
かつて、弁護士資格を得るためには、合格するまで何時間も勉強し、資格を取れば誰でも弁護士になることができました。今はロースクール(法科大学院)を修了していないと、司法試験を受けることができません。
弁護士に限らず、資格の取得において大切なことは「合格すること=結果を出すこと」です。
しかし、社会人になるとなぜか「結果」を忘れて、自分の仕事の価値は「時間」にあると考える癖がついている人も多いです。
結果が伴わなければ価値はない
合格しないと資格が得られないように、プロダクトやプロジェクトも結果に重視する必要がありますが、なぜか時間を先に考えてしまう人がいます。
「納期があるのだから時間を気にするのは仕方ない」と思われるでしょうか?
そうですね。確かにお仕事では納期もありますし、時間も考慮しなければなりません。しかし、時間を気にしていれば、時間内にできるという保証はあるのでしょうか?
時間を基準にするからバッファを設ける
時間を基準に考えて仕事をすると、その時間内に「間に合わせる」というマインドが働きます。そうなると、時間に遅れないように仕事を終える時間の見積もりにバッファ(予備時間)を設けてしまいます。
自分の仕事は進んでいるように見せるために、ステークホルダーやクライアントへの予定は多く見積るのが常態化していることが多いです。
もう数年前の話ですが、大手システム会社の研修で見積もり方法について学習してもらったのですが、私が想定した5倍以上の見積もりを出されたのでびっくりしました。ここで多くは言えないのですが、不確かな作業見積もりを元にしてしまい、結果として見積もりが多く設定する傾向はどこでもあるようです。
見積もりが多いと現状維持バイアスにかかりやすい
人は、未来に達成することは安易にできると思うバイアスを持っています。現在バイアスと呼ばれ、先延ばしをしてしまうバイアスですが、先延ばしは時間があればできると作業を軽視してしまうことにあります。
その結果、すぐに着手せず先延ばしして、いざその未来が来た時に焦ってしまいます。焦った結果の産物は、想像できる通りに良いものであるはずがありません。
日本人の生産性の悪さはこのマインドからかも?
UX DAYS TOKYOのグループでは、スクラムとOKRを導入しています。スタッフの中には仕事で利用している人もいれば、高額な授業を受講しているのにも関わらず、キチンと利用できていない人もいます。けなすつもりはありませんが、現実、そうなのです。ツールを使いこなせないという問題は、私たちのグループだけではなく、きっとどの現場でも同じだと感じています。
スタッフの中には、時間がないことを理由に活動をしない人がいます。常に時間がないことを言い訳に出してきます。時間があれば自分はできる人です。と言いたいのか、単純にUXを学ぶ優先順位が低いのか、それとも現在バイアスで仕事を先延ばしにしてしまい、うまく結果がでないため、常に時間に追われているのか、いずれにせよその人の成果は決して褒められるものではありません。
タスクランナーは視点を見失う

「世界のエリートがやっている 最高の休息法」という書籍で、タスクランナーに通じることが記載されていたのでご紹介します。書籍によると、牧師を目指している人たちに以下のタスクを与えたそうです。Aグループには「**時までに***(指定した場所)に行ってきてください。」Bグループには、「(いつまでとの時間を言わず)(指定した場所)に行ってきてください。」とお願いをしたそうです。
その道中に、困った人を演じるサクラを配置しました。Aグループは時間までに学校にいかなければならないので、困った人を助けませんでした。Bグループは時間という成約がなく、困った人に気づき助けたのです。
この様に、時間というタスクをつけてしまうと、人を助ける仕事に就こうとしている牧師の志がある人でさえも、「人を助ける」という視点をなくしてしまうのです。これは、目的を持ってしまうと、それだけにフォーカスしてしまう人間の非注意性盲目というバイアスです。どんなに優れた人でも、タスクランナーになってしまい、本来の目的を見失ってしまうのです。
タスクランナーは質が良いものができない
時間を気にして作業をしていると、時間に囚われ、自分の力を100%出すことができません。「時間に余裕を持っていればできるのでは?」と思いがちですが、先程ご紹介したように、時間を基軸に考えると現在バイアスが働きます。
結果的に自分の100%のものを出すことも、成長してさらに良いものを出そうとすることもしなくなります。
