2021年12月14日に「認知バイアス 心に潜むふしぎな働き」のUX読書会を開催しました。
認知バイアスとは、心理学・社会学の中で見られる、ヒトの思い込みや考えの偏りです。UX DAYS TOKYOでは、認知バイアスに関わる記事をたくさん公開しています。なぜなら、認知バイアスによってヒトの行動原因を分析でき、UX設計に活かせるからです。UX設計は、プロダクトやそのユーザーごとに解決方法が変わりますが、認知バイアスはヒトに共通する部分であるため、ユーザーを理解する基礎になります。
認知バイアスを知らずに、フレームワークだけでUXを設計するのは、釣りをするのに、魚の習性を知らず、釣竿の使い方だけ知っているのと同じです。魚が好む餌や場所を知らずに、「釣れないのは、釣竿のせいだ」と考えてしまうと、魚は釣れるようになりません。
9つの認知バイアス
書籍では、以下の9つの認知バイアスについて紹介されています。UX DAYS TOKYOスタッフなら知っているバイアスも多く登場していましたが、この書籍ならではの解説により、スタッフでも更に理解が深まる読書会になりました。
- 注意と記憶のバイアス(非注意性盲目)
- リスク認知のバイアス(利用可能性ヒューリスティック)
- 概念のバイアス(代表性ヒューリスティック)
- 思考のバイアス(確証バイアス/ホーン効果)
- 自己決定のバイアス(単純接触効果)
- 言語のバイアス
- 創造のバイアス
- 共同のバイアス(同調、バンドワゴン効果、社会的証明)
- 認知バイアスのバイアス(システム1システム2の思考モード)
その中でも、私が印象に残った第3章「概念のバイアス」について記載します。
目立った特徴が、偏ったイメージを生む
書籍の第3章「概念のバイアス」では、”人に対して抱くイメージの偏りは、目立った特徴に起こりやすい。”と解説されています。
これに対し、参加された方から「大阪のおばちゃんは、声が大きくて、派手なイメージのバイアスがある」という話があがりました。実際に大阪に移り住んでみて、そのようなおばちゃんは、思っていたより少ないことにびっくりしたそうです。
「大阪のおばちゃん」は、テレビでもヒョウ柄を着ているなど、よく誇張されて目立つため、強い印象として記憶されます。記憶にある印象が、大阪の中年女性の代表的なイメージを作り上げ、実際の大阪を知らない人は、代表的な大阪のおばちゃんが大阪にたくさんいると勘違いしてしまいます。
また、「心理学的本質主義」についても紹介されていました。それは、ヒョウ柄の服を着たおばさんが、本当は大人しい人だったとしても、「今日だけ猫を被っているのだろう。」「今日は身体の調子が悪いから、大人しいだけに違いない。」など、実際の人に会っても、偏ったイメージを持ち続けるということでした。
認知バイアスは、相互に関連している
バイアスについてさらに理解が深まったのは、これらのバイアスが独立して動くのではなく、相互で関連して作用するということです。
「リスク認知のバイアス」では、”メディアが報道する刺激的な事件は、発生頻度が高い”、と錯覚する利用可能性バイアスが紹介されています。参加された方の感想には、「メディアだけでなく、自分の関心ごとも印象的なので、頻度を錯覚する」という話がありました。この事象はバーダー・マインホフ現象と呼ばれ、注意と記憶のバイアスにあった「選択的注意」や、思考のバイアスにあった「確証バイアス」が関連していると言われています。
多くのバイアスを学ぶことで、バイアス同士の関連性がわかるようになり、認知の仕組みや要因について、より深く知ることができると感じました。
認知バイアスとブランドの関わりに気づけた
書籍を読んで、認知バイアスは、プロダクトや企業のブランドにも大きく関わってくると気づきました。
悪いUXは、企業ブランドの評価を下げる
