TOP マーケティング・ビジネス InVisionの終焉が教えてくれる、プロダクトの本質

InVisionの終焉が教えてくれる、プロダクトの本質

InVisionが2024年12月31日をもってサービス事業終了しました。
かつて市場評価額20億ドルに達し、デザイン業界を牽引していたこの企業の終焉には、私たち全員が学ぶべき重要な教訓があります。

2022年8月16日、私はLinkedInに「InVisionが失敗したたった1つの理由(The ONE Reason InVision failed)」という記事を投稿しました(リンクはこちら:https://www.linkedin.com/pulse/one-reason-why-invision-failed-greg-nudelman/)。
この記事は、そのストーリーの続きです。
(まだ読んでいない方は、先に上記の記事を読むことをおすすめします。)

映画『レミーのおいしいレストラン』で厳しい表情のイーゴ

1. 物理法則はビジネスにも適用される

フランシス・フライの言葉を借りれば、「物理法則はビジネスにも適用される」のです。
顧客の不満や市場の変化を無視し続ければ、やがて淘汰の波に飲み込まれます。

InVisionは、一時期「話題づくり」と「注目集め」に力を注ぎすぎ、本当に価値のある機能や体験を見失いました。
その結果、ブランドは衰退し、1年半かけて“自然の摂理”に従うように姿を消したのです。

2. コードは語り、ハッタリは消える

私の好きな言葉に「Code Talks, Bullsh*t Walks(コードは語り、ハッタリは消える)」というものがあります。
InVisionの衰退を決定づけたのは、コードの品質の低さと、製品実装の失敗でした。

たとえばSketchとの連携は、常に不安定で、Craft Managerはバグだらけ。
SSO(シングル・サインオン)も頻繁にログアウトし、重要な会議やデモの最中に「InVisionにアクセスできません」と表示されることもありました。
サポートにチケットを出しても、解決に数時間。
それでも「問題は貴社側だ」と言われ続けました。
しかし、実際に問題を起こしていたのはInVisionだけだったのです。

信頼できないコードは、どんな宣伝よりも早く顧客を離れさせます。
この教訓は、いまAI時代にプロダクトをつくる私たちにとっても極めて重要です。

3. 価格設定は競争力の生命線

どれほど良い製品でも、価格設定を誤ると崩壊します。
InVisionは、全盛期にFigmaの20倍の料金を請求していました。
しかも製品はFigmaより劣っていました。

一方でFigmaは、閲覧やコメントは無料、デザイナーのみ有料という明快な価格モデルを採用し、爆発的な支持を得ました。
シンプルで使いやすい、透明性のある料金体系が勝敗を分けたのです。

4. 「エンド・ツー・エンドの体験」が最も重要

InVisionが最も致命的に失敗したのは、「エンド・ツー・エンドの体験」でした。
Sketchに依存しながら、協力関係を築かず、Craft Managerのバグを放置。
両社は責任を押し付け合い、ユーザー体験は悪化の一途をたどりました。

本来なら、Sketchを買収して統合すべきでした。
それを逃した結果、InVisionが開発した「Studio」は期待を裏切る出来で、ユーザーの信頼を完全に失いました。

この失敗は、「一貫して正しく動作する体験」と「シンプルな価格体系」が、どんな時代でもプロダクトの核心であることを示しています。

5.自らを壊すか、滅びるか

リーダーである企業は、成功とともに“破壊”の標的になります。
だからこそ、継続的に「自らを再発明」しなければなりません。

これが「イノベーターのジレンマ(The Innovator’s Dilemma)」です。
体重1000ポンド(約450kg)のゴリラ──かつてのInVisionのような巨大企業──は「さらに大きくなること(keep on biggering)」に固執し、より高価格帯の市場へと移動し続けます。

かつてのInVisionのような巨大企業は、より高価格帯を狙ううちに、顧客の本質的な価値を見失いました。そこにFigmaのような新興勢力が入り込み、市場の価値体系を変えてしまったのです。

アニメ『ロラックスおじさんの秘密の種』でOnce-lerが木を伐採している場面

(参照:YouTube https://www.youtube.com/watch?v=BXlYuaycRbU

ワンスラーは“スニード(Thneeds)”と呼ばれる商品(=ここではプロトタイプ)を生産していましたが、同時にその富の源である「トゥフラの木(Truffula Trees)」を自ら破壊していたのです。
これは、InVisionがSketch(ワイヤーフレームの供給源)をコントロールせず、依存していた構図とまったく同じです。

アントン・イーゴが心を動かされる場面

(引用元:IMDb キャラクター紹介)

6. 現在のAI市場に通じる教訓

いま、AI時代に突入した私たちの市場も同じ構造にあります。
成功の鍵は、「信頼できるエンド・ツー・エンド体験」と「シンプルな価格設定」です。

デザイナーやプロダクトマネージャーは、毎日こう問いかけるべきです。

「市場はどう変化しているのか?」
「破壊的な力はどこから来ているのか?」
「私たちの体験設計と価格モデルは、本当にシンプルで信頼できるか?」

製品体験の骨幹の質問です。

7. それでも挑戦した人々への敬意を

経営は常に難しいものです。
結果だけを見れば誰でも批評できますが、リスクを取って挑戦した人々は、業界の英雄です。
InVisionのチームは、まさにそうした挑戦者たちでした。
彼らがいたからこそ、私たちは多くを学び、次の時代のプロダクトを考えることができるのです。

何かを実際に作ってみようとすらしない人が大勢いる中で──
成功した会社を作ろうと挑戦することは、なおさらです。

最後に、アントン・イーゴの言葉を思い出します。

「世の中の平均的なガラクタ作品の方が、
私たち批評家が貼り付ける『くだらない』という批評より、
よほど意味があるかもしれない。」

InVisionの教訓を活かせるかどうか、それはこれからの時代を行く抜く鍵になるでしょう。

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UX DAYS TOKYO (代表) 見た目のデザインだけでなく、本質的な解決をするためにはコンサルティングが必要だと感じ、本格的なUXを学ぶため”NNG”に通い日本人としてニールセンノーマンの資格を取得。 業績が上がる実装をモットーにクライアントから喜ばれる仕事をしています。

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