合格していない製品がローンチされる
本来は合格しなければならないのに、合格しないでローンチして、結果的に炎上しているケースをたまに見かけます。そういう案件は、テスト体質でないマインドの人たちが多く在籍しているプロジェクトチームで起こります。危険なのは、テストをしたとしても、テスト自体を上手にやろうと思い、本来のテストをしていないことです。
本来のテストをして不合格であれば、予定の納期を押したとしても合格になってからローンチする。それが時間に囚われていないチームの動きです。
つまり、不合格の製品がローンチされるのも、時間を基軸に考えてしまっています。時間を基軸にすると、結果的に良いものではなく、現在バイアスで先延ばしして、効率が悪い仕事生活をしてしまいます。時間で動いてしまっていることが、日本の生産性を低くしているだと私は考えています。
時間の見積もりも大切
もちろん、時間の見積もりは大切です。でも、どうでしょうか?ご自身の作業で思った時間より早くできることもあれば、思った以上に時間がかかってしまうことはないでしょうか?たとえ、同じ様な作業でも、体調や気分によって、はかどり方も変わるはずです。
自分との付き合いを客観的に行い、また同じ作業を繰り替し行うことで自然と時間の見積もりはできるようになります。ですので、時間の見積もりは、今、(今日)行うものだけを予測し、毎日作業量を確認して進めていければ良いのです。このアジャイル方法をとっていれば、急な要件や変更もすぐに対応できるメリットもあります。
スクラムにガントチャートはいらない
チーム内で意識統一をしたくなり、予定を組むことがあります。もちろん、タイミングがあるのでスケジュールを組みたいと考えてしまいますが、常に行動し、連絡し合うことでスケジュールを組まなくても行き疎通を取ることができます。スケジュールを組んだ時点でタスクランナーのバイアスにかかってしまうことを覚えておきましょう。
アウトカムにこだわろう

アウトカム、成果や結果にこだわるようになると、良いことが多くあります。視点が変わり目標が変わるのですから、良いものが出るに決まっています。
これはビジネスではかなり有効なことです。日本では競合がやっているから、失敗しなくない、ファーストペンギンになるリスクを避け、2番煎じで導入することが多くありますが、同じようなサービスやプロダクトは、ユーザーからすると、どれも同じなので、どれでもよくなります。
アウトカムマインドは、良い製品、サービスを作り上げていくためユーザーに飽きられない唯一無二の存在になりやすいのです。
スクラムもOKRも視点やマインドから
スクラムやOKRの書籍をいくつか読んだのですが、中には、カタチから入っていくものと、その本質が書かれたものがあります。どれが良い悪いということではないですが、形骸化しやすいから注意と記載していながら、読み手によっては形骸化しやすい書き方をしている書籍が存在しています。
フレームワークは、その視点や思考をカタチ化したものですが、なぜか、そのやり方、方法論自体にフォーカスしてしまい、重要な考え方を学ばず落としてしまうことがあります。
これは、UX業界のジャーニーマップにも通じることです。同じことをしていても、人によって異なるのは、医師、料理、教育などのアナログだけのものではありません。デジタルでの製品も人が作り出すものなのでまったく同じです。
同じ作業をしても差がでるのは、視点や思考(マインド)です。ぜひ、時間に囚われず、本来の仕事の目的を達成する方法を学びましょう。それが本来のスクラムやOKRなのですから。
仕事方法や思考を一気に変えるのは難しい
毎日行っている仕事方法を、180度いきなり変えるのは難しいです。スクラムマスターが日本に多いのに、スクラムが現場に浸透していないのは、思考が簡単に変わらないということの現れと、導入の仕方が間違っているケースがあります。
知識だけでは現場への導入は難しく、スポーツと同じで訓練が必要で、少しづつの変化になります。そして、時に、自分のプレーを客観視したり、スポーツで言えば、フォーム(思考)を変えるために理論的な理解が必要です。
UX DAYS TOKYOのスタッフには、このような実践を活動の中で身につけていただいています。興味のあるPDMやUXerはぜひエントリーしてください。ご自身の動き次第では、きっと、優れた視点と思考が身につきます。そして、客観的アドバイスや理論で思考を整えたい企業様は、コンサルティングとして仕事でも受付しております。(笑)