心理学はとても強力なので、ユーザーをコントロールしてコンバージョンをあげるために使うものだと考えている方も存在します。心理学は、人が普遍的に持つ特性や本能にアプローチできるため、ユーザーを知るために学ぶものです。より良いサービスやプロダクトを提供するためにもデザイナーは心理学を学び、デザインに正しく活かす必要があります。
ユーザーをコントロールするために心理学を使うべきではない
心理学を学ぶと、ユーザーの行動や考えを把握できた気持ちになります。学んだことを活用して行動を促すためのデザインを作りたくなりますが、心理学はユーザーをコントロールするために使うべきではありません。
ユーザーは何も考えずにサービスを利用しているわけではありません。人は本能的に、自分の行動を自分で決めたいと思う性質があります。そのため、企業の広告やウェブサイトのUIなどから「自分の行動がコントロールされている」ことに気づくと、そのサービスや企業について不信感を抱きます。
心理学はユーザーをコントロールするダークパターンに悪用するのではなく、ユーザーの行動をサポートするために使うべきです。
ユーザーをコントロールするダークパターン
ダークパターンとはユーザーを誤解させたりコントロールするような仕組みです。
ダークパターンとして、とある航空会社の受託手荷物の選択画面について例を2つ挙げます。
まず1つ目の例は、航空券選択後の受託手荷物追加画面です。航空券の選択後に次のページに進むと、受託手荷物オプション選択画面になり、デフォルトで受託手荷物を追加する有料プランが選択されている状態になっています。
ユーザーの許可なくデフォルトで有料のオプションが追加されていることはユーザーが予期していないことです。有料オプションが追加されていることに気づかない人もいるでしょう。
2つ目の例は、例1の画面で「受託手荷物0kg(預けない)」にチェックを入れた後の表示です。「受託手荷物0kg」にチェックを入れて次のページに進むと、手荷物追加に関するアラートが表示されます。
この画面は「空港で追加する」「今すぐ追加」のどちらかを今すぐ選択しなくてはいけないようなデザインです。空港で追加する場合の3,600円と「お預け手荷物を追加しない」のボタンのブロックが同じなため、手荷物を今すぐ追加しない場合でも3,600円の追加料金がかかってしまうように見え、「お預け手荷物を追加する」を選択させようとしています。
これらの画面はコンバージョンを上げるためのデザインかもしれませんが、ユーザーの許可なく有料オプションに誘導しており、ユーザーの行動をコントロールしようとしているのでダークパターンといえます。
ユーザーの行動を少しだけ後押しするナッジ
一方で、「ユーザーの行動を少しだけ後押しするもの」を示すナッジという行動経済学の言葉があります。
ナッジの例として、関西国際空港を拠点とする日本の格安航空会社Peachの受託手荷物のページを挙げます。航空券の購入画面から進むと、手荷物の大きさに制限があることを示す注意事項と「お荷物をお預けの際はこの後の画面での事前予約がお得です」というメッセージが出ます。
メッセージ画面を閉じると受託手荷物選択画面になりますが、事前予約の方が金額が安いことが伝えられているため、荷物を預けるかどうか迷っていた場合にはここで予約しておこうという気持ちになります。
ユーザーをコントロールするのではなく、ユーザーが自由に選択できる状態を損なわずに意思決定の後押しをしているのでナッジであるといえます。
ダークパターンとナッジの境目
ダークパターンとナッジ、この2つの言葉の境目は「ユーザーが誘導の仕組みに気付いても、サービスや企業を信頼してくれるかどうか」です。サービス内容が同じでもUXの設計でユーザーが受ける印象は異なります。コンバージョンを上げるためだけの間違ったデザインはやめましょう。
ユーザーを知るために心理学を学ぼう
間違ったデザインはユーザーを騙すだけではなく、不快感をもたらし傷つけることもあります。ユーザーの問題を解決したり、サービスやプロダクト内を自然にナビゲートするために、心理学の勉強は必須になります。
より良いサービスやプロダクトを提供できるよう、適切に心理学を活かせるようにしましょう。
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