第4章で紹介された「思考のバイアス」には、ビジネスマナーの中で、”第一印象が大事”と言われるのは、はじめて感じる印象は正しいと思い込む「確証バイアス」が理由とあります。最初に悪い印象を受けると、自分が持った印象に確証を持ちたくなり、相手の悪いところに注意が向きます。たとえ、相手が良いことをしていたとしても、気づきにくくなる非注意性盲目に陥ります。
第一印象が大事なのは、プロダクトも同じです。ユーザーが最初にプロダクトを使って悪い体験をすると、確証バイアスによってどんどん悪い印象を強めていきます。ユーザーが、使うことを辞めてしまうだけでなく、口コミで他のユーザーに悪い噂が広まってしまうこともありえます。
会社の同僚は、UberEatsを使ったことがありませんでしたが、配送ミスで、他人が頼んだ料理が玄関前に置かれ、処分しなければならない手間がかかったそうです。最初にこの嫌な体験をしてから、UberEatsの悪い噂ばかり周囲に話すようになりました。
認知バイアスを知り、ユーザーに寄り添ったUX設計を行う
認知バイアスを知ることで、ユーザーのインサイトを含めたプロダクト設計が可能になります。
書籍のはじめに紹介された「注意と記憶のバイアス」の中では、ヒトの記憶は曖昧で、簡単に改変されてしまうと紹介されています。自動車事故を目撃した人に、「衝突」ではなく、「激突」という言葉に置き換えて質問するだけで、実際よりも悲惨な目撃談をする実験結果が出たそうです。
記憶の曖昧さを考慮したGoogle検索
Google検索は、ユーザーの記憶が曖昧であることを考慮して設計されています。検索ワードが間違っていても、結果がない画面が表示されるのではなく、類似する言葉で検索して表示してくれます。
ユーザー心理を考慮しない設計は、ストレスを与える
「ユーザーは正しく入れるはず」、「ユーザーが覚えていることが前提」と考えてプロダクトが開発されることがありますが、ユーザー心理を考慮していないと言えます。
あるサイトにログインするのに、パスワードを何回か間違えたらロックされてしまい、再発行に2週間かかったことがありました。記憶が曖昧なことを考慮したUX設計ができていれば、すぐにパスワードが再発行され、待たされることはありません。
「ヒトは愚か」と考えてはいけない
書籍の最後である「認知バイアスのバイアス」では、「ヒトは愚か」というバイアスを持つことがあります。そのような考えは、プロダクトのUIが悪くてユーザーがミスした時でも、ユーザーのせいにします。バイアスを逆手にとって、ユーザーを騙す機能を作ることもあるでしょう。これらの行為は、ユーザーの信頼を失い、ブランドを失います。
「バイアスは良くないもの」という視点から、「バイアスがあることを認識して、UX設計をする」視点に変わったという声もありました。バイアスを悪と捉えず、ユーザーに寄り添うUX設計をすることが、ブランドにつながるということを学びました。
「認知バイアス」で気づいた読書会参加のメリット
書籍を読んで、読書会のメリットにまたひとつ気づけたのが、良いアハ体験でした。それは、自分だけで学ぶよりも、読書会に参加する方が、新しい学びや現場でのヒントを思いつきやすいということです。
第7章「創造のバイアス」では、「ひらめき」は、自分の頭にある思い込みを外すことで生まれるとありました。自力でひらめくためには、何度も考えて、新しいアイデアを見つけなければなりません。しかし、読書会であれば、自分の思い込みの外にある意見を聞くことができます。実際に参加された方は、顧客にインタビューするときに、確証バイアスが働いていることに気付き、顧客を誘導しないように気をつけよう、とひらめいたと話していました。
無意識に働いてしまうバイアスに影響されないように行動することはとても困難です。しかし、UX DAYS TOKYOには、読書会やディスカッションで、フィードバックをもらい、意見を聞くことでバイアスに気づく環境があります。そうすることで、考えや行動を良い方向に変えていくことができます。自分の成長できる環境を大切にし、これからも学んでいきたいと思います。