学んだことは、便利で画期的な機能を作ったとしても、ユーザーの心理や不安、ストレスに影響すれば使われないということです。多くの企業は、こうした問題に気づかず「翻訳速度をもっと早くする」といった機能や技術だけで解決しようとして失敗します。
ユーザー心理に着目して問題を発見できれば、競合よりも良いソリューションを適切に提供できることを学ぶことができました。